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応現寺(奈良市東鳴川町)の不空羂索観音像(産経新聞「なら再発見」第75回)

2014年05月09日 | なら再発見(産経新聞)
産経新聞奈良版・三重版ほかに好評連載中の「なら再発見」、はや80回めを迎えた。今回(5/3付)のタイトルは「応現寺の観音さま 毎月第1日曜日にご開帳」、筆者はNPO法人「奈良まほろばソムリエの会」で最多出稿を誇る石田一雄さん(奈良市在住)である。「応現寺」の名前はあまり知られていないが、ここの観音さまは、興福寺南円堂の不空羂索観音像にゆかりがある。では、全文を紹介する。

 応現寺(おうげんじ)は、奈良市北東部、京都府木津川市との境に近い東鳴川町(ひがしなるかわちょう)にある。JR奈良駅から奈良交通バス須川方面行き(広岡行き、または下狭川行き)で25分程度だが、1日に平日は7本、土・日曜日と祝日は6本と便数は少ない。集落内には駐車場もない。
 東鳴川町の集落は東鳴川バス停南側の丘の上にあり、県道からは見えない。坂道の入り口に「重要文化財・木造不空羂索(ふくうけんさく)観音坐像」の案内表示がある。
 坂道を登り、途中で鋭角に右折れしてさらに登っていくと、お堂の裏に出る。応現寺のお堂は「東鳴川町公民館」と一体の建物だ。
 正面に阿弥陀如来像が祀(まつ)られ、観音像は右側に安置されている。応現寺は真宗大谷派の寺院で、重要文化財のお像はいわゆる客仏(きゃくぶつ)だ。



 高さ91.7センチと大きくはないが、均整がとれてゆったりとした体つきで、衣の襞(ひだ)の表現もおだやか。定朝様(じょうちょうよう)とよばれる優美な作風の影響が感じられる。宝冠をかぶらず持物も少ないすっきりとした姿なので、聖観音のような親しみを感じる。平安時代後期の11世紀末から12世紀前半頃に造られたとされる。
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 不空羂索観音とは「すべての人々を慈悲の網ですくいとる」という意味で、一面三目八臂(ぴ)(両目のほか額にも目を有し、8本の手をそなえる)が通例だ。鹿の毛皮を身にまとっている。神仏習合が進むと、鹿に乗って茨城県の鹿島神宮から来られたとして、春日大社本殿の第一殿に祭られている武甕槌命(たけみかづちのみこと)の本地仏(ほんちぶつ)として崇敬されてきた。
 著名な不空羂索観音像としては東大寺法華堂(三月堂)の立像(奈良時代、国宝)、興福寺南円堂の座像、不空院(奈良市高畑町)の座像がある。
 興福寺南円堂は、藤原冬嗣(ふゆつぐ)が弘仁4(813)年に創建し、平安時代に摂関家として栄えた藤原北家一門に崇敬されてきたが、治承4(1180)年の「南都焼き討ち」で焼失した。応現寺の観音像は、焼失以前の南円堂の像の姿を写したものと考えられ、同種の現存例が少ないことから極めて貴重とされる。
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 東鳴川町は、奈良時代に行基が付近に四十九院を創立し、「鳴川(なるかわ)千坊」と呼ばれていたそうだ。そのひとつとされる善根寺(ぜんこんじ)(鳴河寺(なるかわでら))は平安以降、興福寺の勢力下にあり、仏道修行の地だった。応現寺の観音像はその善根寺に祭られていたという。
 本像の所有は東鳴川観音講だ。東鳴川町はわずか15世帯、50人ほどの小さな町で、観音講は13世帯で構成される。毎月最終日曜に仏事が営まれる。重要文化財の仏像を地区で守っている例はあるが、県内でも最小の規模といえるだろう。
 昭和63年に重要文化財に指定され、本堂が修復されたのを機に、毎月第1日曜(午前9時~午後4時)の一般公開が始まった。
 本寺は無住寺(むじゅうじ)なので、観音講の役員3人が交代で詰めている。お茶やお菓子の接待を受けながら、気さくに話を聞くことができる。拝観者は一日10人程度とのことだ。ご朱印もいただけるが、備えてある印判と紙を使って参拝者自身で押しても良いそうだ。
 京都府木津川市の岩船寺、浄瑠璃寺という古刹(こさつ)にも近い。一度訪れてみてはいかがだろう。(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 石田一雄)


「焼失以前の南円堂の像の姿を写したものと考えられ、同種の現存例が少ないことから極めて貴重」というところが、すごい。東大寺の大仏さまは江戸時代に補修されたものだが、台座蓮弁部に天平当時の姿が描かれていて、当初の姿を推し量ることができる(今のものより、ふっくらとやさしいお姿である)。興福寺南円堂の不空羂索観音像も、当初は写真のようなお姿だったのかも知れないのだ。

石田さん、興味深いお話を有難うございました!

[ P R ]
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