透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「欅しぐれ」

2023-08-16 | A 読書日記

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『欅しぐれ』山本一力(朝日文庫2023年)を読んだ。この作家の作品を読むのは初めてだと思う。時代小説はあまり読んで来なかった。目立つことを優先した派手なデザインが多く、このような落ち着いたデザインは少なくなっているように思う。

江戸は深川元町にある筆道稽古場で老舗大店の主・太兵衛と賭場の胴元・猪之吉が出会う。ある日、太兵衛は隣りに座っていた猪之吉の半紙を汚してしまう。太兵衛が咳き込んで半紙の上に突っ伏した時、握っていた筆が隣りに流れて猪之吉の半紙に墨を付けてしまったのだ。

稽古を終えて、太兵衛は**「いささか陽が高いようですが、てまえに一献、お付き合い願えませんか」**(12頁)と猪之吉を誘う。大店の主と渡世人、生きる世界が違うふたりの出会い。

人を見る確かな目を持つふたりが互いに相手を認め、その後定期的に盃を交わす仲になる。読み始めてこの出会いに唐突感を覚えたが、この小説の解説で川本三郎さんは**友情は瞬間である。**と書いている。

太兵衛の店が騙り屋に狙われる。病に伏した太兵衛は店の後見を猪之吉に託して逝く・・・。綿密に練られた騙り。悪と猪之吉の仕掛けの読み合い。命がけで太兵衛の店を守る猪之吉。悪の正体が次第に明らかになっていく。そして・・・。

重厚なと評したくなるような物語を久しぶりに読んだ。

山本一力さんは『あかね空』で2002年に直木賞を受賞している。この作品も読んでみたい。


子どものころ、夏休みには宿題で小説を読んだ。そのせいなのか、夏には小説が読みたくなる。