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【日曜特集】第7師団創設56周年記念行事(13)第73戦車連隊と第71戦車連隊の90式戦車(2011-10-09)

2022-07-17 20:01:28 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■90式戦車の観閲行進
 90式戦車もこれだけ揃うと迫力を通り越した印象ですが日本という極東の自由主義拠点を北方脅威から守る為には必要なリアリズムの具現化でもある。

 第71戦車連隊に第72戦車連隊と第73戦車連隊、戦車五個中隊を基幹とする強力な戦車連隊で、これだけの90式戦車が一斉に高速で観閲行進に望みますと、確かに地面が振動して共鳴しています。北海道の抑止力、東千歳の機甲師団は当時も今も強靭と精強を誇る。

 ロシアの脅威が再燃する中ではありますが、機甲師団はロシアがウクライナ侵攻に際し世界を恫喝したように、核兵器に対する抑止力ともなります。もちろん戦略核に対しての抑止力にはなりません、しかし、相手に戦術核兵器を使用させるのを躊躇させる効果がある。

 ウクライナ戦争に際しロシアの脅威を認識させられるとともに核兵器の脅威、三月と四月に掛けては戦術核使用が真剣なリスクとして留意されていましたし、戦略核が使用される可能性、熱核戦争の懸念も、低いとはいえゼロではない現実を突き付けられたわけですが。

 核兵器使用への抑止力、機甲師団は歩兵部隊に対し機動力と防御力が高く、戦術核兵器が使用される兆候があっても迅速に散開し直撃を避ける事が出来ますし、戦術核攻撃を受けた直後に敵が戦果拡張へ進んだとしても再度機動力を活かして再集結することが出来る。

 機甲師団はNBC防護能力が高く、放射性降下物の汚染地域を迅速に踏破し、必要ならば放射性汚染地域においても戦闘が可能です、これは装甲化された普通科部隊にも当てはまり、しかし自動車化された普通科部隊や掩砲所以外の陣地に籠る部隊には不可能であるのです。

 ヘリボーン部隊、ただし実際のところ陸上自衛隊も手を拱いていた訳ではなく、核戦争に際しては核汚染地域を飛び越せるヘリボーン部隊を早くから重視しており、特に長大な日本列島の防衛には機甲部隊よりも軽歩兵部隊とヘリボーン部隊を重点整備してきました。

 ただ、冷戦後、ミサイル防衛や水陸機動に国際平和協力とサイバー戦など相次ぐ新防衛任務の追加を、既存の予算と人員とを遣り繰りし、スクラップ&ビルドで対応し、戦車とともにヘリコプター部隊もかなり縮小しています、大丈夫なのか、駄目では、と思うのです。

 国産の90式戦車は、2020年代の視点で見ても第三世代戦車として高い性能が維持されています、1500hpエンジンに複合装甲と120mm滑腔砲というものが第三世代戦車の一つの定義、攻撃力と機動力に防御力を両立させた点が第三世代戦車の一つの定義でした。

 第三世代戦車としてみた場合90式戦車は、火器管制装置が突出して性能が高く、メカトロニクスやベトロニクスという視点で、目標を砲手がロックオンし追尾する目標自動追尾装置、車長の独立照準装置と優先照準機能、更に自動装填装置による高い攻撃力があります。

 打撃力を重視した90式戦車は、2000年代に入ると、データリンク能力の不備という問題が指摘されていましたが、これも広帯域無線機コータムを2010年代から順次追加しており、このコータムの全自衛隊への配備は地味ながら物凄い多額の予算を投じた、成果といえた。

 現用戦車全てと比較した場合、90式戦車は絶対的な優勢は確証されないものの相対的な優勢は保持していまして、よく指摘されるのが砲塔中央部より後ろの装甲防御力なのですが、ここを貫徹されても自動装填装置があるだけで人的被害はありません、この点配慮がある。

