北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

D-Dayの衝撃!ドイツ駐留米軍9500名削減をトランプ大統領表明,東欧防衛の基盤へ衝撃

2020-06-17 20:05:58 | 国際・政治
■米大統領選下に世界揺るがす
 ドイツ駐留米軍削減。アメリカ大統領選が始まる中、再選を目指すトランプ大統領は前の大統領選以来の世界を揺るがす舌戦を始めました。

 在欧米軍、このなかで在独米軍は3万4500名が駐留していますが、この中流部隊について9500名を撤退させる。トランプ大統領の発言が6月6日、世界で一斉に報道されました。6月6日といえば1944年同日に連合軍がノルマンディに上陸したDデイにあたりますが、2020年の同日は、まさに寝耳に水という形で大統領発言がドイツを揺るがした構図です。

 ドイツ連邦軍は冷戦後、縮小に次ぐ縮小を続け、既にドイツ連邦陸軍は6万6000名、陸上自衛隊の半分程度まで削減され、レオパルド2主力戦車も225両まで削減、自衛隊の90式戦車よりも少なくなっています。国防予算の大半はムンゴ空挺装甲車やボクサー重装輪装甲車など、長く続いたアフガニスタンISAF派遣用の各種装備などに費やされ消えました。

 ドイツのシュトゥッツガルドに司令部を置く在欧米軍は欧州全域とロシア及びトルコや北極圏のグリーンランドにおけるアメリカ国益へ資する同盟国との協力や地域安定化を任務とする部隊で、主力は主としてドイツとイギリス及びイタリアに駐留し、オランダやベルギーとトルコへも駐留しています。そして米軍司令官はNATOの重責も同時に担っている。

 欧州連合軍最高司令官SACEUR,在欧米軍司令官は伝統的にアメリカ四軍の大将のポストとなっていますが、同時に在欧米軍司令官はNATO軍事機構における最高司令官である欧州連合軍最高司令官を務めることとなっています。伝統的に副司令官はドイツ軍将官が就き、冷戦時代は西ドイツへ侵攻する蓋然性を持つワルシャワ条約機構軍へ備えていました。

 INF中距離核戦力全廃条約枠組み崩壊。トランプ大統領により不平等条約として破棄された条約もドイツへはアメリカ依存を高めたい事情となります。550kmから4500kmまでの地上発射ミサイルを禁じた枠組みはドイツに天恵でしたが、これによりロシア軍はドイツ中枢部を攻撃できる通常兵器を整備することが可能となり、アメリカ依存度は更に高まる。

 NATO軍事部門の最高司令官を担う米軍、その主力というべきドイツ駐留米軍が突如その三割近くを政治合意なしに撤退を表明する、このことだけでも驚きなのですが、もう一つ、ドイツの駐留米軍編成を考えますと、衝撃はドイツ一国にとどまらず欧州全体の問題であることに気づかされます。それはドイツ駐留のアメリカ戦闘部隊はそれほど多くない為に。

 第5軍団。アメリカ第1機甲師団と第1歩兵師団、共に重師団として各戦車300両近くを装備していた、あの第5軍団は既に欧州にありません、在独アメリカ陸軍の戦闘部隊はフィゼックの第2騎兵連隊とギーベルシュタット第12陸軍航空旅団のみとなっており、このほかにガイザースラウテルンの防空砲兵、残る陸軍部隊は後方支援部隊であるのですね。

 ストライカー旅団戦闘団、第2騎兵連隊は名称こそ連隊ですが編成はストライカー旅団戦闘団となっています、ストライカー装輪装甲車を300両以上持つ。そして防空砲兵部隊は第10ミサイル防衛集団であり、現在ドイツにはペトリオットミサイルやホークミサイル、ローランドミサイルを廃止しており、ドイツ本土防空に非常に重要な部隊となっています。

 在欧空軍司令部もドイツにあります、ドイツのラムシュタイン基地に司令部が置かれており、ドイツ国内にはシュパンダーレム基地へF-16戦闘機を運用する第52戦闘航空団が、ラムシュタイン基地には第86輸送航空団がC-130輸送機などを展開します。在欧空軍はイギリスのレイクンヒース基地にF-15戦闘機やF-15E戦闘爆撃機などが展開していますが。

 ドイツ政府の驚きは、9500名も削るとして、どこを削るのか、ということです。ストライカー旅団戦闘団は3900名ですので、削る単位が不明確です。そして規模でわかる通りドイツ駐留の米軍部隊は後方支援部隊が主力であり、第21戦域支援集団、隷下に戦闘支援旅団や全般支援旅団など6個旅団を持つ、軍団規模の戦闘を支援可能な部隊も含まれています。

 戦闘支援部隊や後方支援部隊は、有事の際にアメリカ本土から欧州へ派遣される大規模な増援部隊の受け皿となる部隊です、この部隊に撤退されてしまっては、ドイツは有事の際にアメリカ軍へどこまで依存できるかが未知数となり、そしてポーランドなど、ほかのアメリカ同盟国にとってもロシアからの防衛へ死活問題となっていることは言うまでもない。

 ポーランドのマテウシュモラウィエツキ首相はアメリカ政府にドイツから撤収させる米軍部隊をポーランド駐留へ振り向ける要請を示しています。ただ、戦闘支援部隊がなければ戦闘部隊を維持できないことは自明ながら、ポーランドにはラムシュタイン基地のような軍団規模の兵站を担える航空基地とその維持費用という受け皿がないことも、また事実だ。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする