7月14日(採集初日)
7時、夜明けである。天気は良さそうだ。周囲を探索してみる。このバンガローは原生林の中の1軒家で、見える範囲の人工物は前の広場と昨夜村から登ってきたダート道のみである。原生林は多様な広葉樹の間にチョウセンゴヨウマツやトドマツのような針葉樹が混じった混交林である。地形は東西の緩い傾斜地で、前方(東)には右から稜線が張り出し、日の出を遮っている。
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9時半、屋外で朝食が始まった。するとベニホシイチモンジをはじめとする各種の蝶が食卓の回りを飛び回り、時には食卓に止まったりして、まさにエコツアー満喫である。
このままこの付近で日がな一日いてもいいと思ったが、U氏が場所を変えればまた違うものが採れるというので、私と友人の蝶組はU氏の案内で移動する。ノルウェー人夫妻は別行動で深い森を目指したようであった。我々の車は、ダート道を30分ほど下り、昨夜は分らなかったが橋のない川を渡渉し、まもなく売店のあるふもとの村に。さらに10分ほど走り、再度川を渡渉すると荒地と林が交互に現れる農道があり、この農道沿いがポイントである。
さっそく私としては初物のシロジャノメが採れた。いや採れたなんてものじゃない。見える範囲どこまでもキャベツ畠のモンシロチョウのように無数に舞っている。
さらにチョウセンキボシセセリとチョウセンジャノメも、どこにでも溢れている。これらの両種はヨーロッパまで分布しているのに、対岸の日本にはいない。アジア大陸と日本列島は約1万5千年前の氷河期には陸続きで、日本と極東地区には共通種が多い。しかしこの両種のように、大陸にいて日本にいないのは、氷河期が終わり日本列島が大陸から分離した後に土着したという説明になるのだろう。いつどこから来たかはさておき、蝶の密度は日本の何倍~10倍である。人口密度が低く(沿海州全体で12)自然度が高いということであろう。この付近は気温が高く、雨も多いので、ヨモギが背の丈に達している。しかしこの平らな荒地は何だろうか。整地したように平で、溝や段がある。手付かずの自然ではない。かつての牧場か農地が、使われなくなり、自然に還ったものである。そういう目で見ると、この辺にはそのような荒地が多い。
道にできた水溜り周辺には蝶の吸水集団ができている。そんな中に1頭だけ違うのがいる。初めて見るハマベシジミである。こんな内陸にいるのだから、「ハマベ」には違和感があるが、ハマベシジミとはいかにもロマンチックな名前ではないか。命名者に敬意を表したい。
あれほどいた蝶が、2時を過ぎると急に少なくなる。帰りの迎えの車は4時にやってきた。そしてダート道の途中で降ろしてもらい、日が傾きかけた中を5kmほど徒歩で採集しながらバンガローを目指す。午後の5~6時はまた蝶が多く、特産種のスジグロミスジなどを採集。(続く)