映画「からみ合い」を名画座で観てきました。
「からみ合い」は昭和37年(1962年)の作品。名画座の悪女特集でいちばん注目した作品である。岸恵子がこんなエロい表情を見せる写真は珍しい。60年代前半のジャンヌモローを彷彿させる。小林正樹監督岸恵子主演で松竹配給ではあるが、岸恵子が有馬稲子、久我美子とつくったにんじんクラブの制作だ。
南條範夫の原作「からみ合い」を映画化したこの作品は小林正樹、岸恵子のキャリアにとって重要な時期に作られているのに正直存在すら知らなかった。Wikipediaにも何故かこの作品だけ記載がない。現在DVDはあるようだが、少し前までなかったのではないか?これって松竹の映画だよねと再確認するくらい東宝作品で見る顔が多く、仲代達矢、山村聰以下共演の配役は豪華である。若き日の芳村真理の姿が新鮮だ。
ある社長(山村聰)ががんで余命短いとわかり、3億の遺産を妻(渡辺美佐子)に3分の1渡した以外の3分の2を離れ離れになっている3人の子供に分けようと、弁護士(宮口精二)とその部下(仲代達矢)や秘書課長(千秋実)と社長秘書(岸恵子)に探してもらおうとする。その探す過程でさまざまなあくどい利害が絡むという話だ。
謎解きというわけではない。登場人物がほぼ全員が悪というドラマだ。3人の子どものうち、1人が亡くなっている。でも、その子を生きていることにして秘書課長(千秋実)と今の妻(渡辺美佐子)が昔つくった子を社長の子供に仕立てたるなど自分の都合のいいように資産が他に渡らないように手を尽くす。
「人間の条件」で映画界の注目を一気に浴びた小林正樹監督が現代劇のミステリーを次作に選んだ。「からみ合い」はサスペンス小説がベースで登場人物が多いので、観ているこちらには一度だけではわからない場面も多い。割とロケのシーンが多く、昭和37年の街の様子が随所に出てくるので、それを楽しむだけで満足と思うしかない。
⒈岸恵子
いきなりカメラは銀座の街を闊歩する岸恵子にフォーカスを合わせる。撮影当時30才で、フランスに渡ったあと一時帰国してこの作品に取り組んだ。ドレスアップしたその姿はずば抜けて洗練されていて美しい。山村聰演じる社長の秘書役で、死期を間近に迎える社長の寵愛を受けると同時に、社長の子供の川津祐介からも求愛される。
世で言う悪女映画はスリラータッチになることが多い。ちょっとした浮気が女性の狂乱をまねく「危険な情事」クリントイーストウッドの「恐怖のメロディ」やカーティスハンソン監督の「ゆりかごを揺らす手」なんていうのが代表的な作品だろう。この映画では悪女が引き起こす恐怖に満ちた場面は一切ない。どちらかというと、「ずるい女」というのが適切だろう。
山村聰演じる社長が方々であちらこちらでつくった子供に渡る財産を、自分も社長と交わり子どもをつくり、横どりしようと虎視眈々と狙っていくのだ。彼女自体も悪さを企む。このスチール写真の顔はいつもと少し違う。
⒉芳村真理
温泉場のヌードスタジオなんていうのもコロナ禍でどうなったのであろうか。社長が方々につくった子どもの1人という設定だ。福島の飯坂温泉まで仲代達矢演じる弁護士の使いが向かい、芳村真理演じるヌード嬢に接近する。悪巧みを考えて、用意周到に父である社長の前に現れる。
われわれの世代が若いころは芳村真理をTVで見ない日はなかった。出ずっぱりである。スタートは昭和41年の小川宏ショーで、露木茂と組んでアシスタントを務めたあと、昭和43年から夜のヒットスタジオでの前田武彦との名コンビで完全なメジャーな存在となる。フジテレビが本線だったが、TBSの人気番組「料理天国」は毎週見ていた。
小川宏ショーの前は単なるセクシー俳優の1人だった。東映の「くノ一シリーズ」で見せる姿とこの映画は似たようなもの。その後、TVでいかにも上流のイメージを強く押し出していたキャラクターとこの映画のアバズレキャラはまったく交わらない。でも下層階級上がりで自由奔放な女を演じるこの映像は貴重である。
