360
■ 年内は原田マハのアート小説(短編ではなく長編)を読もうと思っている。『たゆたえども沈まず』(幻冬舎文庫)を読み終え、続けて『リボルバー』(幻冬舎文庫)を読もうかと思った。が、重い内容であることは容易に予測がつく。それで『カフーを待ちわびて』(宝島社文庫2022年4月19日第12刷)を読んだ。
この小説は原田マハのデビュー作。ちなみにカフーは果報のことでこの小説の舞台、与那喜島(架空の島)の方言。
沖縄の与那喜島でよろずやを営む友寄明青(ともよせあきお)は視察旅行で訪れた北陸の遠久島にある飛泡神社で絵馬に「嫁に来ないか。幸せにします 与那喜島 友寄明青」と書いていた。4カ月後、その絵馬を見たという幸(さち)から手紙が届く。**あの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば、私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか。**(前後略 23頁)
手紙に書いてあった通り、与那喜島に明青を訪ねてきた幸。一緒に生活し始めたふたりのラブストーリーが展開される。
幸は髪の長い女性で、白い帽子とワンピース姿で明青の前に現れる。この姿だとぼくは清楚なお嬢さんというイメージを抱いてしまうが、実際にはまるで大食い選手権のようにご飯を食べたり(114頁)、大ジョッキのビールを一気に半分飲み干したりもする(188頁)。まったく、たいしたおてんばである。(154頁)と評されるような行動もする。読んでいて幸という女性がどうしてもリアルにイメージできなかった。
また主人公の明青という30代後半になるのかな、男もいくじなしで、どうにも・・・。あなたのお嫁さんにしてくださいますかという手紙の文面の真意を確かめようともしない。
また、幸も明青に答えを訊こうともしない。ふたりの行動があり得ないと思ってしまって、ストーリーに入り込めなかった。敢えて書くけれど、同居を始めて2か月にもなるというのに、別の部屋に寝るってどういうこと。水色のキャミソールで眠る幸を覗き見したこともあるのに・・・。**見てはいけないものを、見てしまった。**(120頁)ってツルの恩返しじゃないんだから。いかんなぁ、夕方、少量摂取したアルコール効果かな。
**「なにも言ってくれないのね。ずっと一緒にいたって、私の名前さえ、呼ばない」
幸がぽつりと言った。
「いくじなし」**(199頁)
中高生のピュアなラブストーリーじゃないんだけどな。明青は幸のことが結婚したいと思うくらい好きなのに・・・。
まあ、勝手にストーリーの抜き書きをすると、イメージが変わってしまうだろうから、この辺で止めたい。
ストーリーの最後、幸から届いた手紙によって驚きの事実が明かされる。ストーリーの構成上、作者がこうしたことは分かる。分かるけれど、幸は手紙に書いた内容を明青と会ったその日に語るべきだった、と思う。
明青の友だちの息子がいじめにあっているとき**「なにぐずぐずしてんのよ!自分の息子が苦しんでいるのに、いますぐ救ってやれなくてどうすんの!(後略)」**(148頁)と、父親をしかりつけるようなら幸ならそうしたんじゃないか、でもしなかった。幸という女性がどうしてもリアルにイメージできなかった、と先に書いたけれど、このような行動もその理由。
ぼくは幸より明青の小学校の同級生、山内成子(しげこ)の方が気になった。
2005年、第1回「日本ラブストーリー大賞」を受賞したこの作品を読んで、成子と幸と明青の三角関係を期待するなんて、我が心は老い、汚れもしたということか。これはピュアなラブストーリーだというのに・・・。