映画「セッション」を見た。
確かにラストにかけての9分19秒での緊張感はすばらしい。
緊張感が高まったり、静まったりする振動の中で悪い方向に発散するのではなく予想とちがう結果に収束していく。お見事だ。
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予告編でJ・K・シモンズがかなり過激な音楽指導をする場面は何度も見た。名門音楽学校の伝説の鬼教師フレッチャーはまったく理不尽にしか思えないイヤな野郎だなと思っていたし、事実映画を通じてイヤな奴だ。スポーツ系に多い話だが、厳しい指導で締めあげるけど最後はサクセスをつかみよかったよかったというパターンになるのかな?と思いしや、そうはいかない。しかも迷彩をかけて我々をだます。
名門のシェイファー音楽院に入学するニーマン(マイルズ・テラー)は、バディ・リッチに憧れている19歳のドラマーだ。音楽院の新学期が始まり練習に励んでいるニーマンの前をスタジオ・バンドを率いているフレッチャー教授(J・K・シモンズ)が通りかかる。黙ったまま、フレッチャーは立ち去る。ある日、ニーマンは、フレッチャーに呼ばれる。「明朝、来い」と。バンドにはドラムの主奏者がいるのに、フレッチャーは自分のバンドに移籍するよう、ニーマンに命じる。喜んだニーマンは、行きつけの映画館で、売り子のアルバイトをしているニコル(メリッサ・ブノワ)をデートに誘う。
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フレッチャーの練習が始まると、トロンボーン奏者は「出ていけ!」と追い出されてしまう。ニーマンがドラムを叩く。フレッチャーは、形相を変えて、ニーマンに椅子をぶつける。完璧を求める狂気のレッスンでニーマンは罵声を浴びせられ泣き出してしまう。それでもその後手から血が出るほど、練習に打ち込む。
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フレッチャーのスタジオ・バンドが、コンクールに参加する。ニーマンは、ドラム主奏者の譜面めくりを担当するが、うっかりドラムの譜面を置き忘れてしまう。主奏者は暗譜していない。決勝戦ではドラムは譜面を覚えているニーマンが急遽務めることになり、練習の成果が出てバンドは優勝する。
フレッチャーは、ニーマンをドラムの主奏者に据える。しかし、フレッチャーは、正式な主奏者の地位をめぐって、コノリー、タナーとと競わせる。フレッチャーはコノリーを誉める。抗議するニーマンに、フレッチャーは冷たい。ニーマンは、せっかく付き合いはじめたニコルに別れを告げる。
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フレッチャーは正式な主奏者を決めるため、課題曲の「キャラバン」を3人を罵りながら演奏させる。ニーマンの手から血が滴るが、結果主奏者となり、大会にフレッチャーのバンドが参加する。ところがとんでもないハプニングがニーマンに起こるのだ。
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主人公ニーマンはフレッチャーの狂気のレッスンという恐ろしい状況に陥るが、それだけではすまない。いったん平穏な状況になったと思いしときに困難が彼の元を襲う。これも半端じゃない。次から次へと波状攻撃で窮地に立たされ、主人公は追いつめられるのだ。このリズムが最後まで続く。片時も穏やかにならない。それなのでここまでのすばらしい映画となるのだ。
以下はネタバレあり
1.デュークエリントン「キャラバン」
この映画のメインでニーマンが演奏するのが「キャラバン」である。デュークエリントンの曲では「A列車で行こう」に次ぐ知名度であろう。中東の匂いをさせるエキゾティックなリズムが基調にあり、さまざまなプレイヤーがカバーしている。
1952年のエリントンバンド↓
セロニアスモンク、オスカーピーターソンの名ジャズピアニストばかりでなく、ベンチャーズのギター演奏もすばらしい。高校あたりのブラスバンドあたりもやっているよね。この映画では名ドラマ―であるバディリッチのバージョンを意識している。デュークエリントンのバージョンではここまでドラムス活躍していない。
バディリッチの「キャラバン」↓
