【ぼちぼちクライミング&読書】

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半夏生

2014年06月22日 21時10分13秒 | お出かけ

昨日6月21日は夏至であった。
夏至から数えて11日目が、半夏生(はんげしょう)という。(今年は7月2日)
田植えを済ませた農家が、休息をとる日。
(逆に言えば、この日までに田植えを済ませなさい、ってこと)
ちょうど半夏(からすびしゃく)が生えはじめるころ。
(混乱することに)、半夏とは別に、半夏生(はんげしょう)、って植物もある。

↑これが半夏生

実は、夏至の日に、私が撮った写真である。
どこで撮ったかと言うと、草津の水生植物公園。
睡蓮を見に行ってきたのだ。
写真を一部紹介する。




水生植物公園は、2回目の訪問。(前回は昨年9月)
とても良かったので、再び訪問した。(やっぱり良かった)

【参考図書】
今回、訳知り顔で書いたが、元ネタがある。

「日本の七十二候を楽しむ 旧暦のある暮らし」白井明大/文 有賀一広/絵


「八月の青い蝶」周防柳

2014年06月22日 09時07分04秒 | 読書(小説/日本)


「八月の青い蝶」周防柳

美しい装丁である。
そして、内容も美しかった。
第26回小説すばる新人賞受賞作。
新人とは思えない、深い内容、巧みな技巧。
・・・見事である。
おそらく、今年度の(個人的趣味で)ベスト3以内に入る作品と思う。
見逃してはいけない作品、と思う。

陸軍中佐を父に持つ中学生・亮輔が主人公。
舞台は広島。
現在と過去が交錯する。

物語は、現在から始まる。
最初の「語り」は亮輔の娘・きみ子。

P22
きみ子のひとり娘は今年の春京都の大学に入学し、きみ子は荷がおりたように感じるとともに、自分の人生が終わったような虚脱感をも味わっていた。受験の一年はそればかりに必死になっていたから気づかなかったが、いざ片づくとどっと老けこんだように思えた。十八年ぶりに夫と二人暮らしに戻ったことも、彼女の調子を狂わせていた。気まずいとか会話に困るとかいうほどではなかったが、うれしくも悲しくもなく、なんの情熱も感じない日々がそこにあった。娘の不在によってその事実がむき出しになった。この感じは今日もあしたもあさっても、一年後も、十年後も、自分が死ぬまで続くのだろうと、頭に隙間ができるたびに思った。

次の章は、過去に戻る。
昭和20年8月6日、である。
P35
熊谷亮輔は陸軍航空の戦隊長として台湾に出勤中の熊谷強中佐のひとり息子で、広島県立第五中学校の一年生であった。一歳増えて十三歳になるまであと十日の十二歳だった。
彼らが作業していたのは広島市内の中東部、京橋川にかかる鶴見橋の西詰めで、橋の向こうには比治山のゆるやかな丘陵が横たわっていた。
抜けるような青空に真っ白な雲が湧き、照りつける太陽によって、八時を過ぎたばかりだというのに三十度はとっくに超えていた。

次のような感じで、物語は進行する。

一章 標本 2010年8月
二章 動員 1945年8月
三章 初恋 1945年8月
四章 証明書 2010年8月
五章 脱皮 1945年8月
六章 飛翔 2010年8月

第一章は導入部なので、あまり面白くないが、ここを飛ばすわけにいかない。
人物関係が説明され、伏線が張られているから。
第二章、第三章と、いっきに面白くなってくる。
第四章は、現在に戻る。
亮輔が、きみ子の担任教師と喧嘩をする。
この担任教師は、次のように描かれている。

P191
彼の父親は筋金入りの共産党員で、戦時中は獄につながれる憂き目にあったが、主張を曲げなかったという。彼はそれがなによりも自慢なのであった。

この喧嘩のシーンは自分で読んでみて。
赤坂真理さんの「東京プリズン」での「法廷シーン」に匹敵する内容、と思う。

6月6日(金曜)、朝日新聞・社会面で著者・周防柳さんが紹介されている。
1964年、東京生まれ。幼稚園から小学3年を広島県大竹市で暮らす、とある。
(道理で、登場人物の語る広島弁が自然なはずだ)

デビュー作「八月の青い蝶」に出てくる主人公は中学3年の時に広島の爆心地から1.5キロで被爆した私の父です。中佐は祖父をイメージしました。
(中略)
人前で被爆体験を話せる語り部もいますが、そうでない人もいるかも――。軍人を父に持つ被爆者の葛藤を描いた動機です。
(中略)
いまの社会には、「白黒つける」「筋を通す」ことを求めようとする空気を感じます。だから硬直し、対立が生まれるんじゃないでしょうか。グレーでも、変節してもいい。どんな問題にも異なる見方があることを小説でしめしたい。(以上、朝日新聞・上記記事より)

ぜひ読んでみて。
青春小説としても、白眉である。


【おまけ】
既に読んでいる方は、お分かりでしょうが、本作品のもっとも重要で美しい箇所に触れていない。
予備知識なしで読んで、より感動して欲しい、と思ったので。
本作品の映像化は、とても難しい、と思う。
でも、もしアニメなら、可能かも知れない。

【参考リンク】
 第26回 小説すばる新人賞受賞作 八月の青い蝶 周防 柳|集英社


【ネット上の紹介】
急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学生のときに被爆していた。大日本帝国陸軍偵察機パイロットのひとり息子であった彼は、当時、広島市内に住んでいたのだ。妻と娘は、亮輔が大事にしている仏壇で、異様に古びた標本箱を発見する。そこには、前翅の一部が欠けた小さな青い蝶がピンでとめられていた。妻も娘も知らなかったが、それは昭和20年8月に突然断ち切られた、切なくも美しい恋物語を記憶する大切な品だった―。第26回小説すばる新人賞受賞作。