透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「本所おけら長屋(二十)」残りの一編を読んだ

2023-03-07 | A 読書日記

『草枕』を読み終えたので『本所おけら長屋(二十)』畠山健二(PHP文芸文庫2023年)の残りの1編「とこしえ」を読んだ。

お満さんが長崎へ留学することになる。期間は短くて3年・・・。「とこしえ」ではお満さんの長崎留学が決まり、万造との結婚についても結論を出さなくてはならない状況になる。「ひきだし」で万造は母親との再会を果たすが、その母親が「とこしえ」にも登場する、それもものがたりの展開上重要な人物として。

万造はお満さんに半纏の袖を引かれながら「ねえ。どこに行くのよ」と言われる。(251頁)ぼくはここを読んでいて、ああ、いい場面だなぁと思うと同時に涙がこぼれた。

万造は母親が女将の料理屋にお満を連れて行き、お満を母親に紹介する。万造は母親から「所帯を持ってもいいって女(ひと)ができたら連れておいでよ」と言われていた。

**「ここのお悠さん。おれのおっかさんだ」
「そうですか。万造さんのおっかさんですか、満と申します。今後ともよろし・・・・・、えっ。ええっ・・・・・」**(253頁)
お満さんがこんなキャラなのかどうか、こんなふうに言わせるのは作者のユーモアセンスだろう。

お満さんが長崎に行こうか迷っている時の万造の次のせりふに涙。**「お満。てめえのことは、てめえで決めろ。(中略)おれが女房にする女は、お満しかいねえってことだ。だから、お満が長崎に行こうが行くめえが、そんなこたあどうってことねえのよ。十年だって、二十年だって待ってやらあ。だから、後悔しねえように自分で決めるんでえ。わかったな」**(284頁)万造の決め台詞にお満さんは泣いたけど、ぼくも泣いた。お満さん、うれしいだろうなって思って。それにしてもいつもの万造と違って、かっこいい。決める時はきっちり決める。お満さんも万造のことをちゃんと理解している。

万造はおけら長屋の人たちから餞別に旅グッズあれこれを、長屋の大家・徳兵衛からは往来手形を渡される。あぁ、おけら長屋の人たちってみんな情け深くていい人たちばっかり。長屋にやって来たお悠さんが息子に渡したもの、それをここに書くのは、野暮だよな・・・。

第1章の最後に相応しい物語だった。第2章を楽しみに待ちたい。


 


安曇野市豊科の火の見櫓

2023-03-06 | A 火の見櫓っておもしろい


1449 安曇野市豊科南穂高細萱  殿村公民館の近く 3柱〇〇型ショートアーチ脚 2023.03.06


予めここに火の見櫓が立っていることを確認して出かけた。この風景、魅力的だ。スケッチしやすいと思う。






浅い朝顔型の屋根。6方向に下地材を入れている。円形の見張り台の床、平鋼を一方向にすのこ状に並べている。このような並べ方は思いの外少ない。手すりは飾りっけ無し、あっさり。

消火ホースを掛ける横材の位置から、見張り台床面の高さを10mくらいと見た。屋根てっぺんまでの総高は12.5mくらいか。


櫓中間の簡易な踊り場 


脚部中間までアーチ形の部材を設置している。このタイプは中信地域でトラス脚に次いで2番目に多く、3割近くを占める。脚元に屋外消火栓と消火ホース格納箱。


 


「 本所おけら長屋(二十)」

2023-03-05 | A 読書日記


 書店に『本所おけら長屋(二十)』畠山健二(PHP文芸文庫2023年)が平積みされていた。帯のついに完結!の文字におもわず「えっ」。・・・・・・か?  

