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「よるのふくらみ」窪美澄

2014年04月30日 21時20分57秒 | 読書(小説/日本)

よるのふくらみ 
「よるのふくらみ」窪美澄

新刊が出たら、必ず読む作家がいる。
窪美澄さんも、そんな1人。

今回は、恋愛小説。
とは言え、商店街や家族といった問題も取り込んで、
小学生の時から、30歳くらいまでのスパンで、成長と供に描かれる。
主な登人物は3人。
兄・圭祐、弟の裕太、近くに住むみひろ。
同じ商店街で育った幼馴染み。

「ふがいない僕は空を見た」のような形式の連作長編。
6編からなり、語り手を変えていく。
同じ出来事でも、角度を変えて見せてくれる。
こんなセリフを言っていたけど、心ではこう思っていたのか、と。

P36
小一時間、圭ちゃんの親戚にビールをついで回っただけなのに、私はひどく疲れていた。
生理のせいだけじゃない。肩にのしかかってきたのだ。結婚をすれば、もれなくついてくる圭ちゃんの家族や親戚、まるでドラマのような嫁と姑の関係や、セックスの先にある妊娠や出産や子育てなんていうものが持つ重さと鋭い輪郭が。


心理描写が秀逸なので退屈しないで読み進めることが出来る。
様々な問題と要素が盛り込まれているので、年齢に応じて楽しめる、と思う。
窪美澄作品の中でも親しみやすい内容、と思う。
(少なくとも、前作「雨のなまえ」より、一般受けする)


【追加感想】
今回、私が注目したのが最終章「瞬きせよ銀星」。
舞台が大坂に移動。

P211
チョコレートでコーティングされたようなつやつやの電車に乗り換え、川を渡る。

これって、阪急電車のことで、川は淀川、渡った先は、当然「十三」。

「南北に走る道を『筋』、東西に走る道を『通り』て言うんや。けどな、商店街は筋も通りも、どっちも使うことあるけどな」

P234
京子が話すこの町の言葉は心地いいメロディーのように耳をくすぐった。京子の話す言葉をいつまでも聞いていたかった。時々、京子のイントネーションがうつって同じような言葉を話すと、
「いんちきくさ。きもっ」と京子は笑った。
(中略)
「なぁ、うち、圭ちゃんといっしょに明日行きたいとこがあるねん。うちが日曜日によう行くとこ」

こんな感じで、大阪弁が駆使される。
(私のような、大阪の人間が読んでも、違和感がない)
著者は東京の方のはず。
どこで勉強されたのだろう?
どなたかに、監修を頼んだのだろうか?

【さらに追加】
兄弟で1人の女性を好きになる、と言うと思い出すのが「エデンの東」。
マンガでは「カリフォルニア物語」。
けっこう普遍的なテーマか?
ハヤカワepi文庫<br> エデンの東〈1〉 小学館叢書<br> カリフォルニア物語 〈1〉

【ネット上の紹介】
その体温が、凍った心を溶かしていく。29歳のみひろは、同じ商店街で育った幼なじみの圭祐と一緒に暮らして2年になる。もうずっと、セックスをしていない。焦燥感で開いた心の穴に、圭祐の弟の裕太が突然飛び込んできて……。『ふがいない僕は空を見た』の感動再び! オトナ思春期な三人の複雑な気持ちが行き違う、エンタメ界最注目の作家が贈る切ない恋愛長篇。