tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

羊の除草作戦、ルーツは今井町&王寺鉄道部(JR西日本)です!

2014年05月29日 | 奈良にこだわる
火曜日(5/27)の産経新聞「関西Biz」の見出し《線路脇の除草 ヒツジにお任せ 沿線住民と交流「癒される」》を見て、「おお、今井町の粘り強い取り組みにスポットが当たったか!」と喜び勇んで記事を読んで、ガッカリした。記事が間違っているというのではないが、キーパーソンに取材していないので「心棒のない記事」になっているのだ。長年の産経愛読者としては、とても残念である。まずは記事全文を紹介する。

関西の鉄道各社が線路脇の除草にヒツジを活用するユニークな取り組みで注目を集めている。各社の頭を悩ます草刈り費用の節減などが目的だが、予想を超える熱心な“仕事ぶり”で成果は上々。「ヒツジの姿に癒やされる」と沿線住民からも好評で、思わぬ反響を呼んでいる。

除草にヒツジを派遣しているのは、奈良県山添村の神野山観光協会が管理する「めえめえ牧場」。もともと過疎化で増えた村内の耕作放棄地の再生策として思いついたが、その情報を聞きつけた同県橿原市内の住民が、「線路脇の土地の草刈りに使えるのでは」とJR西日本に提案した。

線路沿いは斜面が多く、草刈り作業がしにくい上、草刈り機の轟(ごう)音(おん)や刈った草を積み込むためのトラックが近隣住民の迷惑になることもある。一方、ヒツジは斜面、平地を問わず活動でき、鳴き声くらいで大きな音は立てない。めえめえ牧場が休耕田を使って調べたところ、2~3頭のヒツジで約1カ月間で約1千平方メートルの雑草を食べ尽くすほどの“能力”があるという。

除草代に頭を悩ませていたJR西も、経費の節減につながると導入を決め、平成24年秋から同県橿原市の桜井線沿いの一角でヒツジの放牧を始めた。次第に放牧面積を広げ、今では牧場から年3回派遣を受けている。排泄(はいせつ)物の臭いが気にならないように、頭数と放牧期間も調整している。

ヒツジが電車の通過音に驚いて線路上に飛び出し、事故を引き起こす危険性などが懸念されたが、ヒツジ3頭は、トラブルもなく“任務”を遂行。JR西は草刈りのために業者に委託していた費用を年間で約40万円カットできた。さらに沿線の子供たちがヒツジを紹介する看板を作成したり、奈良市内の学校から除草を兼ね「教育に取り入れたい」と牧場に問い合わせがあるなど、ヒツジを通じて地域とのコミュニケーションも生まれている。

評判を聞いた近畿日本鉄道も、同牧場と提携して今月からヒツジの放牧を実験的に始めた。大阪線松塚駅(奈良県大和高田市)近くの斜面約500平方メートルで、「キン」と「テツ」と名付けられたヒツジ2頭が活動中で、結果を踏まえて本格導入を検討する方針だ。

24日にはヒツジ2頭の写真を満載した記念入場券の発売(1枚150円)も開始。遠方からもヒツジを見に来る人が多いことから、お土産代わりにしてもらおうと急きょ作製した。めえめえ牧場の職員、竹内弘昭さん(50)は「当初は除草の目的だけだったが、各方面で交流を生むなど予想しない効果を上げていてうれしい」と話している。


この写真は、若林さんのブログから拝借

橿原市今井町の若林稔さんがJR西日本(王寺鉄道部)の来海(きまち)部長(当時)・めえめえ牧場の竹内さんと協議を重ね、苦労の末実現した「羊の除草大作戦」が、いつのまにか近鉄の話にすり替わっている。記事の写真も、近鉄から提供を受けた松塚駅付近(大和高田市)で草を食べる羊の写真である。

羊による除草は、一般社団法人地域づくり支援機構の「地域プランナー・コーディネータ養成塾」の5期生として共に学んでいた若林稔さん(今井町町並み保存会会長)と山添村の藤田和子さんの熱い議論から生まれた。山添村の「めえめえ牧場」では羊を50頭保有し、エサの牧草が不足している。他所で刈ってきて補充しているが、限界がある。しかし今井町にあるJR桜井線の土手には、大量の雑草が生い茂っていた。

今井町の若林宅の裏手には、JR桜井線が走る。土手には雑草が生い茂り、カメムシが大量発生して悩まされていた。若林さんがJR西日本(王寺鉄道部)にお願いしたところ、30人もの作業員が来て草刈りをしてくれた。刈った草はトラックで運び出し、焼却処分されるという。このコストが年間40万円にのぼるそうだ。

こんなムダを何とかできないか、というところから話が始まった。若林さん、牧場の竹内さんとJRの工科長(王寺鉄道部)の3者で協議が始まる。2012年の秋のことで、11月9日には試験放牧にまでこぎつけた。この辺りの経緯は若林さんのブログ「今井町に羊の除草大使がやってきた」に詳しい。私も当ブログ記事「めえめえ除草大作戦!」でエールを送った。

本番に至るまで何度もテストを繰り返し、さまざまなリスクをあぶり出して対策を講じ、契約書まで交わした。いよいよ2013年6月7日から本番が始まった。除草を目的として、線路の土手で羊を放牧するのは、おそらく全国でも初の取り組みだろう。NHK奈良放送局の記者は10回以上も今井町に足を運び、その模様が6月21日にニュースとして放送され、私も画面に食い入った。電車の窓から羊を見て小躍りする子供たちが印象的だった。読売新聞は、6月23日付の朝刊(大阪本社版)で報じた。この辺りのことは若林さんの「羊大使はめえめえ牧場にご帰還」に出ている。

ここまでの最もスリリングな部分が、冒頭の産経新聞の記事にはすっぽ抜けているのである。なお、若林さんのブログに掲載されている羊による除草の記事は、カテゴリ「羊大使」にすべてまとめられている。羊に雑草を食べさせる前に草刈りをし、翌年に柔らかい「良い雑草」が生えたときに羊を呼ぶ、という手間までかけておられるのだ。

産経の記事を読んで疑問に思ったのは、私だけではなかった。「地域プランナー・コーディネータ養成塾」の関係者であるY田さんは、産経記事を紹介したFacebookの「とみきたスクール“ひつじプロジェクト”」(同記事に登場する「奈良市内の学校」)に《今井町の若林会長と山添村の藤田さんが最初の仕掛け人です。産經新聞の記者さん、最初のご苦労人の功績もしっかり伝えて下さい!!》。Y村さんは《Y田さんのおっしゃる通りで、今井町の若林さんが数ヶ月前に、わざわざ北登美ヶ丘の現場までお越しになり、Mさんに体験指導された後、我が家に立ち寄られました。若林さん、その現場も、やっと形になって参りました。有難うございます》と書かれている。

キーパーソンへの取材をすっ飛ばすと、実に珍妙な記事が出来上がるものだ、と自戒を込めて書いておきたい。「キン」と「テツ」のことなど、どうでも良いのだ。それにしても取材を受けた「非キーパーソン」の人々は、若林さんや藤田さん、JRの来海さんのことを記者にアドバイスしてあげなかったのだろうか?

地域おこしには「先走りするバカ、プランナー、コーディネーター」の3者が必要である。とりわけ、リスクを取りながら新たな試みに挑戦する「先走りするバカ」の功績をきちんと評価してあげないと、彼らが浮かばれないし、後に続く者が現れない。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする