@スウェーデンの人に薦められて小屋を作る
1972年スウェーデンへ集中講義に行った。先方の大学教授は郊外にサウナ室のある小屋を持っていて招待してくれる。「これが人生というものだよ。仕事ばかりしていると人生の質が自然に下がるよ」と言う。帰国してみると日本列島改造論さかんなころで北海道、長野、山梨などの山地を別荘用に大々的に宣伝していた。スウェーデンで見たような質素な小屋を建て毎週末に通うことを考えると、近い山梨県が良い。
@山梨県に小屋を作ることにする
新聞広告で知った不動産屋へお願いし山梨県の韮崎から日野春、長坂、八ヶ岳山麓まで幾つかの土地を見て回る。最後に行ったのは武川村の柳沢上から雑木林の中を数キロも登った人里離れた山林の中であった。時あたかも紅葉の真っ最中。秋の日差しに雑木林は錦色に輝いている。目を西に転ずれば蒼く輝く甲斐駒の主峰が美しい。敷地の中を清流が流れている。土地は安いので即座に購入した。道路区画作業中の土建屋さんへ早速6畳と4・5畳の山小屋を建てる依頼をする。
土建屋さんは甲府盆地の東側の中道というところの小父さんで色々アドバイスをしてくれる「清流の側は水に困らない。岩魚も住んでいるし楽しいよ。でも湿気がひどいから防水鉄筋コンクリにしたほうが良いが、どうしますか?」。とにかく郷に入れば郷に従えと思い、言う通りに頼む。色々な打合せで時の経つのも忘れる。秋の夕日はつるべ落としで間もなく雑木林は漆黒の闇。近所に人家の明かりが無い。
慌てて小父さんの道案内で田圃の中の自動車道路に出る。視界が急に広がったので空をみあげると満天の星空。鳳凰三山の峰、甲斐駒、八ヶ岳の山並みが星明りで暗い藍色に染まっている。東の遠方に甲府の街の灯が瞬いている。
近所に人家のない淋しい山林の中である。東京の満員電車で通勤の毎日から武川村へ行くと別天地。
それから30余年、毎週、毎月、山梨へ通った。清流は岩魚が住んでいて楽しいが湿気がひどくで木製のものは何でも腐ってしまう。防水・鉄筋コンクリートの小屋にしてくれた中道の小父さんへ今でも感謝している。(続く)