映画とライフデザイン

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映画「大番」 加東大介&淡島千景

2022-01-20 17:35:39 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「大番」を名画座で観てきました。


「大番」は獅子文六の相場師の一生を描いた小説を1957年に加東大介主演で映画化した作品である。当時の東宝スターが軒並み登場する。「大番」はシリーズ化して加東大介の代表作ともいえる。まだ少年の頃、TVの映画劇場で見た覚えがあるが、当時株の知識はなかった。記憶はないに等しい。名画座の淡島千景特集で「大番」が取り上げられるのがわかり楽しみにしていた。

左とん平と林美智子のコンビでNHKで夜の連続ドラマシリーズでやっていたのも見ている。おもしろかった記憶がある。今回観ていて、そういえばあの時主演二人のやりとりでこんなセリフがあったなというのに気づく。もちろん、大人になってから獅子文六の原作は読了している。でも、自分が若い頃は新潮文庫に獅子文六の作品が多々あったが今は見ることがない。

愛媛の田舎から単身日本橋に乗り込んできた青年ギューちゃんが、兜町で株の世界に入り、大儲けすることもあれば、大損もする紆余屈折の物語である。こうやって観てみると、簡潔に「大番」のポイントがまとめられていることに気づく。話がすっと頭に入っていき、わかりやすい。これは千葉泰樹監督の腕だと改めて感心する。しかも、登場人物に共感が持てる。これは大きい。

昭和二年の夏。四国宇和島から18歳の若者赤羽丑之助(加東大介)が上京して、東京駅に降り立ちそば屋で働く同郷の友人がいる日本橋に向かう。ようやく見つけたものの金はない。ちょっとしたトラブルがあり、宇和島を抜け出してきたのだ。見るに見かねたそば屋の店主が知り合いの太田屋という株屋を紹介し下働きとして働くことになる。大食いの彼は丑からとってギューちゃんと呼ばれる。先輩の新どん(仲代達矢)の指導もあって、早々に認められ取引所の場立ちも任される。

その後、ギューちゃんが徴兵検査で地元へ帰京した時、あこがれていた地元の富豪の娘森可奈子(原節子)が伯爵の令息に嫁入りして上京していることを知る。帰京したギューちゃんを新どんは待っていたが太田屋がつぶれたことがわかり途方に暮れる。取引でお世話になっていた証券会社の幹部木谷(河津清三郎)の世話で、株取引を繋いでサヤを取る仕事をするようになる。

昭和六年、その後株の世界をうまく泳げた丑之助は、四谷の待合でおまき(淡島千景)という女中と仲良くなる。落ちぶれている相場師(東野英次郎)に満鉄株を買えと暗示され、一気に大儲けするのだ。大当たりの大番振る舞いで絶好調だった。ところが、鐘淵紡績の相場に全力で突っ込んでいると、突如五・一五事件で証券取引所は停止し、大損をくらうことになるのであるが。。。

⒈戦前の相場師
帝大出で株の世界に入った恩人の木谷さんに「君の丑之助という名前はいい名前だ。丑(うし)は英語で言うとbull、これは強気であり買いだ。対するはbear、熊よりも牛の方が強い」と言われてギューちゃんはやる気になる。こんなセリフは心地よい。木谷は学問が株式市場で役に立つにはまだ時間がかかる。今は機転が大事だと教える。

ギューちゃんは最初に入った株屋の太田屋で「新東」株を取り扱う。これは東京証券取引所新株すなわち今でいうと、取引所の大家である平和不動産になる。平成3年まで東京証券取引所の旧指定銘柄が存在して、短波放送でアナウンサーが読み上げるスタートはいつも指定の平和不動産からだった。

昔相場師で今は落ちぶれたけど、兜町をウロウロしている老人がいる。兜町の株屋のみんなから嫌がられている。でも、相場をやらなくなると当たるようになったというその老人の話もギューちゃんは信じる。お告げのように教える銘柄が南満州鉄道すなわち満鉄だ。ギューちゃんは「ブル」とばかりに「買い」で大金を突っ込む。それで大儲けするのだ。

⒉加東大介
友人が奉公していたそば屋のオヤジに株屋の下働きの仕事をもらって住み込みで働くようになる。ギューちゃんはガツガツ働くのだ。丼飯も何杯もおかわりだ。まあ最近の働き方改革の真逆である。取引所の場立ちにも立たせてもらうが、背が低くて注文が通らずチャンスを逃して店主に怒られる。すると、次は場の一番前に飛び込んで堂々と注文する。こんな感じの立志伝を見るのは好きだ。

平成のはじめのバブル期も立会場銘柄が残っていて、大枚の注文が立会場で取引された。活況になると板寄せで取引停止の笛がなって活気は残っていた。でも、1999年になくなってしまった。ここでも昭和初期の活気ある取引場が再現されている。ミケランジェロアントニオーニ監督アランドロン主演の「太陽はひとりぼっち」のざわめくミラノ取引場シーンも連想する。

⒊淡島千景
うまくいくと、女の方も手を広げるのは世の常。ギューちゃんは儲けさせた客に四谷の待合に連れて行ってもらう。そこで長年の連れあいになるおまきさん(淡島千景)と知り合う。おまきさんは女中だから他の子をギューちゃんの夜のお相手につけようとすると君がいいと言う。そんな腐れ縁から一緒に住むようになるのだ。でも、獅子文六のイメージするおまきさんは淡島千景ほどの美人じゃないのでは?自分がその昔TVで見たおまきさん役の林美智子の方が合っている気もする。

新宿の三越に買い物に行くというセリフがある。え!あったの?と調べたら確かにある。おまきさんが働く四谷の待合の名前は春駒と書いてある。これは荒木町あたりに実際にあった待合なんだろうか?観ながらコロナ後寂れた荒木町を想う。

⒊原節子
宇和島の素封家の娘という設定だ。これはピッタリだ。伯爵と結婚するということで仲間の新どん(仲代達矢)が持っている雑誌に写真が載っているのを見つける。ギューちゃんは新どんの雑誌を破って拝借する。でも、この写真は確かにきれいだ。これはたぶんドイツとの合作「新しい土」の頃の原節子だと思う。

出演者クレジットのラストに特別出演原節子となっている。途中、若い頃は別の俳優を影武者のように使っていて本人は写真だけで出ないのかと思ったら、偶然歌舞伎座でギューちゃんにばったり会うシーンが用意されている。30代後半の美しい着物姿を見せる。まさに特別出演だけど、きれいだなあ。ギューちゃんはその姿を見た後、鐘淵紡績の相場で大暴落に遭うのだ。

⒋千葉泰樹監督と藤本真澄
このところ、観る映画で容認できないキャラクターばかりに出会っているので、気分が乗り切れなかった。情に厚くて、何ごとにも一生懸命な努力家を見ていると気分がいい。これは原作者獅子文六の思い通りではないか。それを映画として簡潔にまとめるのは戦前からの名監督千葉泰樹及び植木等や加山雄三の全盛時代の作品を数多く書いた脚本の笠原良三の力であろう。

そして、製作に藤本真澄の名前があるとホッとする気分になれる。原節子は藤本真澄が引っ張ってきたのであろう。ドロドロした大映映画とも違う東宝映画の安心感を感じる。

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