■ 鄙里に暮らす私は子どものころ、家の近くの田んぼの上を飛び交うホタルをよく見た。それは夏の夜の日常的な光景だった。でももう長年、ホタルを見ていない・・・。家の近くではホタルの生息環境が失われてしまった、ということだろうか。
ヒメボタルの観察会が行われると聞き、参加した。朝日村最奥の集落・御馬越(おんまご)の先にあるキャンプ場に昨夜(17日)の夜7時過ぎに集合、友人で環境カウンセラーの佐々木辰弘さんの案内で観察した。
ホタルと言えばゲンジボタルとヘイケボタルしか知らなかった。どちらも水生昆虫だから、ヒメボタルもそうだろうと思っていた。ホタルは水生、という思い込み。現地で佐々木さんの説明を聞き、ヒメボタルは陸生だと知った。陸生のホタルがいるのか・・・。説明では水生より陸生のホタルの方が多いとのことだが、知らなかった。
森の中にひっそり棲むヒメボタル
佐々木さんの先導で林道を歩く。「光った!」小さな子どもが声を上げる。森の中に明滅するごく小さな点、点、点。林道を歩く間に見た光の点は、100,200くらいだろうか。何年か前、佐々木さんは500くらいの数を確認したという。キャンプ場の光を避けるように、ヒメボタルは次第に生息域を森の奥へ移動しているとのこと。
ヒメボタルは日本の固有種でゲンジボタルの半分くらいの大きさ、雄も雌も体長は1cmに満たない。雌は翅が退化して飛べないそうだ。雄はごく短い間隔で光を放ちながら飛び、ごくわずかな光しか発しない雌を探す・・・。パートナー探しのために与えられた日数はわずか5日。なんともはかない命だ。雌の方が数が少なく、相手を見つけることができないまま一生を終える雄も多いとのこと。
そうか、森の中にはこんな生もあるんだな・・・。
■ 「火の見やぐら 相次ぎ撤去」 5月27日付 市民タイムスに松本市で火の見櫓の撤去が進められていること、本年度中に10基前後の解体が予定されていることなどを報じる記事が掲載された。消防団から40基以上の火の見櫓の撤去要望が寄せられていることも記事にある。
先日、市内神林地区の火の見櫓(*1)と消防団詰所(神林第13分団の詰所)が解体された。このことを記事したところ(過去ログ)、消防団詰所の解体に伴い、消防団の組織の編成変えが行われるのかどうか、を問うコメントをいただいた。
市民タイムスの記事に関して、そしてコメントに関して知りたくて松本市役所の消防防災課へ出向き、お話を伺った。この時、対応していただいた二人の職員に名刺をお渡しした。208枚目、209枚目の名刺だった。
およそ60基解体撤去が予定されていることが分かった。個々の火の見櫓の撤去費用と予算との兼合い上、どの火の見櫓を撤去するのか、まだはっきりとは決まっていないとのことだった。
また、解体された消防団詰所は建替えを計画しているとのことで、これは今までのケースと同じだ。消防団の編成については、将来的なことはともかく、現時点では編成変えの予定はないとのことだった。
消防団員の確保はどこの自治体にも共通する課題。市の職員からいただいた名刺の裏面(部分)には消防団員募集中!と記されている。
*1 1956年(昭和31年)に建設された。神林地区ではこの年の2月、同時に3基発注しているが、解体されたのはその内の1基。
■ うっかりしていてしばらく前に名刺をお渡したことを記録していなかった。
7月4日、この日の午後辰野町小野でスケッチしていて、声をかけられた。訊けばすぐ近くにお住まいの方で、散歩の途中だったようだ。しばらく立ち話。
私は3年前にスケッチ展をしたこと、この秋にもスケッチ展をしたいと思っていることなどを話した。東京でカメラマンをしていたというKさんはモノクロで都会の風景などを撮っていたことなどを話された。話の成り行きで名刺をお渡しした。207枚目の名刺だった。
何回も描いている辰野町小野の火の見櫓。この日描いたスケッチは「掲載決定!」とはならず、「ボツ」。
長野県朝日村にて 2023.07.15
■ いつの間にか火の見櫓の左後方の倉庫の後ろにあった大きな木が切り倒されていた。風景の雰囲気がだいぶ変わってしまった。スケッチにはその無くなった高木、ハクモクレンを描き入れた。このスケッチでは他にも白いアジサイ(写真には写っていない)の色を青に変え、道路左側の家の前に青いアサガオを咲かせた。アサガオはようやく咲き始めたところで、やはり写真では判然としない。
この風景を描くのは今回が6回目。道路の両側の敷地の高さに差があって、建物の様子が一見不自然に見える(写真参照)。敷地の高さを揃えれば、もっと自然に、リアルに見えると思うが、そのような調整はしないで、そのまま描いた。火の見櫓の左側の大きな倉庫が遠近感に不自然な感じを与えているが、やはりそのまま描いた。屋根の勾配が実際よりちょっと急だったことに写真と見比べて気が付いた。