2.クラウゼヴィッツの戦争論と師弟の葛藤
この映画を見ていてクラウゼヴィッツの「戦争論」の一節が頭にこびりついてきた。それほど、ニーマンとフレッチャーの葛藤の強さにしびれたのだ。
「戦争においては、かかる強力行為、即ち物理的強力行為は手段であり、相手に我が方の意志を強要することが即ち目的である。」
(戦争論 クラウゼヴィッツ著篠田英夫訳より 以下も同様)
一度はむかついてつかみかかったニーマンだけど、こんな暴力では自分の意志は当然強要できない。
それ以上のパフォーマンスが相手に打ち勝つには必要だったのだ。
「我が方が敵を完全に打倒しない限り、敵が我が方を完全に打倒することを恐れねばならない」
ニーマンとフレッチャーが再会し、2人は再び同じステージに立つことになる。まずはニーマンに「お前がばらしたな」とくぎを刺す。しかも、ニーマンに譜面を渡していない曲でフレッチャーは最初の曲を指揮し始める。あわてるニーマンはぎこちない演奏しかできない。完全な意地悪だ。落胆していったんステージを降りたニーマンはもう一度戻る。
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それでもフレッチャーは「スローの曲」をはじめるとアナウンス
そこでニーマンが激しくドラムをたたきはじめる。そして「キャラバン」をやるのだとベースにリズムの催促をする。
意表を突いた攻撃である。この瞬間は本当にしびれる
「我が方の意志を敵に強要しようとするならば、実際に敵の防御を完全に無力にするか、さもなければ確実に無防御になるおそれがあると思はせるような状態に追い込まねばならない」
ビッグバンドもそれに続き、トロンボーンはソロを奏でる。
スタートしてしまったらこっちのもの相手は無防御状態だ。それでもお前を殺すなんて脅すのだが、完全にニーマンのペースだ。
そうして「相手に我が方の意志を強要すること」という目的が達成され、フレッチャーも表情に心変りが見える。ニーマンもそれに応える。最後に向けてまたまた意外な展開
それにしても最後の9分19秒はすごい
確かにラストにかけての9分19秒での緊張感はすばらしい。
緊張感が高まったり、静まったりする振動の中で悪い方向に発散するのではなく予想とちがう結果に収束していく。お見事だ。
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予告編でJ・K・シモンズがかなり過激な音楽指導をする場面は何度も見た。名門音楽学校の伝説の鬼教師フレッチャーはまったく理不尽にしか思えないイヤな野郎だなと思っていたし、事実映画を通じてイヤな奴だ。スポーツ系に多い話だが、厳しい指導で締めあげるけど最後はサクセスをつかみよかったよかったというパターンになるのかな?と思いしや、そうはいかない。しかも迷彩をかけて我々をだます。
名門のシェイファー音楽院に入学するニーマン(マイルズ・テラー)は、バディ・リッチに憧れている19歳のドラマーだ。音楽院の新学期が始まり練習に励んでいるニーマンの前をスタジオ・バンドを率いているフレッチャー教授(J・K・シモンズ)が通りかかる。黙ったまま、フレッチャーは立ち去る。ある日、ニーマンは、フレッチャーに呼ばれる。「明朝、来い」と。バンドにはドラムの主奏者がいるのに、フレッチャーは自分のバンドに移籍するよう、ニーマンに命じる。喜んだニーマンは、行きつけの映画館で、売り子のアルバイトをしているニコル(メリッサ・ブノワ)をデートに誘う。
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フレッチャーの練習が始まると、トロンボーン奏者は「出ていけ!」と追い出されてしまう。ニーマンがドラムを叩く。フレッチャーは、形相を変えて、ニーマンに椅子をぶつける。完璧を求める狂気のレッスンでニーマンは罵声を浴びせられ泣き出してしまう。それでもその後手から血が出るほど、練習に打ち込む。
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フレッチャーのスタジオ・バンドが、コンクールに参加する。ニーマンは、ドラム主奏者の譜面めくりを担当するが、うっかりドラムの譜面を置き忘れてしまう。主奏者は暗譜していない。決勝戦ではドラムは譜面を覚えているニーマンが急遽務めることになり、練習の成果が出てバンドは優勝する。
