ステージ上に置かれた 被爆ピアノ(アップライトピアノ)の側面は爆風で飛び散ったガラス片などが突き刺さった跡が痛々しかった。しかし、ピアノの名手・豊口健さんの手による演奏によって力強く札幌の街に響いた。
※ 会場前に掲出された被爆ピアノコンサートのポスターです。
10月23日(日)夜、ホテルロイトン札幌において「北海道高校生平和大使派遣10周年記念事業」として「被爆ピアノコンサート ~あなたにとって平和とは~」が開催され、参加することができた。
高校生平和大使とは、そもそもは1998年に被爆地・長崎から始まったそうだが、核兵器の廃絶と平和な世界の実現を目指し、高校生を「平和大使」として国連欧州本部に派遣する運動だそうだが、北海道では2012年から派遣を初めて今年が10周年になることを祈念して、高校生たち自らが「被爆ピアノコンサート」を企画したそうだ。
※ ステージ上に置かれた広島から遠路運ばれてきた矢川氏が預かっているみさこさんの被爆ピアノです。
コンサートの内容は多岐にわたっていた。その内容を記すと、各関係者の挨拶は除いて、◆被爆ピアノについての対談、◆詩の朗読、◆被爆ピアノコンサート、◆高校生からのメッセージ動画、◆札幌日大高校吹奏楽部の演奏、◆私立札幌旭丘高校合唱部の合唱、と盛り沢山だった。
◆被爆ピアノについての対談では、ピアノ調律師でご自身が被爆二世である矢川光則さん(広島市でピアノ工房経営)が被爆ピアノとともに会場に見えられ、高校生に答える形で対談が行われた。矢川さんによると爆心地から概ね3キロ以内で被爆し、現存しているピアノを「被爆ピアノ」としているとのことだが、現在全国に11台が現存しており、そのうち7台を矢川さんの工房で預かってするそうだ。そのピアノは矢川さんが工房横に「被爆ピアノ資料館」を造って大切に保管しているとのことだった。
※ 高校生の二人と対談するピアノ工房を経営する調律師の矢川光則さんです。
今回、持ち込まれたのは「みさこさんのピアノ」と称して昭和7(1932)年製のアップライトピアノで、爆心地から1.8キロにあったみさこさんの家で被爆したそうだ。みさこさんの家はコンクリート製だったこともあり、壊れずに残ったという。外見は前述したとおりガラス片などが突き刺さった跡が痛々しかったが、矢川さんによると217本あるピアノ線のうち取り替えたのは僅か4本だけであると話された。対談の後のコンサートで豊口健さんが演奏されたが、やはり時代を感じさせる音色のところもあったが、十分にコンサートの演奏に耐えられる音だった。
続いての◆詩の朗読では、高校生の実行委員の一人(女生徒)が2編の詩を豊口さんのピアノ演奏をバックに朗読した。2編の詩のうち特に林幸子作「ヒロシマの空」は胸に迫る内容だった。
※ 豊口健さんのピアノ伴奏で詩の朗読をする女子高校生です。
本イベントのメインである◆被爆ピアノコンサートは、豊口健さんのピアノ伴奏にのせて道内外で活躍されている歌手・高野雅絵さんが6曲の歌を披露してくれた。その題名は①「原爆を許すまじ」、②「一本のえんぴつ」、③「サトウキビ畑」、④「ハナミズキ」、⑤「満月の夕べ」、⑥「風に吹かれて」、と硬軟織り交ぜたものだったが、いずれも直接平和を訴えるもの、あるいは遠回しに平和な世界を望むものと、考えられた選曲だった。
※ 艶やかな歌声を響かせた高野雅絵さんです。
※ 伴奏する豊口健さんの姿は私の席からは後ろ姿しか写せませんでした。
そして◆高校生からのメッセージ動画は、全国の高校生に「あなたにとって平和とは」との問いに、大上段に構えるのではなく、日常の小さなことに “平和” を感じていると答える現代の高校生たちの率直なメッセージが共感を呼んだ。なお、このメッセージが流れる中、北星学園女子高校の音楽科の生徒が代わる代わる被爆ピアノで演奏したのも良い企画だった。
※ 高校の音楽科の生徒も被爆ピアノを演奏する機会を得られました。
最後は、◆札幌日大高校吹奏楽部の演奏と◆私立札幌旭丘高校合唱部の合唱で締め括った「被爆ピアノコンサート」だったが、高校生たちが主体となってこうした催しを主体的に企画・実行したところに本イベントの大きな意義があったように思う。こうした高校生の活動を後方支援している関係各機関の方々に感謝するとともに、改めて未来を担う高校生たちが世界の平和に積極的に寄与してほしいと心から願ったイベントだった。
※ 私の席からは遠かった札幌日大高校吹奏楽部の演奏の様子です。
※ ステージいっぱいに若々しい歌声を響かせた札幌市立旭丘高校合唱部の皆さんです。