ところが屋台には大勢の客がおり、焼きながらたこ焼きを経木に包んで忙しく他の客に手渡している。自分はすでに5円玉を手渡して、たこ焼き1個がくるのを楽しみに待っていた。ところがいつまで待ってもこないのである。やがて客は自分しかいなくなったが、店の人は屋台の前に佇む自分の存在に一瞥もくれずにたこ焼きを焼いている。間違いなくこちらの注文を忘れているのである。当時、自分は幼稚園児であった。今なら「たこ焼きまだですか?」と聞くのであろうが、当時の自分には「お金を渡したのに品物をもらっていない」状況の打開策が分からなかった。いつまで待ってもたこ焼きを渡してくれないので、そのうち黙って帰宅したことを今でも覚えている。