tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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廻り地蔵 または 神仏の巡行

2016年04月12日 | 奈良にこだわる


今井の廻り地蔵[埼玉県熊谷市指定無形民俗文化財]

昨日、奈良市丹生町(柳生地区)の「三日地蔵」を紹介した。朝日新聞奈良版(4/10)に載っていたという金田充史さんからの情報に基づいて書いたのだが、このブログ記事を読まれたmさん(会社の先輩)から「東大寺にも廻り地蔵があります。御厨子に入っておられる1m弱のお地蔵さまですが、東大寺の各塔頭寺院を毎月廻ってお祀りされています」というコメントをいただいた。

おお「廻り地蔵」。「もしかすると全国各地に残る習俗ではないか」とヒラめいた。で、早速検索をかけてみると、あるわあるわ…。埼玉県熊谷市・羽生市、神奈川県横浜市、和歌山県田辺市 など。横浜市の情報サイト「はまれぽ.com」には、


中河原の「廻り地蔵」。小山市のHP(栃木県)から拝借

お地蔵さんというのは、道端に立っているものだとばかり思っていた。「まわし地蔵」というのは、その常識をひっくり返すもので、全く想像がつかないのだが…。インターネットで少し調べてみると、「廻り地蔵」という呼び方が一般的なようで、2013(平成25)年、横浜市無形民俗文化財に指定されていることが分かった。


横浜市泉区の「子育て地蔵」巡回。同区のHPから拝借

廻り地蔵は、江戸時代に全国的に流行った風習で、神奈川県でも広く行われていたという。藤沢市、大和市、秦野市、伊勢原市などでは、今でもかなりの地域で残っており、特に、この風習の元となったと考えられる保国寺(ほうこくじ)のある伊勢原市では、市役所を中心として盛んに研究が行われているそうだ。横浜市で廻り地蔵の風習が残っているのは、泉区下飯田と鶴見川流域(緑区白山町、都筑区池辺町、港北区新羽町)の計4ヵ所のみ。


神奈川県大和市福田の「廻り地蔵」。「はまれぽ.com」から拝借

港ヨコハマにも市内4ヵ所に残っているのだ!奈良県下では柳生以外にもあるようだ、県職員の津浦和久さんが「西里の回り地蔵習俗について」という論文を発表されていた(西里=生駒郡斑鳩町西一丁目)。津浦さんには、ならの魅力創造課(県観光局)におられた頃にお世話になったことがある。彼の信頼性は抜群なので、こちらの論文から引用してみよう。8ページにわたる堂々たる論文なので、ごく一部だけの抜粋になる。

地蔵菩薩への多様な信仰のひとつに回り地蔵がある。回り地蔵を『日本民俗大辞典』は「信者の家々を宿にしてまつられながら、まつりてによって次の宿へと運ばれ、一巡したのち、本拠とする寺や堂などへもどるという地蔵の巡行習俗、およびその地蔵のこと」と定義している。

『日本民俗大辞典』ではさらに、回り地蔵は日本全国にみられるが関東地方での報告事例が多いこと、巡行の期間・回る範囲・運び方・御利益について様々なヴァリエーションをみせていること、一八世紀以降に広く流布したことを述べ、回り地蔵の信仰習俗を受け入れる基層として神仏の遊行、来訪神の歓待など古来の信仰の流れをくみとることができると記している。

 日本民俗大辞典〈上〉あ~そ
 福田アジオ ほか編
 吉川弘文館

奈良県内の回り地蔵については松崎憲三氏が奈良市中山町、奈良市丹生町、宇陀市室生区室生の三事例と東大寺の本坊と一七塔頭を回る事例を報告している。氏はこの四事例の紹介・分析から、奈良県内の回り地蔵習俗の特徴として、一ヵ月あるいは三日、一日と祀られる日数に相違はあれ、常時巡行しており、しかも一村落内すべての家々において祀られるという形に限定されることを挙げている。

そして、厨子(屋形)に関しては全国的に一般な背負厨子形式のものが奈良市丹生町の事例しかなく宇陀市室生区室生の手提げ厨子が珍しいこと、奈良市丹生町では地蔵を縁側から受け渡しするという形式がみられることに注目している。本稿では、松崎氏が紹介していない、西里(生駒郡斑鳩町西一丁目)における回り地蔵の調査報告を行いたい。

回り地蔵は西里集落の六〇軒弱の家々を巡り歩いている回り地蔵の受け渡しは玄関で行う。現在は乱れているものの、かつては一日で回す、すなわち一晩留めて、次の日に回すのが通例であった。安置する場所は家により異なっているが、台所のテーブルの上という事例が複数みられた。これは前の家からロウソクや線香に火をともした状態で地蔵が回ってくるから、火の用心のためだという。家々で人々はこどもの生育や村内安全を地蔵に願う。また前の家が供えた洗い米・椎茸・人参等の供え物はありがたいものとして、これをいただくと病除けになると信じられていた。

地蔵以外に西里集落を巡回するものとして、愛宕社のお札を収めた厨子があり、西里の人々はこれをアタゴサンと呼んでいる。形状は回り地蔵の厨子と同じで取っ手が付き内部にはロウソク立てが入っている。アタゴサンが家に来ると、一晩留め置き、翌日にロウソクに火をともして次の家に送る。

奈良県内には、アタゴサンのような事例も含めると神仏が家々を巡行する民俗は幾多もあると思われる。これらを調査し、奈良県の村落の在り方や特徴について理解を深めていくことを今後の課題としたい。

うーん、廻り地蔵にアタゴサン。神仏巡行の例は、まだまだあるのだ。これは私も折に触れて調べてみることにしたい。m先輩、金田さん、良いヒントを与えていただき、有難うございました!
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