この風景で悩むのは後方の山並みの表現。稜線、山の端を1本の線を引いて終りにするかどうか・・・。1本の線だけで表現するほど遠くにないので、少しノイズの線を描き入れた。
山の色もどうしようか、考えた。遠くの山は青みを帯びて見える。レイリー散乱と呼ばれる現象だという。だが、この場所から見える山は青みを帯びるほど遠くにない。画面全体の緑のトーンを合わせた方がまとまるだろう、と今回は木々と同系色にした。夏の緑のイメージ。
この風景は、納得いくまで描きたかった。いや、理由は敢えて書かないが、どうしても描かなくてはならなかった。構図、色の調子、共にまとまったと自己判断して、ここのスケッチを終わりにする。
420
『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』堤 未果(幻冬舎新書2023年)
■ 今最も読まれている新書(7月3日~9日 福岡・丸善博多店でランキング1位)。この本がしばらく前から気になっていて、『言語の本質』(過去ログ)を読み終える前に買い求めていた。
書名になっているショックド・クトリンという言葉について、カバーの裏面に次のように説明されている。**テロや大災害など、恐怖で国民が思考停止している最中に、為政者や巨大資本がどさくさに紛れに過激な政策を推し進める悪魔の手法**
本書は次のような章立てになっている。第1章 マイナンバーという国民監視テク、第2章 命につけられる値札――コロナショック・ドクトリン、第3章 脱炭素ユートピアの先にあるディストピア。
マイナンバー、コロナ、脱炭素。この中で特に気になるのはやはりマイナンバーだ。著者の堤さんが信濃毎日新聞に寄稿した記事を読んだ(2023.06.09)。堤さんは「運用トラブル続出のマイナカード 立ち止まってシステム改善を」と題した記事に**ここで一度立ち止まり、他国の失敗と成功を吟味しつつ、丁寧にシステムをつくり直すことだ。便利なだけでなく、誰もが安心できる制度設計への誠意ある尽力は、幸せなデジタル大国を目指す国への信頼を高めるだろう。**と書いている。
国は「あれば便利マイナンバーカード」を「無いと生活できないマイナンバーカード」に変えようとしている。ここで注意しなくてはならないのば、このカードは国にとっては便利だけれど、国民にとって特に便利なことはない、ということ。紙の保険証のどこが不便だろう。今の運転免許証に何か不便なことでも?
本書に情報システム学会の八木晃二常務理事の言葉が紹介されている。**「銀行通帳、銀行印、運転免許証、保険証が入った手提げ金庫の外側には、氏名、誕生日、マイナンバーが貼ってある。金庫は4桁数字のみで開錠可能、つまりこれを常に持ち歩く発想に近いのがなんとも・・・」**(100頁) 高齢者は4桁数字が無くてもOK、などと言い出した国。国民の情報を集めるだけ集めて、その漏洩に関しては、そんなの関係ねぇという姿勢。
アメリカにも社会保障番号という一生変わらない個人番号があるそうだが、本に掲載されているそのカードにはDO NOT CARRY IT WITH YOU.と表記されている(82頁)。そう、持ち歩いちゃいけないという注意喚起。それをこの国は国民が常に持ち歩くようにしようとしている。
もちろん紛失や盗難によるトラブルの責任は国民にあるとしているし、情報漏洩があったとしても国は責任を取らないだろう。本書には「日本のマイナンバー情報は何回も漏れてます」という見出しの節がある(101頁~)。既に某国に漏洩していると指摘され、国会でも取り上げられているし、週刊誌にもこのことに関する記事が載った。
セキュリティの脆弱性と必要性のなさが指摘されるマイナンバーカードを全国民に作らせる本当の理由、堤さんの説明(114頁)はここには載せない。
国は今後更にこのカードへの紐づけ情報も、その情報の利用範囲(もちろん国の)も広げるかもしれない・・・。
朝焼けの詩 2023.07.16 05:03AM
毎朝未明から聞いているNHKの「ラジオ深夜便」、夜11時5分から翌朝5時まで放送の番組。昨夜からの担当は後藤繁栄(しげよし)アンカーだった。後藤さんは番組の最後に毎回「今日一日何か楽しいことがあるといいですね」と言う。自分の気持ちというか、願いと合っていて、「そうだな」といつも思う。
番組終了と同時に起きてリビングの窓から東の空を見るのが日課だ。梅雨明けまぢかの清澄な空、今日は何か楽しいことがあるだろう。
