■『草枕』を読み終えたので『本所おけら長屋(二十)』畠山健二(PHP文芸文庫2023年)の残りの1編「とこしえ」を読んだ。
お満さんが長崎へ留学することになる。期間は短くて3年・・・。「とこしえ」ではお満さんの長崎留学が決まり、万造との結婚についても結論を出さなくてはならない状況になる。「ひきだし」で万造は母親との再会を果たすが、その母親が「とこしえ」にも登場する、それもものがたりの展開上重要な人物として。
万造はお満さんに半纏の袖を引かれながら「ねえ。どこに行くのよ」と言われる。(251頁)ぼくはここを読んでいて、ああ、いい場面だなぁと思うと同時に涙がこぼれた。
万造は母親が女将の料理屋にお満を連れて行き、お満を母親に紹介する。万造は母親から「所帯を持ってもいいって女(ひと)ができたら連れておいでよ」と言われていた。
**「ここのお悠さん。おれのおっかさんだ」
「そうですか。万造さんのおっかさんですか、満と申します。今後ともよろし・・・・・、えっ。ええっ・・・・・」**(253頁)
お満さんがこんなキャラなのかどうか、こんなふうに言わせるのは作者のユーモアセンスだろう。
お満さんが長崎に行こうか迷っている時の万造の次のせりふに涙。**「お満。てめえのことは、てめえで決めろ。(中略)おれが女房にする女は、お満しかいねえってことだ。だから、お満が長崎に行こうが行くめえが、そんなこたあどうってことねえのよ。十年だって、二十年だって待ってやらあ。だから、後悔しねえように自分で決めるんでえ。わかったな」**(284頁)万造の決め台詞にお満さんは泣いたけど、ぼくも泣いた。お満さん、うれしいだろうなって思って。それにしてもいつもの万造と違って、かっこいい。決める時はきっちり決める。お満さんも万造のことをちゃんと理解している。
万造はおけら長屋の人たちから餞別に旅グッズあれこれを、長屋の大家・徳兵衛からは往来手形を渡される。あぁ、おけら長屋の人たちってみんな情け深くていい人たちばっかり。長屋にやって来たお悠さんが息子に渡したもの、それをここに書くのは、野暮だよな・・・。
第1章の最後に相応しい物語だった。第2章を楽しみに待ちたい。