映画とライフデザイン

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映画「ビブリア古書堂の事件手帖」黒木華

2019-06-08 09:43:53 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ビブリア古書堂の事件手帖」は2018年公開の日本映画

「古書」というキーワードには弱い。しかも、三島有紀子監督の「幼な子われらに生まれ」はよくできた作品と感じたのでDVDを手に取る。恥ずかしながら「ビブリア古書堂の事件手帖」が人気文庫であることは知らず、もちろん原作は未読である。文学オタクの若き店主が営む古本屋にある太宰治の希少本をめぐって繰り広げられる話である。


人見知りだけれども、本に関する博学だという黒木華が演じるキャラには魅かれる。しかも、そのキャラを巧みに演じている。もう一人の主人公である古本屋に働きにきた野村周平演じる若者の祖母の若き日のラブストーリーも悪くないが、時代考証その他に難ありと感じる。原作を読んだことがないので評価はしずらいが、脚本が弱い気がする。至る所に疑問や矛盾を感じるところがある。でも、この主人公のキャラで少しは帳消しにできるかもしれない。

鎌倉の片隅にひそやかに佇む古書店“ビブリア古書堂”に、五浦大輔(野村周平)という若者がやって来る。亡き祖母(渡辺美佐子)の遺品の中から出てきた夏目漱石の『それから』に記された著者のサインの真偽を確かめたいという。若き店主の篠川栞子(黒木華)は極度の人見知りだが、ひとたび本を手にすると、とめどなく知識が溢れ出す。


そしてその優れた洞察力と推理力によって、栞子はサインの謎を解き明かし、大輔の祖母が秘密の恋に落ちていたと指摘する。過去のある出来事から本が読めなくなった大輔だったが、それが縁となりビブリア古書堂で働き始める。そんなある日、栞子は太宰治の『晩年』の希少本をめぐって、謎の人物から脅迫されていると大輔に告白。その正体を探り始めた二人は、漱石と太宰の二冊の本に隠された秘密が、大輔にかかわる一つの真実に繋がっていることを知る。(作品情報 引用)



1.北鎌倉と題材設定

桑田佳祐の妻である原由子がエンディングで歌う「北鎌倉の思い出」がいい。原作ではビブリア古書堂は北鎌倉にある古本屋ということになっている。自分の大学の同期が北鎌倉から山に向かって少し上がったところに昔から住んでいる。はじめて夜行ったときに真っ暗で怖かった。隣家に小津安二郎もいたらしい。東出昌大と夏帆が演じる不倫話で2人で密会する木陰のエリアがその友人宅の近所の匂いがした。野村周平が自転車で走らせる街にこの地の住居表示である山ノ内の表示があったので北鎌倉でロケかと思ったら、ロケ地は常陸太田とか別のところだったらしい。


映像で鎌倉を連想させるとなると、江ノ電を映すのがいちばんであろう。ただ、北鎌倉となると違うよね。長谷に本を盗んで人の家を探しに行くシーンがある。そこには私の父母の間を結び付けた母の先輩がいた。豪快な女性だった。実は大佛次郎の有名小説のモデルである。彼女も自分の夫がありながら、政治家でもある有名な弁護士の彼女になっていた。山手の港の見える丘公園に今も大佛次郎記念館がある。でも大佛次郎も鎌倉文化人である。若き店員の亡き祖母のラブストーリーで東出昌大が心を寄せる男を演じる。その男は裕福な家で引きこもりのように小説を書いている人物設定となっている。鎌倉に住む自分の友人の父親も売れるまで引きこもっていた似たような小説家志望だったらしい。鎌倉はそういう風土だったのであろう。それなので題材自体には不自然さは感じない。


2.1964年って

東出昌大と夏帆が演じる秘密の恋の出会いは、夏帆の夫が営む食堂に東出昌大が食べに来たことからはじまる。その時1964年だということを示すために食堂の中でマラソン中継をやっている。国立競技場に2位で入場した円谷幸吉ヒートリーが追い抜く劇的なシーンを応援している姿である。でも、この店内の映像ちょっと古すぎない?10~15年くらい昔って感じかな?鎌倉って時間が止まっているところだけど、ちょっと違う気がする。


自分の家の別宅が江ノ島の腰越にあった。住所は鎌倉市腰越である。品川駅から横須賀線に乗って鎌倉に向かう。昭和30~40年代の横浜駅では大勢の崎陽軒の売り子がホームでシウマイを売る。電車も気を利かせて数分停車する。食べ始めてしばらくすると、右手に大船の観音様を見る。そして鎌倉につく。江ノ電に乗り換えるだけだけど、鶴岡八幡宮に向かって鎌倉街中もたまに歩いた。こういう風貌の食堂もあったかもしれない。でも1964年はもうちょっと現代に近づいていると思う。ちょうどそのころ祖母役の渡辺美佐子さんはTV「ただいま11人」にでて現代風娘を演じていた。時代考証教えてやってくれ。


3.ムカつく若者

ビブリア古書堂を手伝うようになった五浦大輔(野村周平)は店主の篠川栞子(黒木華)が大事に持っているお店で一番金額的価値のある本、太宰治の「晩年」を守ろうとする。大輔は狙いをつけてくる連中から守るために自宅で保管しようとする。栞子は結構ですといいたいところだが、むりやり持っていく。ところが、何者かに襲われ、本は奪われてしまう。ショックを受ける大輔。栞子に謝りに行くが、それは本物の希少本でないという。大輔は自分のこと信じてもらえなかったのですかと古本屋を辞めさせてもらうという。


このシーンがいちばんむかつく。自分が失くしてしまったことをすっかり忘れて、信じてもらえなかったとよく言えたもんだ。あえてそういうストーリーにしていると思うが、そのあたりから大輔というキャラにムカついてしまった。栞子さんが身内をも騙して隠すのは当然でしょう。後半はだれる。この男は責任感のかけらもないし、許せない若者だ。

いろいろ話はあるけれど、「幼な子われらに生まれ」での三島有紀子監督の手腕を期待したけど、さほどでもなかった。あの映画は脚本が奇才荒井晴彦でさすがにそれと比較するのは酷かもしれない。主演のキャラもいいし題材自体に不自然さは感じないけどちょっと弱かったという印象。


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