淡交社に
「ほんやら洞と歩く京都いきあたりばったり」
中村勝(文)・甲斐扶佐義(写真)・2000年。
という写真集に文章をつた体裁の本がありまして、
何となく気になる写真がならんでいます。
ふだんの京都で出くわした町の人たちが写っています。
ときには、通行人の中に、
「 自宅近くの今出川寺町付近を散歩する桑原武夫 」(p106)
「 出町付近、秋野不矩さん 」(p107)
というのが混じっていたりします。
この本をひらくと、今でもそこに居るような息づかいが感じられる。
そんな写真が並んでいるので、いつでも文は読まずに写真を見ます。
気になるので古本で甲斐扶佐義の写真集があれば、
そうして、それが安ければ買うことにしています。
今回は、甲斐扶佐義著「ほんやら洞日乗」(風媒社・2015年)を
手にしました。こちらは、ブログの文章を集めたような一冊です。
そしてオマケのように写真が載っているのでした。
そのなかに、秋野不矩さんの息子さんの写真が載っている。
その下の解説を引用。
「 2005年3月 アキノイサム展
母・秋野不矩さんは50歳代からインドに魅せられ、
晩年はインド、アフリカと描いた。60歳代に
2度火事にあったが、それからの仕事が凄いのだという。
亥左牟さんは不矩さんについてインドに渡り、
以後、10数年世界各地を放浪しながら絵を描いた。
90年代から我が家によく泊まり、ほんやら洞でも
何度か個展(弟の子弦さんも)を開き、
不矩さんも観に来た。・・・ 」
はい。写真はその個展の会場のようで、
テーブルに巻物のような絵をひろげていて、
それを眺めている人の中央に、身長が高くて、
ほっそりしていて、白いあごひげが胸までとどいている人が
説明はないけれども、イサムさんのようです。
はい。まわりの方が巻物のような絵をのぞき込んでいるのを
まるで、自分の内面を覗きこまれているような縮こまった姿です。
ここで、私はどうしたか(笑)。
そういえば、藤森照信著「建築探偵、本を伐る」(晶文社・2001年)
というのが読みたくなったのでした。この本は書評集でした。
発売当時の価格は2600円+税となっております。
うん。高価なので買わずにそのままになっておりました。
ネットで検索すると、送料込みで785円。
この機会に買うことにしました。
この本の中に、秋野不矩さんの2冊の本の書評が載っている。
というのを知っておりました。本で4ページほどの文です。
今回は、それを引用したかったのでした。
藤森さんの書評のはじまりは
「秋野不矩さんの絵について、司馬遼太郎は、
『 いきものがもつよごれを、心の目のフィルターで漉(こ)しに漉し、
ようやく得られたひと雫(しずく) 』と、
『秋野不矩 インド』の中で解説しているが、そのとおりだと思う。」
はい。ここから藤森さんの書評がはじまっておりました。
「どうして不矩さんの絵は『いきものがもつ よごれ』から
自由なのかを考えた。」
「この謎の手掛かりは、『画文集 パウルの歌』に集められた
文章の中に読みとることができる。昭和6年、弱冠23歳で
帝展に初出品・初入選を果たし、そして翌年に出した絵は、
『 野良犬が荒野を彷徨(さまよ)って歩く図であったが、
これは見事に落選し、私は失意の底に沈んだ。
・・・あばらも透けて見える野良犬は美の対象には
認められなかったようだ。翌年は
白萩の陰に湯浴みする少女で入選、
その後落ちることはなかった。
しかし『野良犬』が入選したならば、
もっと自分の世界を追求してゆけたであろう。
やはり落選せぬような絵を描くこととなり、
残念に思ったことである 』
どうも昭和6年の時点で、花鳥風月とは別の世界に引かれながら、
しかし、踏み出すことは出来ず、戦後になって
50歳を過ぎてからインドと出合い、ついに本当の
我が道を発見した、ということなのだろう。・・・・・・
実際に秋野不矩の日本画の前に立つと、
インドの乾いた空気とよごれなき大地が
紙の上にあやまたず定着しているのが分かる。
絵の表面が、まるで風に流れる砂漠の砂のように
サラサラしているのだ。・・・・ 」(p144~147)
はい。このあとに日本画の『岩絵の具』を持ち出して、
藤森さんの書評は盛り上がってゆくのですが・・
『 日本画とは紙の上に広がる砂漠である 』
ということを書評の結論へと結びつけてゆくのでした。
何気なく、ここだけでも読めてよかった。この箇所は、
新刊の時に買ったとして味読できなかったに相違ない。
20年程前に神戸で開催された時
観にいきました。
私は長年日本画を習っていますが
本当は油絵をやりたかったのに
その時 日程の合うのが 日本画しかなくて~
日本画の絵の具は 素晴らしいと思います。
岩絵の具と 水干絵の具の2種類を使うのですが
まるで マジックのように思えます。
コメントありがとうございます。
一度、秋野不矩美術館へ行きました。
静岡市天竜市にありました。
設計が藤森照信+内田祥士。
「秋野不矩美術館開館の際には、
展示壁面に合わせて横7メートル
にもおよぶ大作を制作している。」
のだそうで、それがオリッサの寺院でした。
美術館をつくりそれへと建物の絵を描いた。
ひろい部屋にそれは置かれ、
離れて見たり、端から端に
歩いてみながら見てました。