映画とライフデザイン

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映画「猫と庄造と二人のをんな」森繁久彌&山田五十鈴&香川京子

2021-04-01 18:31:19 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「猫と庄造と二人のをんな」を名画座で観てきました。

これは無茶苦茶おもしろい!
森繁久彌は昭和30年代くらいまでは、ダメ男を演じると天下一品だった。晩年しか知らない人から見ると,この情けなさにひたすら笑うしかない。同じ豊田四郎監督作品「夫婦善哉」でのダメ男ぶりも楽しいが、それよりも「猫と庄造と二人のをんな」の方が上方のお笑いを見ているような軽快なタッチで実に笑える。コメディの傑作だ。


芦屋の浜辺の近くで小さな荒物屋を営んでいる庄造の母親おりん(浪花千栄子)と庄造の女房品子(山田五十鈴)が大げんかして、品子が家を飛び出そうとしている。仲人の畳屋が現れ説得しても無理そうなので、荷物を運び出すのを手伝っている。都合の悪い庄造は外へ飛び出しているのだ。

おりんは夫亡きあと女手一つで出来の悪い息子庄造(森繁久彌)を育て上げた。しかし、庄造はどんな仕事についても長続きはしない。飼い猫のリリーを可愛がるばかりの毎日だ。品子は結婚して4年、おりんとは全くそりが合わなかった。庄造の叔父が娘福子(香川京子)を持参金付きで庄造に嫁がせてくれるとなったので、おりんはすぐさま折り合いの悪い品子を追い出そうと企んだ。庄造はじゃじゃ馬女の福子にいいように使われて海辺で遊んでいる。


行き場所のない品子は妹初子の家にもぐりこんだ。ある日、元仲人の畳屋から自分の後釜に福子が来たと教えてもらい憤慨する。品子は福子にあいだを引き裂こうと手紙を書いたり、猫のリリーを引き取ろうと庄造に持ちかけるが、すべて品子の企みだとおりんが気付き騒ぎは収まる。しかし、品子はあきらめない。リリーが品子のもとにくれば、必ず庄造がこっちに来て縁が戻ると確信していた。偶然を装い、品子は庄造を待ち伏せしたり、福子の目の前に現れ、庄造と自分が会っていると話を錯乱させる。

だが庄造は福子が来てからもリリーの面倒を見るばかりである。福子も猫のリリーへの溺愛に我慢できなくなり、リリーは品子が引き取ることになる。庄造は落胆してしまう。しかし、品子の家でもなつかぬリリーに困っていたが、留守の間に逃げてしまうのであるが。。。

⒈関西弁の応酬
主要出演者は山田五十鈴、浪花千栄子、森繁久彌といずれもネイティブな関西弁を話せるので、不自然さがない。香川京子も履歴を見ると、芦屋で幼少期を過ごしている。その女性3人の関西弁の応酬に疾走感がある。まさに昭和関西の原風景をありのままに映し出していてお笑いを見ている気分になる。


森繁久彌はボケの系統のダメ男を演じて、ほかの3人の女性と張り合わない役柄だ。本人は名門旧制北野中を出ている秀才だが、その後上京しているので、露骨な関西弁が出るキャラではない。でも、甲斐性のない大阪のボンボン役はうまい。晩年の大富豪キャラになる要素が見当たらない。

山田五十鈴は同じ昭和31年に成瀬巳喜男「流れる」柳橋芸者の置屋女将を演じた。江戸のど真ん中で東京弁だ。新幹線が走る昭和39年までは東京大阪の時間的距離感もあり、まだTVも普及しているとは言えない時代にしては極めて器用な東西言葉の使い分けである。

⒉女の業
女のいやらしさというのが、前面にクローズアップされる。浪花千栄子と山田五十鈴が嫁姑の関係で仲が悪い。お互いに女の業が深い。あっけなく、出て行って山田五十鈴が清々したのかと思うと、若い女が自分の後釜に来たのでムカつく。香川京子もいつもの上品なお嬢様キャラとはまったく違うアバズレ系で、そう簡単には言うことは聞かない。亭主を「あんた」と言う。

実はウチの奥さんも生まれは尼崎で関東に来て26年関西弁しか話さないが、自分のことを「あんた」と言う。そんなもんだ。


この激しい応酬が実に楽しい。エゴのぶつかり合いだ。ふらっと現れた山田五十鈴と香川京子が諍いを起こしているのに気付いた浪花千栄子がこっそり隠れる。こんな仕草に笑える。でも、こんな連中の中で暮らすことになったら、生きた心地がしないだろう。とは言うものの、庄造こと森繁久彌は極楽とんぼで、何を言われても、「ぬかに釘」だし「柳に風」猫を可愛がることしか能がない。

ただ、戦後この頃はすべてが男ありきである。決して立場が悪いわけではない。むしろいちばんなのは猫か?題名「猫と庄造と2人のをんな」の順番通りだ。谷崎潤一郎の意図がここにありきか?

⒊香川京子の変貌
何度もこのブログで書いているが、まだ子供だった頃から香川京子のことをずっと素敵な人だと思っていた。年齢が亡くなった自分の父より1つ上である。普通は父母の年ごろだと好きな女性には縁遠いはずだけど違う。その香川京子の出演作でも、溝口健二監督「近松物語」と狂女を演じた黒澤明監督「赤ひげの演技は毎度の育ちの良さそうなお嬢様や奥様役とはまったく違う。でも、この映画の香川京子ももっと一味違う。新境地だ。


最近の若い女の子が夏に着るような水着のような服を着ていて、言葉遣いもいつものお上品さのかけらもない。こんなに肌を見せることってない女優さんなので、思いがけないスタイルの良さに驚く。オールドファンは一見の価値あり。でも、やっとたどり着いたこの映画はDVDないんだよなあ。観れて良かった。

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