机の引き出しに財布を入れておいた場合、財布をしまったことは憶えているがどこに入れたのかを忘れるのは「物忘れ」であり、自分が机に入れたという事実を忘れてしまうのが「認知症」である。したがって認知症の場合、財布が見当たらないので「財布を盗まれた」と騒ぎになるのである。また忘れたという事実に気がつかないので「取り繕い」をすることもある。例えば「今日はお昼に何を食べましたか?」と聞くと「いやぁ~残り物ですよ。たいしたものは食べていません」と答えたり、あるいは「今日は何曜日ですか?」と聞くと「退職したので毎日が日曜日みたいなものですよ」と答えたりもするそうである。一見、会話がやりとりされているので異常はないと勘違いしてしまうのである。自分の場合、1年弱もこのような会話だったので患者さんの認知症に気がつかなかったのである(ヘボ医者の言い訳だが)。それにしても家人が付き添ってこない認知症の患者さんには要注意である。開業して分かったが、ご家族と一度もお会いしたことがなく、かつ一人で通院してくる認知症の患者さんは結構多いのである。