ん? 完結するのか、しないのか気になって、手に取って巻末を見たが何も書かれていない。完結なら作者か出版社・編集部のあいさつ文が掲載されているのではないか。

ネット情報に、第一章完結、第二章構想中とある。第一章で20巻。まだまだ何年も続くだろう。情に厚いおけら長屋の人たちと別れるのはつらい。ずっとつき合っていきたいと思う。

早速買い求めて、収録されている3編「おとこぎ」「ひきだし」「とこしえ」のうち、前の2編を昨日(4日)読んだ。「ひきだし」を読んでいて、涙が頬を伝うこと何回か。

長屋の住人・万造は捨て子だったけれど、母親が見つかり、再会を果たすという話。読んで思った、人のつながりは情報のつながりだと。タイトルの「ひきだし」は内容を象徴している。

母子再会の場面が好い。松本清張の『球形の荒野』のラストシーンが浮かんだ。名乗らずともお互い相手が誰か分かるということが共通している。

**万造は嬉しかった。自分は捨て子ではなかった。親に捨てられたのではなかった。そして、自分のことのようにお節介を焼いてくれる仲間たち。そこにあるのは、ただ、心の底から仲間のことを思う純粋な気持ちだけだ。**(135頁)

**「私、少しは大人になったような気がします。世の中には辛い思いをしている人がたくさんいるんです。それを胸の奥に隠して、だれにも話さず、だれにも助けを求めず、じっと耐えて暮らしている。切ないです・・・・・」
お染は、お蓮の背中をそっと撫でる。
「そうさ。多かれ少なかれ、みんな同じなんだよ。だから、あたしたちは助け合いながら生きていくのさ。それが長屋暮らしってもんなんだよ」**(177頁)

感性が鈍ると、このくらいストレートで説明的な表現でないと、分かりにくい。残りの「とこしえ」は読みかけの『草枕』を読み終えてから読むことにする。


目次の次に見開きで本所おけら長屋の見取り図が載っていて、住人たちも示されている。その次のページには「本所おけら長屋関連略地図」が載っている。略地図は第1巻を除く全巻に載っているが、おけら長屋のすぐ近くに回向院があることに初めて気がついた。やはり意識しないとものを脳は認識しない。この春、そう5月後半あたりに回向院をお参りしたいと思っているので、地図上に示されていることに気がついたのだろう。おけら長屋の住人のたまり場というか作戦会議をする飲み屋・三祐(*1)が長屋のすぐ近くにあること、医者のお満さんが働く聖庵堂が長屋から少し離れたところにあることは前から分かっていたが・・・。

*1 三祐という店の名前が地図に載るのは第8巻からで、7巻までは居酒屋と表記されている。改めて20巻まで地図を見直して気がついた。


 


安曇野で火の見櫓のある風景を描く

2023-03-03 | A 火の見櫓のある風景を描く


火の見櫓のある風景 好きな道路山水的構図 安曇野市穂高にて 描画日2023.03.01

 火の見櫓のある風景をスケッチするときは、現地に立ってよく観て、風景を構成している要素を捉えます。その後、下描きはしないでいきなり本チャンの線描をします。構成要素の形もさることながら、大きさと要素間の位置関係には注意します。

描かずに省略する、例えば看板や電柱などの要素もあります。建物に窓を加えたりすることもあります。風景の再構成、これって創造行為ですよね。

椅子に座らず立って描くこともあって時間をかけません。線が曲がっても気にしません。それも味だと考えて。透明水彩絵の具で着色します。それも以前は現地でしていましたが、今は自宅でしています。建物の屋根や壁の色などを変えてしまうこともあります。

写真を撮ってきてその写真を見ながら線描するということはしません。目の前の立体的な、そう3次元の風景を平面に落とし込むことが楽しいのです。これをカメラに任せて、手放してしまうのは何とももったいないです。

春めいて遠くの山が紫がかって見えています。春霞でしょうか、なんとなく風景が薄く見えます。この雰囲気を彩色して表現するってなかなか難しいです。

ようやく春らしい陽気になってきました。これからはスケッチブックを持って出かけて、火の見櫓のある風景のスケッチをします。スケッチ展の開催を目指して。


 