⒊黒澤組の俳優たちと劇団員
いきなり弁護士役の宮口精二が出てきて、秘書課長役の千秋実、弁護士の補助役の仲代達矢、三井弘次も出てきて女性の脇役で菅井きんと千石規子まで出てくれば、これは黒澤組だなと思ってしまう。先日亡くなった田中邦衛が川津祐介をはめるチンピラ役で出てくる。黒澤明「悪い奴ほどよく眠る」の殺し屋と同じような使われ方をしている。
映画を観たあと、小林正樹のキャリアを振り返ると、仲代達矢主演の大作「人間の条件」などでこれらの俳優が出演していることに気づく。もっともこの当時は、文学座、民藝、俳優座といった劇団の俳優たちが小遣い稼ぎに映画に出ていた訳だ。逆に劇団の俳優たちが出演しないと映画が成立しなかったともいえる。
岸恵子の日経新聞「私の履歴書」ではこの時期の苦労が書かれている。民藝所属の奈良岡朋子から劇団員にギャラが半分しか支払われていないと岸恵子が問い詰められたようだ。愕然としたという記述がある。もっとも岸恵子もギャラを受け取っていない。にんじんクラブも結局は倒産している。身内の亭主にあたる人に経営を任せていたが、放漫経営がたたって悲劇になる。
⒋武満徹
音楽は武満徹だ。とはいうものの、前半戦から正統派モダンジャズが奏でられている。ジャズミュージシャンのポスターがクローズアップされたり、帝国ホテルのバーなど当時としてはモダンな場所が映されたりする。一瞬最初だけ音楽違うのかな?と思ってしまうが、何度もモダンジャズが鳴り響く。もともと、武満徹がモダンジャズの影響を受けているのを確認して納得する。
途中から、ストーリーの事態が入り組んでくるようになって時折武満徹独特の不安心理を増長させる音楽となる。シリアスな映画では武満徹の音楽が効果的だが、そこまでは流れない。それ自体その程度の緊張感しかない映画ともいえる。
「からみ合い」は昭和37年(1962年)の作品。名画座の悪女特集でいちばん注目した作品である。岸恵子がこんなエロい表情を見せる写真は珍しい。60年代前半のジャンヌモローを彷彿させる。小林正樹監督岸恵子主演で松竹配給ではあるが、岸恵子が有馬稲子、久我美子とつくったにんじんクラブの制作だ。
南條範夫の原作「からみ合い」を映画化したこの作品は小林正樹、岸恵子のキャリアにとって重要な時期に作られているのに正直存在すら知らなかった。Wikipediaにも何故かこの作品だけ記載がない。現在DVDはあるようだが、少し前までなかったのではないか?これって松竹の映画だよねと再確認するくらい東宝作品で見る顔が多く、仲代達矢、山村聰以下共演の配役は豪華である。若き日の芳村真理の姿が新鮮だ。
ある社長(山村聰)ががんで余命短いとわかり、3億の遺産を妻(渡辺美佐子)に3分の1渡した以外の3分の2を離れ離れになっている3人の子供に分けようと、弁護士(宮口精二)とその部下(仲代達矢)や秘書課長(千秋実)と社長秘書(岸恵子)に探してもらおうとする。その探す過程でさまざまなあくどい利害が絡むという話だ。
謎解きというわけではない。登場人物がほぼ全員が悪というドラマだ。3人の子どものうち、1人が亡くなっている。でも、その子を生きていることにして秘書課長(千秋実)と今の妻(渡辺美佐子)が昔つくった子を社長の子供に仕立てたるなど自分の都合のいいように資産が他に渡らないように手を尽くす。
「人間の条件」で映画界の注目を一気に浴びた小林正樹監督が現代劇のミステリーを次作に選んだ。「からみ合い」はサスペンス小説がベースで登場人物が多いので、観ているこちらには一度だけではわからない場面も多い。割とロケのシーンが多く、昭和37年の街の様子が随所に出てくるので、それを楽しむだけで満足と思うしかない。
⒈岸恵子