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『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』今井むつみ・秋田喜美(中公新書2023年)
■ この新書を書店で手にして、迷うことなく即買いした。時々こんなことがある。このように買い求めた本は大概おもしろい。この本も実に興味深く、おもしろかった。奥付をみると初版が2023年の5月25日で、そのわずか1か月後、6月20日には3版となっている。今、話題の本のようで、7月15日付 信濃毎日新聞の読書面に掲載されている「売れている10冊(12日・紀伊国屋書店新宿店)」をみると、第3位になっている。研究をベースにした専門的な論考がベストセラーとは・・・。
ヒトはどのように言語を獲得していったのか、そのプロセスに関する論考。オノマトペを出発点として、言語の本質にまで迫っていくロジカルな展開はおもしろく、また小さな子どもたちに実施した実験も示され、実証的で出来の悪い推理小説よりよほどスリリングで先が気になってワクワクしながら読み進んだ。新書でこんなに密度の濃い内容が読めるとは驚き。やはり新書は中公だ。ちなみに文庫は新潮(過去ログ)。
この本で展開される論考のキーワードは「記号接地論」「ブーストラッピング・サイクル *1」「アブダクション推論」。
終章にこの本で展開された論考の論旨がまとめられている。そこからぼくは次の一文を引用する。**私たちの祖先も、発声でアナログ的に外界のモノや出来事を模写していたのが、徐々にオノマトペに変わり、オノマトペが文法化され、体系化されて、現在の記号の体系としての言語に進化していったのではないかという仮説、いわば「オノマトペ言語起源説」を真剣に考えてみたいと思うようになった。**(252頁)
*1 知覚経験から知識を創造し、作った知識を使ってさらに知識を急速に成長させていく学習力(253頁)
このところ火の見櫓のある風景を毎日のようにスケッチしていて、読書にあまり時間を割いていない。『カラー版 名画を見る眼 Ⅱ』高階秀爾(岩波新書2023年)に次いでこの本が今月2冊目と少ない。だが、2冊とも良書。
①
■ 視点の高さを変えると道路の見え方が違う。そして風景の印象も随分違う。①は簡易な折りたたみ椅子に腰かけて、②は立って撮った写真。2連の蔵の前の石積み塀の天端が①では手前下がりになり、②は手前が上がる。今回は立って、②の視点でスケッチした。
蔵の屋根の構造材がどうなっているのか、理解していてもいなくても、スケッチが変わるわけではないけれど、やはり理解していないと描けない。
火の見櫓の右横の住宅は屋根の向きが中間で変わっているけれど、外壁は同面。だが、縦線を引いて、右側が奥に入っているように描いた。2020年に描いた時もそうしていた。ウソの方が本当に見えるということの実例。道路の奥に実際にはない山を描いた。蔵の牛鼻は見えていないけれど描き入れた。
この風景はこのスケッチを可として、終りにしたい。
長野県朝日村古見 2023.07.12
■ 長野県朝日村に現在立っている火の見櫓、全15基のスケッチをするというミッション。このスケッチが12基目。描きやすい所から描いているので、残っているのは描きにくい所だ。そう、絵にならない風景。
集落内の生活道路の交差点の角に3柱1構面梯子型の火の見櫓が立っている。朝日村にはこのタイプが多い。で、火の見櫓の対角には電柱が立っている。①
現地を訪れる前は、写真①のような縦フレのアングルを想定していた。道路の左側はともかく、右側の構成要素(建物や工作物、庭木など)が少なくて物足りない。それにこれはいつもの道路山水的構図だ。他の方向からも見て、写真②の構図で描くことにした。②
現場でこの風景を見た時、一番手前の電柱は描かないでおこう、と思った。一通り線描してみると、風景構成要素がバラバラ、離散的でまとまりがない・・・。最後に電柱を描き加えた。すると、あら不思議。電柱によって奥行き感が強調され、交差点の雰囲気が落ち着いて構図がまとまった。
太い筆を使ってラフに着色した。ラフな線描にラフな着色で調子が整った、かな。緑色はもっと、鮮やかな色にしたい。彩度が高いのに落ち着いた色、ってどんな色だろう・・・。
①
松本市神林 2023.07.11
■ この火の見櫓のある風景は2020年に既に描いている。その時は左端の住宅は画面に入れていない。その方が構図が整うから。もう一度ここを描こうと思う。②
この風景を特徴づけているのは2連の蔵だ。庭木に隠されていて手前の蔵の妻壁は見えないが、写真②の様になっている。棟梁の木口を包む牛鼻の下側が窓枠(?)と取り合って、欠けている。このような牛鼻を初めて見た。2020年にスケッチした時は、関心が及ばず気が付かなかった。ごく一般的なのは下の写真③、④のように満月状態だ。③
