大水槽の中で、このオイカワはかなり孤独なたたずまいだった。これだけの婚姻色をしているのだから、メスを追い掛け回していなければならないはずなのに、周りはコイばかりでオイカワのメスがいないんだからしょうがない。
こういう川魚の普通の体型からは異常と思われるような尻びれで、歌舞伎の厚ぼったい装束みたいだ。目が少し赤いのも血走った婚姻色なのだろう。子どものころ私たちはこいつをベニマスと呼んでいた。母親が「ざっこ獲り」などと小馬鹿にしていたけれど、雑魚(ざこ)からZacco platypusというのが学名だそうだ。