いきなりカメラは銀座の街を闊歩する岸恵子にフォーカスを合わせる。撮影当時30才で、フランスに渡ったあと一時帰国してこの作品に取り組んだ。ドレスアップしたその姿はずば抜けて洗練されていて美しい。山村聰演じる社長の秘書役で、死期を間近に迎える社長の寵愛を受けると同時に、社長の子供の川津祐介からも求愛される。
世で言う悪女映画はスリラータッチになることが多い。ちょっとした浮気が女性の狂乱をまねく「危険な情事」クリントイーストウッドの「恐怖のメロディ」やカーティスハンソン監督の「ゆりかごを揺らす手」なんていうのが代表的な作品だろう。この映画では悪女が引き起こす恐怖に満ちた場面は一切ない。どちらかというと、「ずるい女」というのが適切だろう。
山村聰演じる社長が方々であちらこちらでつくった子供に渡る財産を、自分も社長と交わり子どもをつくり、横どりしようと虎視眈々と狙っていくのだ。彼女自体も悪さを企む。このスチール写真の顔はいつもと少し違う。
⒉芳村真理
温泉場のヌードスタジオなんていうのもコロナ禍でどうなったのであろうか。社長が方々につくった子どもの1人という設定だ。福島の飯坂温泉まで仲代達矢演じる弁護士の使いが向かい、芳村真理演じるヌード嬢に接近する。悪巧みを考えて、用意周到に父である社長の前に現れる。
われわれの世代が若いころは芳村真理をTVで見ない日はなかった。出ずっぱりである。スタートは昭和41年の小川宏ショーで、露木茂と組んでアシスタントを務めたあと、昭和43年から夜のヒットスタジオでの前田武彦との名コンビで完全なメジャーな存在となる。フジテレビが本線だったが、TBSの人気番組「料理天国」は毎週見ていた。
小川宏ショーの前は単なるセクシー俳優の1人だった。東映の「くノ一シリーズ」で見せる姿とこの映画は似たようなもの。その後、TVでいかにも上流のイメージを強く押し出していたキャラクターとこの映画のアバズレキャラはまったく交わらない。でも下層階級上がりで自由奔放な女を演じるこの映像は貴重である。
⒊黒澤組の俳優たちと劇団員
いきなり弁護士役の宮口精二が出てきて、秘書課長役の千秋実、弁護士の補助役の仲代達矢、三井弘次も出てきて女性の脇役で菅井きんと千石規子まで出てくれば、これは黒澤組だなと思ってしまう。先日亡くなった田中邦衛が川津祐介をはめるチンピラ役で出てくる。黒澤明「悪い奴ほどよく眠る」の殺し屋と同じような使われ方をしている。
映画を観たあと、小林正樹のキャリアを振り返ると、仲代達矢主演の大作「人間の条件」などでこれらの俳優が出演していることに気づく。もっともこの当時は、文学座、民藝、俳優座といった劇団の俳優たちが小遣い稼ぎに映画に出ていた訳だ。逆に劇団の俳優たちが出演しないと映画が成立しなかったともいえる。
岸恵子の日経新聞「私の履歴書」ではこの時期の苦労が書かれている。民藝所属の奈良岡朋子から劇団員にギャラが半分しか支払われていないと岸恵子が問い詰められたようだ。愕然としたという記述がある。もっとも岸恵子もギャラを受け取っていない。にんじんクラブも結局は倒産している。身内の亭主にあたる人に経営を任せていたが、放漫経営がたたって悲劇になる。
⒋武満徹
音楽は武満徹だ。とはいうものの、前半戦から正統派モダンジャズが奏でられている。ジャズミュージシャンのポスターがクローズアップされたり、帝国ホテルのバーなど当時としてはモダンな場所が映されたりする。一瞬最初だけ音楽違うのかな?と思ってしまうが、何度もモダンジャズが鳴り響く。もともと、武満徹がモダンジャズの影響を受けているのを確認して納得する。
途中から、ストーリーの事態が入り組んでくるようになって時折武満徹独特の不安心理を増長させる音楽となる。シリアスな映画では武満徹の音楽が効果的だが、そこまでは流れない。それ自体その程度の緊張感しかない映画ともいえる。