透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 1911

2019-12-03 | A ブックレビュー



 11月に読んだ6冊の本。小説を読んでいないな~。

『昆虫はすごい』丸山宗利/光文社新書:昆虫たちの驚きの繁殖戦略、これはもうヒトよりスゴイかも、いや、スゴイ。

『「わかる」とはどういうことか ―認識の脳科学』山鳥 重/ちくま新書:**ヒトの認識のメカニズムを、きわめて平明に解き明かす刺激的な試み。**とカバー折り返しにはあるが・・・。

『茶 利休と今をつなぐ』千 宗屋/新潮新書:覗き見る奥深き茶の世界 爲三郎記念館(名古屋)で買い求めた新書。

『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』鵜飼哲夫/文春新書:芥川賞選考会では何が起きているのか、著者の講演会を聴き、会場で買い求めた。

『地名崩壊』今尾恵介/角川新書:地名や駅名をきっちり調べ上げてある。このくらい徹底していると、すごいな、と思う。地名は文化。それが次第に改変されていく。これは由々しき問題。

『マナベの「標語」100』真鍋恒博/彰国社:大学生の基礎修養、研究生活心得帖。先日、自著『あ、火の見櫓!』と交換していただいた。

読了本6冊のうち5冊が新書。出版社が重ならなかったにもかかわらず、中公新書が無かった。


早師走。今年の読み納め本は何になるだろう・・・。

 


記憶装置としての火の見櫓(改稿再掲)

2019-12-03 | A 火の見櫓っておもしろい

火の見櫓はいろんな情報を記憶している



 櫓の踊り場に2m四方ほどの大きさの小屋を据えた火の見櫓。その小屋から上は見慣れた火の見櫓の姿ですが、下は火の見櫓というより、大きな送電鉄塔を思わせる姿です。小屋までは梯子ではなく、階段が設置されています。

穂高神社の近くに立つこの火の見櫓は、元々黒部ダムの建設工事(昭和31年着工、38年竣工)で、高瀬川骨材採取製造場(ここで採取した石を砕いてコンクリートの骨材にしていました)に監視塔として立っていたことが安曇野のヤグラ―のぶさんの取材で明らかになりました。

ダムが完成して不要になった監視塔を穂高町(現在の安曇野市穂高)が払い下げを受け、昭和42年に火の見櫓として移築して現在に至っています(この経緯についてはのぶさんが、当時の関係者にヒアリングをして自身のブログで記事にしています→こちら)。

何年か前、この火の見櫓の周辺をウォーキングするという企画がありました。で、この火の見櫓の小屋まで登ることができるということだったので、参加したのですが、残念ながら最終的に許可が下りなかったようで、当日は登ることはできませんでした。

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既に取り壊されてしまった古い建築の例えばタイル張りの外壁のごく一部が残されていれば、その「現物」を調べることでタイルのサイズや色、表面性状(テクスチャー)、成分、目地の幅や形状など、様々な情報を引き出すことができます。このことはタイル張りの壁片が建設当時の建築技術(タイルの焼成技術、職人の技・・・)を記憶している、と言い換えることもできます

このような情報は、写真や文章からはなかなか引き出すことができません。「間接的な情報」からタイル張りの壁面を忠実に再現することは難しいのです。同じものを再現するためにはどうしても現物が必要です。

古い建物の保存には人びとの遠い過去の記憶に符合する風景を残したいという素朴ともいえる欲求に応えるという意味があり、それに加えて技術の確実な伝承という意義もあるのです。

20年ごとに行われている伊勢神宮の式年遷宮ですが、戦国時代には120年以上も行われなかったということです。この長い空白の時代に神殿の姿・形も技術も継承されなくて、今に正確に伝わっていないのではないか、というあまり信じたくない説があります。冷静に考えれば、この説には説得力があることが分かります。

火の見櫓に話題を戻します。

江戸の前期、具体的には明暦の大火(1657年)によって都市防災という概念が生まれ、そのころ火の見櫓の歴史が始まったのですが、ここにきてその長い歴史が終わろうとしています。火の見櫓の後継としてホース乾燥タワーや防災無線柱が建てられ、火の見櫓が次第に姿を消しているのです。

「時代の流れ」だから仕方がないとあきらめてはいるものの、やはり寂しいです。穂高の火の見櫓は黒部ダムの建設という昭和の巨大プロジェクトに関わり、その後火の見櫓として穂高の街を見守り続けています。

この火の見櫓は近代産業遺産でもあり、地域の安全遺産でもあります。また、昭和30年代の櫓構造の技術を今に伝えてもいるのです。このままの姿でずっと立ち続けて欲しいと願っています。

火の見櫓を取り壊すこと、それは街の記憶装置の喪失に他なりません。


 20140125 初掲の記事に加筆しました。