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桜と絵本と豆乳と

参参参(二十七)額紫陽花の頃

2023年07月13日 | 読書
 買いだめした雑誌を読んでいて、単行本が捗らない。
 しばらくこんな調子か。晴れ間の花が美しい。




『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子  講談社)

 いわゆる時代小説は、何年振りかわからないくらいに久しぶりだ。春頃に著者と講談師神田伯山の対談が雑誌に載っていたので、興味をもった。読み始めたらこれがなかなか面白かった。一幕から五幕まで仇討の主人公を取り巻く人々が「顛末」を語り、終幕で当人が締める形だが一種のミステリ仕立てになっている。義に殉じることが時代劇では中心テーマの一つ。けれどこのストーリーは、ある意味現代的とも思わせる結末だ。まず何よりそれぞれの幕で語る人物の出自、個性が際立ち、語り口もすうっと入ってくる。この作家、なかなか巧みとみた。しかし正直、まだ時代小説のハードルが高いかな。



『俺に似たひと』(平川克美  朝日文庫)

 再読。母親が亡くなり一人残された父親の介護の日々を綴る。確執のあった父に対する著者の感情の揺れや混乱が、淡々と記されている。実際にそういう立場にない者が読んで想像するだけでも、何か漠然とした圧を感じさせる展開である。「誰もが、どこかの地点で親子の関係を逆転させなければならないという事実に遭遇する」…自分にもその時期が近づいているのか。この立場にしてみれば、そこから本当の大人になると言えるかもしれない。人の尊厳とはいったい何か。誰しもが背負っている時代という「故郷」…そこへ帰るなかで見つかる時もあるだろう。それは後ろ向きの考え方か。



『苦手から始める作文教室』(津村記久子  ちくまQブックス)

 「作文は苦手」。昔からそんなことを言う人は多かった。教員同士の会話でもあった。まして以前の中学生・高校生ならメンドクセェの一言だ。情報機器の飛躍的な進歩により多少の状況変化があるのかもしれない。しかし未だにこの手の本が出版されるのだから、やや永遠の課題めいている。ここで取り上げられているのは論文や説明文ではなく、感想や身辺雑記が主だから、SNS全盛の現代では言うなれば、多くの若い子が自己表現という素地は持っていると言えるのではないか。形をほんの少しスライドさせるだけで、「作文」という作業は出来るはずと思わせられた。書き出して、リズムさえつかんでしまえば、もうどこまでも行ける。その意味でリズムをつかむための一冊だ。


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