津々堂のたわごと日録

爺様のたわごとは果たして世の中で通用するのか?

「使われることのない鍵」

2010-03-08 22:05:56 | 随想
 ’88年版・ベストエッセイ集「思いがけない涙」の中にあるエッセイである。エッセイスト内田英世氏の筆になるものだが、これは今は壊されてないご実家のものだ。ご母堂が一人お住まいになっておられた。

 私も母の形見の鍵を二本守っている。母が使っていた箪笥の鍵である。タンスと書くより箪笥が似合う古いもので、多分東京から帰る時に持ち帰ったものである。昭和28年の大水害で完全に水没したこの箪笥は、出し入れにも困るようにがたがたになったが、母はこれを使いつづけた。二本の鍵は全く使用不可能になって使われることはなかった。亡くなる数年前に転居したが、その際この箪笥は廃棄処分となった。「もう捨てるよ」という母の一言によってであった。母が亡くなった後、わずかばかりの遺品を整理していたら、文箱の中からこの二本の鍵が出てきた。「何故鍵だけ?」という思いがあった。鉄製の鍵は錆が出ていて、手が入れられた気配はない。サンドペーパーで丁寧に錆を落とし、油で拭き上げるとなかなか捨て難い。現在キーホルダーの一部となって、交通安全の御守りにして入る。

 内田氏の「使われることのない鍵」は、父母兄弟や実家への想いに繋がって氏の手元にある。
私の鍵も同様母への想いに繋がっている。二人の息子に一本ずつ残そうかと考えていたが、私がもって母と再会したときに、「文箱に残された鍵」の謎を聞きたいと思っている。
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熊本の「慶安御觸書」全文 1/2

2010-03-08 18:18:50 | 歴史
  熊本史談会では二回にわたり、「慶安御触書」を勉強してきた。偽書だとされ教科書から削除されるともいわれる「慶安御触書」、
  読下し文が国立国会図書館のデジタルライブラリーで見ることができるが、熊本県立図書館蔵の文書とは、漢字・かな文字の使
  い方に随分違いがある。サイトでは全文が紹介されていないようなので、ここに掲載する。

