和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

『やぶ入り』と蕪村。

2023-11-28 | 詩歌
吉田光邦著「日本の職人」(角川選書)をひらいてたら、
今まで食わず嫌いのままだった落語関係本に興味がわく。
これから、落語の本が読めるかもしれない(笑)。

さて「日本の職人」のなかに江戸時代の年季奉公を
とりあげた箇所があるのでした。

「・・年季奉公のほかに一年または半年で代る出替り奉公があったが、
 技術を身につけねばならぬ職人の場合は、こうした例はみられない。

 商家でも番頭、手代、丁稚(でっち)、小僧はふつう10年を
 奉公の期限としていたが、職人も同じように10年をふつうとしていた。
 ・・・・・・・・・

 徒弟は衣食住一切を、主人から支給されて働くことになる。
 衣はつまり御仕着(おしきせ)で夏冬二回がふつうだった。

 また正月、7月の2回に3日ずつ藪入(やぶい)りといって
 実家に帰り休養することができた。この1年に6日が
 奉公人の唯一の休日だったのである。・・・・ 」(p271・徒弟制度)



ああ、そういえばと、与謝野蕪村が思い浮かぶ。
ここには、中村草田男著「蕪村集」(大修館書店)から引用。

  やぶ入(いり)の夢や小豆の煮(にえ)るうち

草田男訳】 藪入に帰った子供が、親の心づくしの小豆が煮えあがるまでと、
      しばらく身をやすめて眠っている。いかにも時間が限られた
      あわただしい夢の間だが、そこには楽しくもさまざまな
      想いが通っていることであろう。

そのあとの注に、季題は藪入として
『 毎年正月16日に、男女の奉公人が許されて父母の膝下に帰り、
  一日の休養をとりまた随意に行楽すること。 』

つぎの句は、『 やぶ入りの跨(またい)で過(すぎ)ぬ凧の糸 』


うん。高橋治著「蕪村春秋」のはじまりは、『やぶ入り』でした。
最後に、そのはじまりを引用。

「  やぶ入や浪花(なには)を出(いで)て長柄(ながら)川
   春風や堤(つつみ)長うして家遠し

  ・・・・上掲二句により蕪村不朽の傑作
  『春風馬堤曲(しゅんぷうばていのきょく)』が書き出される・・
  蕪村の前書きによれば、ある日やぶ入りで故郷に帰る若い女と道連れになり、
  同行数里、18首からなる詩句でその女の心を詠んだ作品だという・・

  やぶ入りは正月と盆の16日前後に、昔の奉公人が
  親もとに帰る貴重な休暇である。・・・     」


ちなみに、高橋治氏のこの本には、こうもありました。

「 蕪村吟とされるやぶ入りの句は11句残されている。
  とびぬけて多いとはいえないものの、ひとつの季語
  による作品数としてはかなり目立つことである。

  因みに、芭蕉にはやぶ入りを詠んだ句は一句もない。 」


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