■ 2021年に読んだ本の中から今年の3冊を選んだ。
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『楡家の人びと』北 杜夫(新潮文庫1978年16刷)
北 杜夫の作品の中で最もよく知られ、最も親しまれているのは『どくとるマンボウ青春記』であろう。代表作を1作品挙げるなら、私は長編『楡家の人びと』だ。最も好きな作品は『木精』。
『楡家の人びと』の初読は1979年、今年の5月に再読した。小説では大正初期から昭和、終戦直後までの時代の大きな流れの中で楡家三代に亘る人びとが織りなす物語が描かれている。三島由紀夫はこの作品を**戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。(中略)これこそ小説なのだ!**と激賞した。長編でありながら大味にならず、細部まできっちり描かれている。
今年は藤村の『夜明け前』も再読した。
『魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端』幸田正典(ちくま新書2021年)
魚も自分がわかるということにまず驚いたが、それを実証するためのなるほど!な方法にも驚いた。帯にあるようにすごい研究だと思う。
『中央央本線、全線開通!』中村建治(交通新聞社新書2019年)
乗り鉄、撮り鉄が鉄道マニアの代表的なカテゴリー。私は鉄道マニアではないが、敢えて言えば読み鉄。中央本線全線開通までにこれ程のドラマがあったとは・・・。ルート決定をめぐる駆け引きなどの描写はまるで小説のようだが、綿密な調査なくしてこのような活写は無理ではなかったか。
巻末に本書の参考文献リストには鉄道関係全般、中央線・甲武鉄道史、人物史、駅史、地方鉄道史というカテゴリー別に多数の文献が載っている。大変な労作だと思う。
偏食は体に良くないが、偏読はどうだろう。来年は特定のテーマについて書かれたものを集中的に読んでみたい(と毎年同じようなことを考えているような気がする)。