一、或時角入拙者に被申候は其方は大勢咄衆多く候 我等はいか様に申候やと尋被申候 拙者申候御相組衆
用事は不破五郎右衛門は能く請合申候 おまへは物六ヶ敷御請付不被成様に承候と申候へはいかにも
左様に可申候 此間も高瀬善兵衛か三百日の願申候 いかにしても善兵衛が身分の才覺にても調可申候
公儀に申上候ては善兵衛為にならぬ事と思ふて請合不申候 併大勢願候故要人迄は咄置候 御駕の御用
にて源兵衛其方は折々宿にても出合被申候様に承候 拙者なと宿の時参候へは頓て御次に罷出候間其
刻可承と五郎右衛門にも被申候由いか様各両人は外様にては口きくと申由要人もしかられぬ様にと
思ふと見へ候とて笑被申候 神以笑被申候
一、或時文左衛門に申候は大鹽彌五左衛門と御別ていな事と他人も申私も其通に存候 御存知可被成候 大
鹽は度々うそつき勇も薄く申候由申候へはいかにも/\能く存候 此方ゟ扣候へとも近所にて節々参
り前かと御側筒預りたる故咄なと聞たかりついつい参候ゆゑおれに慕うてくる故に外よりは別てと
申も尤に候由高橋彌次兵衛も縁者に成申候
一、横井左平太に御鐡炮十挺御預ヶ被成候節大木織部殿へ被 仰聞候は左平太にケ様と御意の時早々私
所にも参申殊の外難有がり申由被申候へは左平次(ママ)に申聞せ候得十五六年以前に戸越屋敷にて鷹をは
はさみたる犬をひさの下にしき犬引の迷惑せぬよふにと存おれかそはにて寄て見たる事おれ共おし返し
/\三度迄申候 爰を以慥成者と思召由左平太拙者へ申聞涙を流申候 御一言にて命捨ると申はケ様成
る久敷事迄被為思召出候事承候程の者銘々身に引くらへ難有可存事と書置候
一、拙者未御奉公に不罷出候前かと杉生次太夫と申御鷹匠御意に叶御家老中も鷹數寄の時分何もかわゆ
かり被申候由高瀬へ御供に参候砌 殿の御休息のため御茶屋へ御入御膳被召上候内御湯御あかり被
成候時御門前に鴨のすわり御座候由達御耳御湯を捨られ御出被なり次太夫/\と呼候へとも居不申候
御手鷹部屋の錠ねし切御すへ被成御あわせ被成候へは取不申候 御機嫌も彌不宣候處に二三丁向より
頭巾着ぬき入れ手にてそろ/\参候を御目に懸りあれからくるは次太夫かと御意被成御ゆかけ御ぬ
き御腰物を御さし是へつれて参候へと御意の時織部殿其儘立被申候次太夫右方へ近く居被申候 御成
敗可被成候間留めさし可申との心得と承候 織部きけ扨々にくきやつめ成敗と思へ共久敷事を思ひ出
したるは先年戸越にて巣鷹を頂たる時夜白百日程夜も寝す精を出したる事今思ひ出したるは連て行
けと御意被成織部殿偖々難有仕合とて引立被参候由原田小右衛門御駕奉行にて其時具に承申候 何も
御供中是は御成敗と心得見申候處に右之御意承何も涙を流したると咄申候 拙者見申さぬ事成れ共誠に
誠に久敷事被思召出候事有難き事と今も落涙仕候
一、拙者共新知拝領は九月十二日にて候 十六日に舎人殿村井・林・大矢野・拙者四人に銘々手紙にて御用有之
間参候得と申來候 折節角入へ祝振舞に一家参居申所に申來直に参候へは三人は参り拙者を待居被申
候 揃候て罷出候へは各の儀心安何事も用の儀承遣候へと御懇比の御意傳右は前々ゟ心安事に候 傳右
同前に存候由御申吸物にて酒出申候 角入へ参咄候へは悦被申候 老母も参居申候 弾蔵十八九多分覺可
申候 其後江戸用意にて米三石餘にて手つかへ新知被下如斯願申は偖々迷惑併才覺難成候本ゟ拙者は
前前より心安く候間一人参候て具に咄申せと三人申候 尤に存参候て咄申候は今度新知被為拝領四人
共に借銀の儀申上候事別て致迷惑候 先身の上の事に付申上候 私儀は具足持不申候尤馬具は尚以に
て御座候 尤残る三人の内所持仕候も可有御座候 親小身すり切申候て調呉申儀難成亦譲り申と申儀も
無御座尤私たしなみにて持居候哉と伯父共初存ましく候 持たる振仕御供に参り候事私の心に叶不申
候 御知行被下候ては又其通の用意仕候儀本意と奉存候 就夫思召の外に銀高多く可有御座候間御内意
申上候様にと三人共に申上候由申候へはいかにも/\尤に存候 不及申古具足古馬具にても先今度は
申合随分願すくなき様に尤頭々へも拙者へ被申聞候様に具に咄被申様に三人へも可申聞由御申候
偖其年ゟ四つ六分にて御借銀元は御すへ被下候故拙者願ゟは五百目多く渡申候由高坂検校銀子借申
候故拂候得は村井少不足仕候程に拙者五百目村井方へ遣候へ一つに仕暮に遣可申と所望に任せ村井
方へ遣申候 如斯實に願候得は却てあまる程渡り申候 天明らか成る故に候