                          慶安御觸書

一、公儀御法度を恐れ、地頭代官の事をおろそかに存せす、扨又名主組頭をば真の親とおもふへき事
一、名主組頭を仕る者、地頭代官の事を大切にそんじ年貢を能くすまし、公儀ご法度を背かす小百姓身
   持を能仕かまつるやうに申渡すへし、扨又手前の身上ならす萬不作法に候らへハ、小百姓ニ公儀
   御用の事申付候而茂侮り不用ものに候之間、身持をよく致し不弁仕らさるやうニ常々心懸申へき
   事
一、名主心得我と中悪者也共無理成儀を不懸申、又仲能者共成共無依怙贔屓小百姓を懇ニ致し、年貢
   割役等の割少茂高下なくロクニ可申渡、扨又小百姓は名主組頭の申付る事違背なく念を入可申事
一、耕作に精を入れ田畑の植様やう同く拵へ様に念を入れ草はへさるやうニ仕るへし。
   草をよく取り節々作りの間へ鍬入を仕候得は作もよく出来取実も多くあるに付、田畑の堺ニ大豆・小
   豆なとうへ、少々たりともつかまつるへき事
一、朝起をいたし朝草を苅り、ひるは田畑耕作に掛り、晩には縄をなひ俵をあみ何にても夫々の仕事、油
   断なく可仕事
一、酒・茶を買呑ミ申す間敷候妻子同前の事
一、里方ハ居屋敷のまはりニ竹木を植え下葉なりとも取り、薪を買ひ候ハぬ様に仕るへき事。
一、萬種物秋初ニ念を入れ、擇り候てよき種を置き申べく候、悪きたねを蒔き候ヘハ作毛あしく候事
一、正月十一日前ニ毎年鍬の先をかけ、鎌をも打なをし、よくきれ候ようニ仕るへし、悪キ鍬ニ而者田畑
   起し候ニ、果敢行(はかゆき)候ハす、鎌もきれかね候ヘハ、同前之事。
一、百姓は肥灰調置候義専一ニ候間、雪隠廣く作り、雨降の時分水入らさるやう仕るべし。
   夫ニ付夫婦かけむかひの者ニ而、馬をも持事ならす、肥ため申儀茂ならさる者は、庭のうちに三尺
   に弐間程ニ掘候而、其中へはきため、又ハ道の芝草をけつり入れせゝなぎの水を流入れ、作ごへ
   を致し、耕作へいれ申へき事。
一、百姓ハ分別もなく末の考もなき者ニ候故、秋ニなり候へ者、米雑穀をむざと妻子ニも喰せ候、いつも
   正月、二月、三月時分の心を持食物を大切ニ仕るへく候ニ付、雑穀専一ニ候間、麦・粟・稗・菜・大
   根、其の外 何にても雑穀を作り、米を多く喰つぶし候ハぬやうニ仕へく候、飢饉の時を存出し候ヘハ、
   大豆の葉、小豆の葉、小角豆(ささげ)の葉、芋の落葉など、 むざと捨候儀は勿体なきことニ候。
一、家主・子共・下人等迄、不断はなるほど疎飯を喰ふへし 但し、田畑起し田を植へ、稲を苅り一入骨
   をり候時分ハ、不断より少し食物をよく仕り、沢山ニくわせ、遣い申へく候。其心付あれハ精を出す者
   ニ候事。
一、何卒いたし、牛馬のよきを持候やうニ仕るへしよき牛馬程こへを多くふむものに候。身上成らさるもの
   ハ不及是非 先ツ斯此の如く心掛可申候 并ニ春中牛馬ニ飼候物を、秋先支度仕るへく候田畑へ
   刈しきなりとも、其外何ごへりとも、よく入り候ヘハ、作りニ取実有之候事。
一、男ハ作を稼き、女房は苧はたをかせき夕なべを仕り、夫婦とも二かせき可申候 然ハみめかたちよき
   女房なりとも、夫の事をおろかに致し、大茶を呑ミ、物参り遊山ずきする女房を離別すべし、去りなが
   ら、子供多く有之可歟、 前簾恩をも得たる女房ならば各別也なり 又みめかたちあしく候とも、夫の
   所帯を大切ニいたす女房をば、いかにもねんごろに仕るへき事。
一、公儀御法度何にても相背かず 中ニも行衛しれざる牢人、郷仲ニかゝへおくへからす夜盗同類又ハ
   公儀御法度を背候いたつら者など、郷中へかくれ居訴人有之而公儀へ召連参り御僉議中相詰候へ
   者殊の外郷中のくたぶれニ候、又ハ名主組頭長ナ百姓并ニ一郷乃惣百姓ににくまれ候者いぬやう
   ニ 物事正直ニ徒らなるこゝろもち申まじき事
一、百姓は、衣類の儀、布木綿より外は帯・衣裏にも仕る間敷事。
一、少は商心もこれ有りて、身上持上ケ候様に仕るべく候。其の子細は、年貢 の為に雑穀を売り候事も、
   又は買ひ候にも、商心なく候得は、人にぬかるる ものに候事。
一、身上成り候者は格別、田畑をも多く持ち申さず、身上なりかね候ものは、 子共多く候はば、人にもく
   れ、又奉公をもいたさせ、年中の口すきのつもり を能々考え申すべき事。
一、屋敷の前の庭を奇麗に致し、南日向を受くべし。 是は稲・麦をこき、大豆 をうち、雑穀を拵へ候時、
   庭悪く候得は土砂まじり候て、売り候事も直段安 く、事の外しつついに、成り候事。
一、作の功成る人に聞き、其の田畑の相応したるたねまき候様に、毎年心かけ 申すべき事 
      附り、しつけミに作候而よき物有り、又作りニしつけミを嫌ふ候作りも有り、
      作に念入候ヘハ、下田も上田も作毛になり候事。
一、所ニ者よるへく候へとも、麦田ニなるへき所をは、少しなりとも見立申へく候、以来ハ連々麦田ニなり
   候へハ、百姓のため大キなる徳分にて一郷麦田を仕立て候へハ、隣郷もその心付きこれあるものに
   候事 
一、春秋灸をいたし煩ひ候ハぬやうニ、常々心かけべし。何程作に精を入度とそんじ候而も、煩候へハ其
   年の作をはつし、身上潰し申者に候間、其心得専一なり、女房子共も同前の事。
一、多葉粉呑申間敷候、是ハ食ニも成らす結句以来煩ニ成者ニ候、其上隙もかけ代物も入り火の用心も
   あしく候、万事ニ損なる者ニ候事
一、年貢を出し候義、反別ニ掛而者壱反ニ付何程、高ニ掛而者壱石ニ何程割付差紙地頭代官よりも出し
   候、左候へハ耕作ニ精を入、よく作り取実多是有れハ、其の身の徳ニ候、あしく候へハ、人しらす身
   上のひけニ候事
一、御年貢皆済の砌、米五升・六升・一斗ニつまり、何とも仕るへきやうなきとき、郷中を借りあるき候へ
   とも、皆済時分たかひニ米これなきよし、かさゞるニよつて米五升・壱斗ニ、子供又ハ牛馬も買れす、
   農道具着物等買んとおもへハ、金子壱分ニて仕立候を五六升ニうるも苦々敷事ニ候、又買物持申さ
   ゝるものハ、高利ニて米をかり候ハゝ、いよいよ失墜なる事ニ候、地頭代官より割付出候ハゝ、其積
   を仕不足ニ付而者まへかと借り候而済すへし、前かとハ借物の利足もやすく買物もおもふまゝなる
   へし、尤納むへき米をもはやく納へし、手前ニ置ほと鼠も喰、盗人・火事其外万事ニ付大なる損ニて
   候、籾をハよくほし候而米二するへし、なまびなれハ砕ケ候而、欠米立候、よくよくこゝろへあるへき
   事
一、身持ちをあしくいたし其年の年貢不足ニ付、たとへハ米を弐俵程貸り、年貢ニ出し、その利分年々積
   り候へハ、五年ニ元利の米十五俵ニなる其時は、身体を潰し妻子を売り我身をもうり、子孫ともニな
   かくくるしむ事ニ候、此儀をよくよくかんかへ身持を可仕候、まへかと米弐俵の時分ハ少しのように存
   じ候へ共、年々之利分積り候へハ如斯ニ候、扨又何卒いたし米を弐俵程もとめ出候へハ、右の利分
   くはへ十年目ニ米百十七俵持候ハゝ百姓もために其有徳なることこれなきや
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