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■ 『職人たちの西洋建築』初田 亨(ちくま文芸文庫2002年)を再読した。自室の書棚を見ていて、この文庫に呼ばれたような気がした。「もう一度読んで欲しい」と。このようなことを書店でも経験することがある。
**幕末・明治初期に近代化した西欧諸国と接して、その文明・文化を受け入れた日本において、近代化を可能にさせたものは何だったのだろうか。**(010頁)著者の初田 亨さん(*1)はこの問題、テーマに関する長年の研究成果を、読みやすく、分かりやすく本書にまとめている。
本書の最後、第六章 近代化をのりこえる職人たち に次のように書いている。掲げたテーマに対する答え、結論と言って良いだろう。
**そして非西欧社会の日本が、比較的スムーズに自分たちの近代化を成し遂げることができた背景には、激変する社会の中で、大きな時代の流れに流されつつも、古くなったものを積極的に変えていくことで高度な技術水準を保ち続け、みずから新しい世界を切りひらいてきた棟梁・職人たちが多くいたことを無視することはできない。いや、彼らがいたからこそ、日本の近代化が可能になったことをも認める必要があるだろう。**(315頁)
さらに続けて**もちろん建築家のはたした役割も大きかったが、建築生産に直接たずさわってきた棟梁・職人たちがいてはじめて、日本近代の建築をひらいていくことができたのも事実である。そしてその点にこそ、日本の近代化の独自性をみることもできるのである。**(315頁)と指摘して、論考を終えている。
職人に関する希少な記録の蒐集、丹念な読み解き。地道な研究の成果を文庫で読めるなんて、有り難い。
国宝 旧開智学校
*1 元工学院大学教授 まつもと市民芸術館の設計コンペの審査員だったことをネット情報で知った。