京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

『お家さん』

2008年11月02日 | こんな本も読んでみた
『お家さん』玉岡かおる著 (上巻)

最初の結婚に失敗し、鈴木岩次治朗と再婚のために神戸に嫁ぐ。
夫が始めた鈴木商店を夫亡きあと、「勝負師感覚」と「ブレーキ役」、両輪の番頭の働きを得、日本一の商社に育て上げていく。実在の〈のれんの後ろですべてを動かした女〉の物語。

よねは言う。
「自分が働いた形跡は、どうせこうして消えていく。本店も、大里も。やはり自分の務めは、そうやってまぼろしのように手にしては消えていく商売(ビジネス)という潮流に、定かな位置を示して進む船の船長となることなのだろう。」

毎朝早く起きて神棚に手を合わせ、家内をきれいに掃き清めみんなの安全と健康を祈る。自分の役割、をわきまえているのだ。
いつの世も、何のために働くか、目標、大きな大義名分がいることもある。
あそこからいつも私達を見ていてくださる、わかっていて下さると思えるのだ。
そう思えればこそ、あの方のためならと命をかけても働くというものだろう。
自分が生きていく目的のような存在。「お家さん」はその象徴なだという。

『ある日、直吉がこう言った。
「今日よりは、こないよばしてもろてよろしおますか?」
訊き返す間もなかった、彼はそのまま膝で三歩下がって、頭を下げた。
「おかみさん、ではのうて、“お家さん”と」
……世間にそれと認められ、働く者たちのよりどころたる「家」を構えて、どこに逃げ隠れもできない商家の女主人にのみ許される呼び名である。…』、とある。

よかれと勧めてきた自分の価値観は自分にも他人にも厳しい。
母としてのよねは、息子、娘と思って育てた珠喜も手から離すことになる。
お家さんである自分が示して来た道。だが、若い者には惹かれてやまない場所があったことを知る。決して母の傍が嫌と言うだけのことではないのだが。
台湾へ行ってしまった珠喜を思う母・よねの胸の内…

今後、さらなる激動の時代の中で、働く者の精神的支柱としてどう役回りを果たしていくのだろう。母としても。逃げられない世界に身を置き、感傷に浸りながらも自らの生きる道を自覚し、常に自らを発見していく。そうした心に触れながらよねさんの生きざまを味わえることが魅力的だ。よねの器の大きさ…。
上巻を終えて。


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2 コメント

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お家さん (matsu)
2008-11-02 21:45:44
著者も本の名前も初めてお目にかかります。

読まないで勝手なことも言えませんが、映画かTVドラマにでもなりそうですね。是非、手に入れたいと思います。

keiさん、突然ですが、今ラミレスがサヨナラホームランを打ちました。試合終了。劇的な9回裏でした。
柄にもなく興奮しました。今日はこの辺で。
返信する
さて、明日は… (kei)
2008-11-02 23:58:08
見ました見ましたよ~。ご主人もお喜びでしょうね!
こういうスカッとする勝ち方は気持ちい~~~いです。逆ではことばも出ませんが。
返信する

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