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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

プーチン大統領唯一の空母をシリアに派遣する理由【後篇】 戦力だけでは測れぬ空母外交の圧力

2016-11-10 21:03:52 | 国際・政治
■航空母艦とシーパワーの実像
 海軍力、シーパワーは平時における政治的な役割を有する、ゴルシコフの海軍戦略や古典マハン海上権力行使論にも記されています。

 ロシアの空母はアメリカ海軍の航空母艦と比較するならば、艦載機の運用能力は艦載機の搭載数で半分以下、発着能力は同時発着能力が限られるためさらに低く、実際、比較した場合非常に限られたものです、が、そのロシアと同程度の航空母艦を保有する海軍も世界では非常に少なく、実際、フランスの原子力空母シャルルドゴールしか挙げられません。

 軽空母、と言いますと、固定翼航空機を運用、イタリアは軽空母ジュゼペガリバルディと戦力投射艦カブール、スペインは戦力投射艦ファンカルロス一世を運用していますが艦載機はハリアー攻撃機を若干数運用するのみ、ブラジルは戦闘機を運用可能な空母サンパウロをフランスより購入しましたが竣工から半世紀を経て現用航空機を実質運用不可能です。

 シリア沖へロシアの空母が展開する、艦隊が展開する能力を有しているという事は、欧州地域、ロシアの中東進出へ大きな懸念を有している諸国への大きな圧力となりますし、ロシア海軍の艦隊は規模が非常に大きなものであり、航空母艦を攻撃する事はそのまま全面戦争へ展開する可能性も決意を持たせるもの、そのポテンシャルは空軍機の比ではない。

 航空母艦、この地域へ大きな戦力をシリア内戦及びイラクISIL攻撃へ投入するNATO諸国は、総力を挙げればロシア部隊を排除する事は不可能ではありません、が自国本土が攻撃されている状況ならば兎も角として、対外地域への軍事圧力や勢力拡大などに対し妨害する、とは中々考えられず、ロシアの中東戦略への決意を大きく示す事も出来るものです。

 一方でアドミラルクズネツォフの中東展開は、アドミラルクズネツォフと同型の中国海軍空母遼寧にも同様の作戦対応能力がある事を示します、最も脅威であるP-700ミサイルを搭載していない部分と軽量のMiG-29戦闘機の運用能力は遼寧にはありませんが、示威行動としての航空母艦展開は、アジア地域へ大きな影響を与える事は必至というべきでしょう。

 欧州諸国のアドミラルクズネツォフ対応能力以上に、アジア地域において遼寧の航空戦力に対抗できる海軍力は海上自衛隊とインド海軍、補助的にオーストラリア海軍や韓国海軍程度しかありません、現時点でシリア沖のロシア海軍動静は対岸の火事程度ではありますが、アドミラルクズネツォフと同型の中国海軍空母遼寧の存在を踏まえますと話は別です。

 航空母艦による海軍力の誇示ですが、相応の部隊を展開させこちら側から友好を強調する事で受け流す事は可能です。過去、日露戦争後にアメリカが同様のホワイトフリート世界一周航海を実施した際、連合艦隊は歓待し対応しました、遠からず東シナ海や南シナ海、四国沖の太平洋等において日常化する可能性があり、関心を以て視てゆくべきと云えます。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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