救急医療を長くやっていると、患者さんの目の前で使ってはいけない言葉があるのに気づく。特に交通事故の当事者全員が搬送されると面倒くさい。何人も問診していると、どっちがぶつかってきただとか、自分がぶつけられただとかでその行為の主体が明らかでないことが多いのだ。各々が「自分こそは被害者」だと思っていることが多く、こちらも「~されたのですね」という受身の言葉を用いてしまうことで、複数いる傷病者を、無意識のうちに加害者か被害者に頭の中で区分けしてしまっていることがあるのだ。これは危険である。過失割合もあるしどちらが加害者か被害者なのかは我々には決める権利はない。患者の言動に振り回されず、きっちり怪我の診断や治療だけに専念するべきであろう。したがって患者さんとの会話の中で被害者、加害者という単語は禁句なのである。