松本市里山辺の蔵の牛鼻 2012.03.11④
茅野市 2015.09.27
仮に写真②のように描かれたスケッチをぼくが見たとしたら、どうだろう・・・。描き損じたのかな、と思うに違いない。ぼくはウソでも写真⑤のように牛鼻と窓を離して描くだろう。幸いにも、庭木に隠されて見えないが。ただし、蔵に対象を絞って描くなら②のように描く。⑤
茅野市 2010.07.24
時にウソを描く、ということも必要だ。そうしないとリアルに見えないことがあるから。
辰野町小野 2023.07.05
■ この風景を描くのは7回目。内1回はもっと火の見櫓に近いところから描いたが、火の見櫓の柱など探るように線を数本引いていて、ぼくの描法とは違うので、このブログにも載せていない。やはり描き方、表現にはこだわりたい。
対象物の形を決定的な1本の線で描きたい。そう、的確な線描、それも一気に。色もそれぞれの対象物(それが建物でも木でも山でも)を代表する1色で塗りたい。上掲のスケッチはこのような私の願いというか、思いからまだ遠い。
マティスの絵は形も色も次第に単純化されていった。晩年の切り紙絵のような風景スケッチが描けないだろうか・・・。長野県立美術館で開催されている葛飾北斎の作品展に出かけるか、表現のヒントが見つかると思うから。
松本市神林 2013.06.07
2023.07.10
松本市神林 2013.06.07
2023.07.10
■ しばらく前にここ、神林地区で消防団詰所と火の見櫓の解体作業中ということを知人から知らされた。松本市では本年度10基前後の火の見櫓の解体を予定している、と市民タイムスが報じた(2023.05.27)。
この火の見櫓がその内の1基かどうか分からないが、跡形も無く姿を消していた。残念ながらこれが現実。
長野県朝日村針尾 2023.07.09
①
道路山水的構図で好ましいが火の見櫓の大半が消防団詰所に隠されてしまっている・・・。群れ咲く黄色い花が色彩的なアクセントになる。火の見櫓の位置を変えた。もう少し高く描いても好かったかもしれない。
写真は広角で、遠近感がかなり強調されている。②
左手前の折板屋根の車置場が無ければ、この風景も好い。遠景の山も好ましい。遠くの集落をどう表現するか・・・。ここも描いてみたい。③
前景が物足りない。魅力的な構図にまとめることは困難。④
風景構成要素が少なく、単調。
前稿に載せた火の見櫓のスケッチをしようと、付近を歩いて好ましい構図を探した。①に決めた。
火の見櫓の7,8割が道路沿いに立っているので、どうしても構図がワンパターンになりがち。手前から奥に幾重も重なる層から成る風景も描きたい。どこかないかな・・・。
(再)長野県朝日村針尾 3柱33型複合脚(正面ロングアーチ、他2面交叉ブレース囲い)2023.07.09
■ 火の見櫓巡りを始めたのは2010年の5月だが、その年の9月にこの火の見櫓を見ている。まだ観察眼がなく、その時のブログはなんとなくの印象記に過ぎない。昨日(9日)改めて観察した。
櫓は上方へ直線的に逓減している。それ程太くはないが、寸胴という印象を受ける。この規模で屋根と見張り台が3角形というのは少ないと思う。
見張り台の手すりの高さが一般的なものより少し高めかもしれない。手すりの下端が外側にぷくっと膨らんでいる。このことに特に機能的な意味は見いだせない。単なるデザインか。
避雷針に付いている飾りは珍しい形だ。
この簡易な踊り場のところで梯子を切り替えていない。半鐘と共に後付けされたものと思われる。となると、踊り場という呼び名は適さない。では・・・?
複合脚(正面ロングアーチ、他2面交叉ブレース囲い)
辰野町にて 線描:2023.06.29、着色:07.08
■ 奥行き方向に伸びる道路とその両側の家屋や塀、樹木などによって遠近感が強調されている「道路山水」的風景。そこに火の見櫓が立っていれば何回でもスケッチしたくなる。
辰野町の横川地区は横川川左岸沿いの河岸段丘に形成された集落。道路の両側で土地の高さが異なっていて、変化に富んだ風景が形成されている。
しばらく前(06.29)、この風景を線描したが「しまった!ミスった・・・」というところが1か所あって着色していなかった。その修正法を思いついて、修正。それで着色したという次第。
最近頻繁にスケッチしているけれど、着色でいつも難しいと思うのは緑色。このスケッチでようやく好きな緑色でまとめることができ、気に入っている。
下の写真は昨年の新緑の季節に撮ったものだから、いろんな緑がある。
撮影:2022.05.11