映画とライフデザイン

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映画「キクとイサム」 今井正

2016-08-05 08:20:24 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「キクとイサム」は昭和34年(1959年)の今井正監督作品、「どっこい生きている」との名画座二本立てを見てきました。


キネマ旬報1位作品を5本も監督している今井正の作品の中でも、「キクとイサム」は個人的には特に優れた作品だと思う。戦争が終結して米軍兵士が駐留する中で、日本人女性との多くのカップルが存在したという。そして混血の子供が生まれたのだ。ここでは福島の山奥の農村で祖母と暮らす黒人との混血姉弟にスポットをあてる。混血の子供への差別をクローズアップしているが、全体に流れるムードはコメディにも似たものである。水木洋子の脚本はすばらしいが、それには北林谷栄演じる祖母の存在が大きい。お見事だ。

会津の田舎の小学校で、男まさりに遊ぶ体格のいい女の子キク(高橋恵美子)が映しだされる。彼女は農家を営む祖母のしげばあさん(北林谷栄)と弟イサム(奥の山ジョージ)と暮らしている。しげばあさんの娘でキクとイサムの母親は2人を生んだあと、すでに病気で亡くなっていて、2人はばあさんに育てられていた。しかし、体格もよく近所の悪ガキとのケンカが絶えない2人はばあさんの手に負えなくなっていた上、ばあさんは腰が悪かった。

ある日、病院で腰の治療を受けるため、ばあさんはキクに野菜かごを背負わせて町へ出て行った。2人で野菜を売り歩いたあとで、そのまま診療所に行き院長(宮口精二)から診察をうける。キクはばあさんから貰った十円で町の行商(三井弘次)からくしを買うと楽しそうに先に帰った。混血の姉弟の面倒をみるのに苦慮しているばあさんをみて、院長はアメリカの家庭への養子縁組の世話をしている人間を知っているという話をする。

しばらくすると、カメラを下げた見知らぬ男(滝沢修)が村へ現れ、仲間と遊んでいたイサムの写真をとった。キクはその場から逃げた。姉弟のどちらかを養子縁組するために男が現れたのだ。イサムは学校で友達から「クロンボ」とからかわれ、ケンカばかりしていた。キクはアメリカに行くことを嫌がったが、イサムはいいよと受ける。
結局イサムはアメリカの農園主に引きとられることになる。出発の時、引き取りに来た男に連れられて、汽車に乗りこむ。しかし、そのあとイサムは急にさみしくなり必死に泣きわめく。キクは走り去る汽車の姿を追った。キク一人がばあさんと残されたのであるが。。。


主役2人はこの映画のために探しだされた無名の黒人との混血の子供たちであるが、脇を固めるのはこの時代の日本映画や演劇界を支えたそうそうたるメンバーだ。滝沢修、宮口精二、三國連太郎、東野英治郎、殿山泰司、三島雅夫、多々良純などの男性陣に加えて荒木道子、賀原夏子と加わると、自分が幼い頃昭和40年代のお茶の間のテレビで良く見かけた顔が揃い親しみがわく。特に女教師を演じた荒木道子はそののち「ただいま11人」で大家族の母親役を演じ、ずっとお母さんのイメージが強かったが、ここではスマートでなかなかいい女ぶりだ。

1.混血の子供と水木洋子
今井正と水木洋子はこの二人を探しだすために、かなりの時間をかけたという。もともとは主役のキクの女の子はイメージが対照的な子だったのをあえて、太っちょでいかにも体格のいい黒人の父親をもつといったイメージの高橋恵美子水木洋子が起用したという。そして、彼女らしさを出す脚本にしたという。このあたりはさすがといった感じだ。

自分の前の勤務地であった千葉市川の高級住宅地の中に水木洋子記念館というのがあった。谷口千吉とも結婚していた時期があったというが、独身だった彼女は市川市に全財産寄付したというさすがだ。浮雲、山の音、おとうとなどすばらしい作品を残した水木洋子が、ここではやさしい目線で2人の姉弟を追っている。しかも、北林にしゃべらせるばあさん言葉が滑稽で、近所の人たちの田舎言葉の調子もコメディのようだ。キクが芝居一座に酒を飲まされた上で、八百屋のオート三輪の上に子守している赤ん坊を置いていってそのまま近所の悪ガキとケンカするシーンもおもしろい。本当にうまい脚本だ。

2.北林谷栄
この映画のころは48歳だったという。平成になってからもおばあさんを演じ続けた北林も永遠のおばあさん女優といえよう。しかも、演技作りでこの作品では前歯をぬいたという。凄いプロ魂だ。賞を軒並みさらっていったのは当然と言えよう。このほかの作品では大島渚作品「太陽の墓場」、今村昌平作品「にっぽん昆虫記」が印象に残る。


最後に向けてのキクとばあさんの交情がいい。後味がいい映画だ。

(参考作品)
キクとイサム
今井正監督と脚本水木洋子の名コンビ

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