中野京子と読み解く運命の絵」中野京子
絵画エッセイでは定評のある著者。
「怖い絵」シリーズが一段落して、今度は「運命の絵」シリーズ発動。
絵の蘊蓄だけでなく、背景となる歴史、国情も説明される。
読んでいて、「へえ、そうなのか」と感心しながら読んだ。
クリノリンについて
P114
それにしても、ふんわりと軽やかなスカートの下に無粋な鳥籠があるのを男性はどう思っていたのだろう?(中略)同時代の老美学教授が真剣に怒り、新聞に批判文を書いている、クリノリンは場所をとるし、男に挑戦しているので「厚かましい」。そして「人間の体型に間違った概念を与える」と。
ファッションの流行に当事者以外が文句を言っても始まらない。なぜならどんな不便で傍迷惑で馬鹿馬鹿しくて滑稽でも、いったんそれがお洒落と認識されたら飽きるまで止まらないのが人間なのだ。男性だってあの悪趣味極まるコドピース(股間用プロテクター)を、これみよがしに、しかも二世紀にわたって愛用し続けたではないか。
【ネット上の紹介】
絵画を鑑賞する際にただ眺めるだけでなく、描かれた背景や画家の思惑などを知った上で読み解けば、面白さは何倍にも増す――。その楽しさを実感させてくれる絵画エッセイの名手、中野京子さんの新シリーズ誕生です。テーマは“運命の絵”。命がけの恋に落ちた若者たち、歴史に名を残す英雄たちの葛藤、栄華を極めた者たちのその後、岐路に立つ人々……、運命の瞬間を描いた名画や、画家の人生を変えた一枚を読み解いていきます。描かれた人物たちのドラマや画家の境遇を知ることで、絵画への理解がぐんと深まり、興味も広がります。人間への鋭い観察力に裏づけられたドキッとする指摘や、ユーモアあふれる表現などの中野節はもちろん、健在。読むこと、観ることの魅力を強く感じる一冊です。
【目次】
ローマ帝国の栄光と邪悪―ジェローム『差し下ろされた親指』
擬人化された「運命」―ベッリーニ『好機』/デューラー『ネメシス』
一度見たら忘れない―ムンク『叫び』
夜明けの皇帝―ダヴィッド『書斎のナポレオン一世』
謎々を解いた先に―モロー『オイディプスとスフィンクス』/シュトゥック『スフィンクスの接吻』
アレクサンダー大王、かく戦えり―アルトドルファー『アレクサンドロスの戦い』
風景画の誕生―ホッベマ『ミッデルハルニスの並木道』
事故か、宿命か―ブローネル『自画像』/同『魅惑』
クリノリンの女王―ヴィンターハルター『皇后ウジェニー』
ドイツ帝国誕生への道―メンツェル『ヴィルヘルム一世の戦線への出発』
愛する時と死せる時―アングル『パオロとフランチェスカ』/シェーフェル『パオロとフランチェスカ』
ロココ式没落過程―ホガース『当世風結婚』1~4
故国で行き倒れになるよりは―ブラウン『イギリスの見納め』
少年は森に消えた―ウォーターハウス『ヒュラスとニンフ』
聖痕の瞬間―マックス『アンナ・カタリナ・エンメリヒ』/ジョット『聖フランチェスコ』
ヴェスヴィオ火山、大噴火―ブリューロフ『ポンペイ最後の日』/ショパン『ポンペイ最後の日』
感じるだけではわからない―ルノワール『シャルパンティエ夫人と子どもたち』