 砲塔正面、強いて言うならば90式戦車の砲塔正面は120mm砲弾DM-33の同一箇所への複数命中を想定しているとのことですが、昨今は威力が大幅に増大したDM-53などの装備があり、設計当初よりも強力な砲弾が存在し、この点は、改良余地があるのかもしれない。

 ただ、90式戦車の弱点として筆頭に挙げたいのは、数が揃わなかった点です。本州の戦車部隊は2010年代から2020年代にかけ74式戦車を配備したまま廃止される部隊が多く、なんのために90式戦車を国産したのか、分らない状況となっています。これが弱点だ。

 90式戦車について、例えば生産費用を抑えるべく、維持するものは1500hpのディーゼルエンジンと複合装甲に120mm滑腔砲と熱線暗視装置、つまり第三世代戦車の性能に特化した装備としていたならば、つまり性能よりも年産50両や70両を量産していたらどうか。

 74式戦車並みの年産50両や70両をという取得性を重視していたら、どうだったでしょうか、戦車の見方が変わった可能性もある。もちろん、その為には防衛予算をという視点もあるのでしょうが、90式戦車は高性能を追求しすぎていたような印象もあるのでは、と。

 90式戦車の性能は知られるほどに、開発当初のレオパルド2もどき、という批判は消えてゆくのですが、生産数が74式戦車の873両にたいして如何にも少なすぎるのは否定できません、そして今になり74式戦車を評価する声に信頼性、というものが挙げられますと。

 90式戦車もそれならば無理なハイテクを排してローテクに徹していれば、もう少しは、と思うのですね。レオパルド2もどきと揶揄された90式戦車ですが、レオパルド2とは砲塔形状がかなり違います、そして自動装填装置や目標自動追尾装置という外見にない長所も。

 レオパルド2は特に砲塔正面装甲に埋め込んだ照準装置が貫徹されやすい弱点部位といわれていましたので、しかしレオパルド2A4型まで放置され、A5改修から楔形装甲と照準装置の位置変更で対応しています、自動装填装置という意味ではルクレルク戦車にかさなる。

 ルクレルク戦車、それならばルクレルクを自衛隊が買えばよいという反論もあるようですが、ルクレルクの配備開始は1994年、日本がライセンス生産を行うとすれば、評価試験を経ても2000年前後となり、そんな時代まで74式を量産するのはナンセンス生産でしょう。

 メルカヴァMk4,目標自動追尾装置も日本以外で採用したのはメルカヴァMk4くらいであり、あとはメルカヴァMk3BIZが試験的に採用したくらいでしょうか、要するに10年は進んでいたといえるのが90式戦車ではあったのですが、高性能を突き詰めすぎたともいえる。

 高性能、この視点は、線状に入る事が出来る戦車には限りがあるのです、これは云うならばサッカー部や野球部で二線級だけの人員で200名集めたチームよりも、その五分の一でもいいので第一線級の選手を40名集めたチームの方が同じルールでは強い、と重なります。

 音威子府や中川に上川や留萌といった当時の想定戦場は、数を投入するには限度があり、質的な優位を求めるのも自然だったのかもしれません、ただ、開発当時には900両程度の量産、全国への配備は念頭に置いていた筈でして、高価というのは欠点とさえいえますね。

 自動装填装置ではなく手動装填を用い、車長用独立照準装置も省いて昔ながらの様に車長は双眼鏡と共に戦闘指揮し、装填手の同乗に併せて砲塔上の機銃をもう一丁追加、そんな90式戦車であっても、もしくは冷戦終結を受けて安価型の91式戦車としても良かった。

 しかし、高性能すぎるので安価な量産型を全戦車部隊へ、こうした理念はソ連崩壊と共に1990年制式化の90式戦車が2022年までロシア軍が実際には上陸しなかったからこそ、その抑止力の機能が在った事を無視した後知恵故の平和ボケ、といわるかもしれないような論理ですがね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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