透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「言語の本質」

2023-07-15 | A 読書日記

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『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』今井むつみ・秋田喜美(中公新書2023年)

 この新書を書店で手にして、迷うことなく即買いした。時々こんなことがある。このように買い求めた本は大概おもしろい。この本も実に興味深く、おもしろかった。奥付をみると初版が2023年の5月25日で、そのわずか1か月後、6月20日には3版となっている。今、話題の本のようで、7月15日付 信濃毎日新聞の読書面に掲載されている「売れている10冊(12日・紀伊国屋書店新宿店)」をみると、第3位になっている。研究をベースにした専門的な論考がベストセラーとは・・・。

ヒトはどのように言語を獲得していったのか、そのプロセスに関する論考。オノマトペを出発点として、言語の本質にまで迫っていくロジカルな展開はおもしろく、また小さな子どもたちに実施した実験も示され、実証的で出来の悪い推理小説よりよほどスリリングで先が気になってワクワクしながら読み進んだ。新書でこんなに密度の濃い内容が読めるとは驚き。やはり新書は中公だ。ちなみに文庫は新潮(過去ログ)。

この本で展開される論考のキーワードは「記号接地論」「ブーストラッピング・サイクル *1」「アブダクション推論」。

終章にこの本で展開された論考の論旨がまとめられている。そこからぼくは次の一文を引用する。**私たちの祖先も、発声でアナログ的に外界のモノや出来事を模写していたのが、徐々にオノマトペに変わり、オノマトペが文法化され、体系化されて、現在の記号の体系としての言語に進化していったのではないかという仮説、いわば「オノマトペ言語起源説」を真剣に考えてみたいと思うようになった。**(252頁)


*1 知覚経験から知識を創造し、作った知識を使ってさらに知識を急速に成長させていく学習力(253頁)

このところ火の見櫓のある風景を毎日のようにスケッチしていて、読書にあまり時間を割いていない。『カラー版 名画を見る眼 Ⅱ』高階秀爾(岩波新書2023年)に次いでこの本が今月2冊目と少ない。だが、2冊とも良書。