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磐之媛(いわのひめ)は仁徳天皇の皇后(産経新聞「なら再発見」第67回)

2014年03月05日 | なら再発見(産経新聞)
産経新聞奈良版・三重版ほかに好評連載中の「なら再発見」、今回(3/1付)のテーマは「磐之媛命 嫉妬深かった? 仁徳天皇の皇后」、執筆されたのは、NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」会員で、仁徳天皇陵のある堺市在住の河井勇夫(かわい・いさお)さんである。河井さんは早くから「古社寺を歩こう会」に参加され、次第に奈良への興味が募り、2年前に見事ソムリエ資格を取得され、当会に入会されたという方である。では、全文を紹介する。
※トップ写真は、仁徳天皇の皇后が葬られた磐之媛命陵(奈良市佐紀町)。写真はいずれも河井さんの撮影



 仁徳天皇陵に治定(じじょう)される百舌鳥耳原中陵(もずのみみはらなかのみささぎ)は堺市にあり、墳丘の長さは486メートル。世界でも最大級の墳墓として知られている。
 それに対し、皇后の磐之媛命(いわのひめのみこと)陵は、堺市から遠く離れた平城山(ならやま)に近い奈良市佐紀町の静かな場所にひっそりと佇(ただず)む。これほど遠く離れたところに別々に葬られたのはなぜか。そこには磐之媛の嫉妬心が関係しているようだ。
      ※   ※   ※
 「あをによし奈良を過ぎ小楯倭(おだてやまと)を過ぎ我が見が欲し国は葛城高宮(かつらぎたかみや)吾家(わぎへ)の辺り」(古事記下巻)
 私が見たいのは難波(なにわ)の宮ではなく、実家のある葛城の高宮の辺りなのですと、悔しさと懐かしさに、切なく涙を流した。涙の理由は仁徳天皇の女性問題にあるというのだ。
 ある時、磐之媛は祭礼に使う葉(御綱葉(みつながしわ))を取りに紀伊国(きいのくに 現在の和歌山県)に出かけた。その留守中、夫の仁徳天皇は八田皇女(やたのいらつめ)という女性と昼夜遊び戯れ、とうとう宮中に召し入れてしまった。磐之媛はそれを知ってたいそう怒り、取ってきたばかりの御綱葉を難波の川に投げ入れてしまう。


磐之媛の故郷とされる葛城高丘宮(御所市)

 怒りの治まらない磐之媛は難波の宮にいる天皇のもとには戻らず、淀川をさかのぼり、京都府南部を経て奈良に向かった。平城山から実家のある葛城の方向を見て詠んだのが、先の歌である。
      ※  ※  ※
 仁徳天皇の女性問題、実はこれが初めてではなかった。吉備(きび)の国(現在の岡山県)出身の黒日売(くろひめ)はとても美しいと評判だった。それを聞いた仁徳天皇は彼女を宮中に呼び寄せた。やがて磐之媛はそれを知り、黒日売をいじめたり、物を壊すなど錯乱状態になった。
 磐之媛のあまりの嫉妬深さに耐え切れず、黒日売は船で故郷に逃げ帰ろうとした。嘆いた仁徳天皇が見送りの歌を詠んだところ、磐之媛は激怒し、黒日売を船から降ろさせ、陸路を徒歩で国に帰らせたという。
      ※  ※  ※
 気性の激しい女性として知られる磐之媛だが、仁徳天皇の皇后になった頃には、夫のことを心から愛する心優しい人物だったそうだ。磐之媛が天皇のことを思って詠んだ歌が万葉集にある。
 「君が行き日(け)長くなりぬ山たづね迎えか行かむ待ちにか待たむ」(万葉集 巻二-85)
 天皇が旅に出かけられてもう何日も経ったのに、まだお帰りにならない。寂しくて仕方がないので、山道を探して迎えに行こうか。それとも、ひたすら待っていようか…。
 旅に出てなかなか帰ってこない夫のことを心配し、寂しく待つ妻の心境を綴(つづ)った歌だ。
      ※  ※  ※
 その後磐之媛は筒城(つつき 現在の京都府京田辺市)に宮を置き、余生を送る。そして仁徳天皇35年6月にその地で亡くなった。のちに磐之媛は、仁徳天皇陵から遠く離れた平城山の近くにひっそりと葬られた。
 古事記や日本書紀には、磐之媛は嫉妬深い女性として描かれている。しかし彼女は大豪族・葛城氏の出身であり、葛城氏の命運を担う立場にあった。
 天皇家と葛城氏のはざまに立ち、難波の宮にも、葛城高宮にも帰ることができなかった磐之媛。悩んだ末、最後に取った行動は表舞台から姿を消し、静かな人生を歩むことだったのではないだろうか。(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 河井勇夫)


大豪族・葛城氏と天皇家の板挟みという立場にあった磐之媛の苦しみは、想像を絶するものであったに違いない。奈良市佐紀町にある磐之媛命陵のお濠では、悲運の磐之媛の魂を慰めるかのように、毎年、杜若(カキツバタ)や睡蓮(スイレン)が可憐な花を咲かせる。

河井さん。良いお話を紹介していただき、有難うございました!

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