フレッチャーは、ニーマンをドラムの主奏者に据える。しかし、フレッチャーは、正式な主奏者の地位をめぐって、コノリー、タナーとと競わせる。フレッチャーはコノリーを誉める。抗議するニーマンに、フレッチャーは冷たい。ニーマンは、せっかく付き合いはじめたニコルに別れを告げる。
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フレッチャーは正式な主奏者を決めるため、課題曲の「キャラバン」を3人を罵りながら演奏させる。ニーマンの手から血が滴るが、結果主奏者となり、大会にフレッチャーのバンドが参加する。ところがとんでもないハプニングがニーマンに起こるのだ。
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主人公ニーマンはフレッチャーの狂気のレッスンという恐ろしい状況に陥るが、それだけではすまない。いったん平穏な状況になったと思いしときに困難が彼の元を襲う。これも半端じゃない。次から次へと波状攻撃で窮地に立たされ、主人公は追いつめられるのだ。このリズムが最後まで続く。片時も穏やかにならない。それなのでここまでのすばらしい映画となるのだ。
以下はネタバレあり
1.デュークエリントン「キャラバン」
この映画のメインでニーマンが演奏するのが「キャラバン」である。デュークエリントンの曲では「A列車で行こう」に次ぐ知名度であろう。中東の匂いをさせるエキゾティックなリズムが基調にあり、さまざまなプレイヤーがカバーしている。
1952年のエリントンバンド↓
セロニアスモンク、オスカーピーターソンの名ジャズピアニストばかりでなく、ベンチャーズのギター演奏もすばらしい。高校あたりのブラスバンドあたりもやっているよね。この映画では名ドラマ―であるバディリッチのバージョンを意識している。デュークエリントンのバージョンではここまでドラムス活躍していない。
バディリッチの「キャラバン」↓
2.クラウゼヴィッツの戦争論と師弟の葛藤
この映画を見ていてクラウゼヴィッツの「戦争論」の一節が頭にこびりついてきた。それほど、ニーマンとフレッチャーの葛藤の強さにしびれたのだ。
「戦争においては、かかる強力行為、即ち物理的強力行為は手段であり、相手に我が方の意志を強要することが即ち目的である。」
(戦争論 クラウゼヴィッツ著篠田英夫訳より 以下も同様)
一度はむかついてつかみかかったニーマンだけど、こんな暴力では自分の意志は当然強要できない。
それ以上のパフォーマンスが相手に打ち勝つには必要だったのだ。
「我が方が敵を完全に打倒しない限り、敵が我が方を完全に打倒することを恐れねばならない」
ニーマンとフレッチャーが再会し、2人は再び同じステージに立つことになる。まずはニーマンに「お前がばらしたな」とくぎを刺す。しかも、ニーマンに譜面を渡していない曲でフレッチャーは最初の曲を指揮し始める。あわてるニーマンはぎこちない演奏しかできない。完全な意地悪だ。落胆していったんステージを降りたニーマンはもう一度戻る。
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それでもフレッチャーは「スローの曲」をはじめるとアナウンス
そこでニーマンが激しくドラムをたたきはじめる。そして「キャラバン」をやるのだとベースにリズムの催促をする。
意表を突いた攻撃である。この瞬間は本当にしびれる
「我が方の意志を敵に強要しようとするならば、実際に敵の防御を完全に無力にするか、さもなければ確実に無防御になるおそれがあると思はせるような状態に追い込まねばならない」
ビッグバンドもそれに続き、トロンボーンはソロを奏でる。
スタートしてしまったらこっちのもの相手は無防御状態だ。それでもお前を殺すなんて脅すのだが、完全にニーマンのペースだ。
そうして「相手に我が方の意志を強要すること」という目的が達成され、フレッチャーも表情に心変りが見える。ニーマンもそれに応える。最後に向けてまたまた意外な展開
それにしても最後の9分19秒はすごい
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