映画とライフデザイン

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映画「マイスモールランド」と60年目のキューポラのある街

2022-05-08 18:11:03 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「マイスモールランド」を映画館で観てきました。


映画「マイスモールランド」は埼玉川口を舞台に在日クルド人の高校生の悲哀を描いた作品で、是枝裕和監督の映画制作集団に属する川和田恵真の監督第1作目である。1962年の吉永小百合が川口を舞台に演じたキューポラのある街」で、高校に行けたくてもいけない悲しい中学生を描いていたのとアナロジーを感じる。あえて「60年目のキューポラのある街」と言わせてもらう。


在日クルド人のサーリャ(嵐莉菜)は家族とともに小学校のときに来日して、現在は17歳の高校生となって小学校の教員免許がとれる大学を目指している。父親は建物解体業に従事して、妹と弟と4人で暮らしている。


父親は難民申請を出しているが、却下されて当局から家族全員の在留カードを無効にされた。父親は仕事をするなと命じられ、家族全員県をまたいで移動はするなと言われている。サーリャは荒川を越えて東京のコンビニでバイトしていた。そこで知り合った聡太(奥平大兼)と軽い恋に陥るが、県境を越えて働けなくなるのであるが。。。


リアル感が半端じゃない映画である。
脇役として出演する名優たちの顔を見なければ、ドキュメンタリーのように錯覚をもってしまう。優れた映画という感じはない。中途半端と思えるシーンも多い。ただ、主演と家族のパフォーマンスが実話のようで、在日クルド人の悲哀が伝わってきた。予想よりも心に残る映画になった。

⒈川口とキューポラのある街との類似
1962年のキューポラのある街では、川口の鋳物職人の娘である中学3年生の吉永小百合が、勉強はできるのに修学旅行にも行けないくらい貧乏で行きたい名門校への進学をあきらめる。貧しかった当時の日本を象徴する悲しい物語である。「マイスモールランド」でも、サーリャは友人に教えるくらい勉強ができて担任の先生から大学進学の太鼓判をおされているのに、在留カードもなくビザなしでは大学への推薦は難しいことになるのだ。

キューポラのある街で水戸黄門役で有名な東野英治郎が演じる父親が娘の吉永小百合の友人から紹介されて勤めた鋳物工場を辞めて失業してしまう。ここでも同様に主人公の父親が解体工事の職を失う。格差社会と言われて久しいが、1962年の日本の格差は今と比べものにならないほど酷い。しかし、難民として、正式な日本への移住ができていない人たちにとっては現在も格差を超越した世界に直面する。


キューポラのある街吉永小百合が通っていた荒川沿いの中学校が、建て替えられた姿で映し出される。東京と川口を結ぶ京浜東北線の鉄橋の下で吉永小百合が初潮を迎えるシーンに対して、国道122号が通る鉄橋を何度も自転車でサーリャが渡ったり、鉄橋の下で恋人の聡太と語り合う。

60年前の川口には朝鮮人が数多く住んでいた。左翼思想が浸透していた時期のキューポラのある街では北朝鮮への帰還に前向きな語り方をしていた。今の状況は想像もつかなかっただろう。このクルド人問題はそれよりもややこしい感じがする。

⒉クルド人
埼玉南部の蕨、川口を中心に中東系の顔立ちをしている人たちを見かけることが多くなった。それがクルド人とわかるようになったのは最近だ。公園にもいるし、楽しそうに家族でサイゼリヤで食事している。同じエリアには中国人の方が多い。川口の芝園団地では4500人の団地に2300人中国人が居住している。中国人の場合、一瞬の見かけではわからないが、中東系はすぐわかるのでもっといるように見える。


クルド人はもともとトルコやシリア地域に昔から住んでいた民族で、もともとの領土が分割してあぶれてしまったというセリフがある。歴史的に見ても、国境線が常に変わってきたわけだ。難民申請が通らないのは、日本政府と親しい関係にあるトルコとの関係を尊重して、本国の情勢が厳しい時に難民として引き取るという難民ルールに矛盾するという理由のようだ。この映画を観ると、日本在留に超越した対応をして欲しいという気持ちになる。

⒊美貌の主人公
主人公のサーリャを演じた嵐莉菜超越した美貌の持ち主だ。誰しもがそう思うであろう。父親は中東系だが、ドイツも含めた5カ国の混血だという。

キューポラのある街で、吉永小百合が友人に誘われて、夜の街を彷徨い不良に睡眠薬を飲まされて危ういシーンがある。この映画で似たようなシーンがある。友人に誘われ「パパ活」でカラオケに行って小遣いをもらったのに味をしめたサーリャが、賃料滞納で家主から催促を受けたので、一人でパパ活をやって賃料の足しにしようとするシーンがある。これも一瞬危ない

友人に「サーリャくらいかわいかったら、パパ活でもっと稼げるよ」と言われてやったわけだ。確かにそのとおり可愛い。それにしても、脚本は60年前の作品をうまく現代風にアレンジしたものと想像する。嵐莉奈もきっと数十年後に大物女優になるかもしれない。

今回の父親、妹、弟がなんと実の家族だという。妙に息が合っているのはそういうことなのか。ちょっと古いがTV「チャコちゃん」四方晴美の実の両親新派の名優安井昌二小田切みきがコンビを組んだ時を思い出す。


⒋川和田監督と名優ぞろいの脇役たち
エンディングロールのクレジットに是枝裕和や西川美和という現代邦画を引っ張る映画人の名前がある。日英の混血だという川和田恵真監督は著名映画人の下働きで腕を磨いてきたようだ。

大物映画人が関わっていることからか、脇役に名優が揃う。
難民の支援者である先生役に、数多くお父さん役を演じた平泉成、サーリャの家族が住む賃貸住宅の大家役に、昭和のTVドラマで気の弱い若者役を演じた小倉一郎、おせっかいなコンビニ店長役が藤井隆、コンビニ店で知り合った恋人聡太の母親に池脇千鶴が加わる。おそらくこの題材に関心を持ったのであろう。

驚いたのは池脇千鶴だ。稲垣吾郎主演の「半世界」で見てからちょっと太ったのかな?クスリを飲んでいるかのように顔が病的にむくんでいて一瞬わからなかった。異様に感じた。

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