フランスの切手

2023-03-03 | D 切手


 松本市内にお住いのKさんからフランスの切手をいただいた。Kさんの従姉妹の方がパリ郊外で暮らしておられるとのこと。中国シリーズの切手のようで、うさぎが描かれ、兎年と縦書きされている。フランス語は全く分からないが、切手の上の横書き、Année du Lapinは「うさぎ年」だろうと見当がつく。調べて合っていることが分かった。

ねずみ うし とら うさぎ ・・・。十二支にねこが入っていないのはねずみに騙されて、集合日の元日に神様のところに行かなかったから。怒ったねこはねずみを追いかけるようになった。うしの背中に乗っていたねずみはゴール直前でぴょこんと飛び降りて1番になった。昔、こんな内容の話を子ども向けの絵本で読んだ記憶がある。

でも、ベトナムの十二支にはねこが入っている。確かラジオだったと思うが、このことを聞いた。ネットで調べて(調べると言うほどのことでもないが)、うさぎの代わりにねこが入っていることがわかった。

干支(十干十二支)の発祥は昔々の中国のようで、ねこは馴染みの動物ではなかったらしく、十二支入りしなかったようだ。十二支にも国の事情が反映されている、ということだろう。ロシアと日本は十二支が同じ、ということを知った。


Kさん ありがとうございました。


カフェトーク

2023-03-02 | A あれこれ

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 今日(2日)久しぶりにI君と渚のスタバでカフェトークをした。ぼくは約束の10時より少し早めに入店して、彼を待つ間『草枕』を読んでいた。

I君との話は尽きず、ふと時計を見ると午後2時半過ぎだった。延々4時間半も話し込んだことになる。親しい友人と直接会って、あれこれ話すことは楽しい。

ぼくもI君も大学で建築を専攻したけれど、建築のことを話題にすることは今まであまりなかった。今日もぼくが数日前に読んだ『帝国ホテル建築物語』を紹介したことくらい。

彼はここ何年も日本史に関する本を読んでいて、古代史から近現代史まで実に詳しい。話の途中で「誰だっけ、信毎(*1)の主筆で、太平洋戦争前に、戦争に反対する社説を書いた・・・」とぼくが問えば、「桐生悠々。関東防空大演習を嗤うを社説に書いて、軍の反発を受けて結局退職せざるを得なくなった」と答えるといった具合。

今日は戦国時代から江戸初期まで、それから昭和史などが話題になった。歴史に疎いぼくはもっぱら聞き役だった。それでも、半藤一利や松本清張の昭和史に関する本を少し読んでいるので、話し役に回りもした。そうでないと会話が成立しない・・・。


太平洋戦争のことから、話題はロシアのウクライナ侵攻のことや、昨今の国内政治にも及んだが、ブログに政治的なことは書かないことにしているので省く。

彼はもう一度、卑弥呼の時代から現代までの歴史書を読みたいと言っていた。系統的にあるテーマの本を読むっていいなぁ。発散型人間のぼくにはできないけれど・・・。

今日は楽しく有意義な日であった。  


*1 信濃毎日新聞


安曇野市穂高の火の見櫓

2023-03-01 | A 火の見櫓っておもしろい


(―)安曇野市穂高 3柱〇〇型トラス脚 2023.02.28
   
 安曇野のシンボル、常念岳には三角形のイメージがある。だが、穂高辺りで見ると前常念岳が左にずれていて常念岳までの稜線が見えて山容が台形になる。形が変わっても凛とそびえる姿は美しい。常念岳を背に立つ火の見櫓もなかなか良い。富士が月見草なら、常念は火の見櫓だ。




3角形の櫓、円形の屋根と見張り台の組合せは安曇野ではごく一般的なタイプ。




踊り場は簡易につくられている。梯子を移る時に床面の開口が気になるかもしれない。


脚はトラスもどき。補強材が下端まで達していれば、構造的にガッチリするし、見た目にも良くなるけれど。下の写真のように。