後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

内田洋子著 「旅する本屋の物語」 の書評

2020年01月18日 | 日記・エッセイ・コラム
この本の題は「モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語 」と長いので表題では簡略にしてあります。内田洋子さんが書いて 方丈社が2018年に出版した本です。
内容はベネチアの古本屋の話と、本の行商をして生計をたてていた山深いモンテレッジォ 村の訪問記です。
一種のドキュメント風の物語です。
ベネチアの路地裏で見つけた古本屋に心が奪われ何度か通うことになります。その店主によるとイタリア北部トスカーナ州の山奥の小さな村では古本の行商をしていたのです。
山奥の村人が本の行商で暮らしていたとは日本に無い珍しいことです。
この謎めいた暮らしかたに興味を持った内田洋子さんがこの山奥の村を訪ねます。それはミステリー小説のような不思議な物語です。
この村の名前はモンテレッジォ。ミラノから険しい山道を車で上って3時間、村民32人、うち4人は90歳代の限界集落だったのです。
この本を読んで私は次の3つのことで非常に面白く感じました。

(1)イギリス、フランス、ドイツには稀な強烈な地域文化がイタリアにあること。
この本にあるベネチアの古本屋はベネチアの歴史、政治経済、芸術、そしてベネチアを舞台にした随筆や小説を細大漏らさず収集し店内にうずたかく積んであるのです。そして店主のアルベルトが全ての本の内容に精通していて、お客の質問や相談ににこやかに答えてくれるのです。それはまさしくベネチアの文化センターなのです。
これで思い出しますのが、須賀敦子さんの「コルシア書店の仲間たち」という本です。ミラノの本屋の物語です。こちらは思想家で本の好きな人々の倶楽部のようになっています。一風変わった人々の暮らしの哀歓を描いた一種のドキュメント風の物語です。
ベネチアやミラノの本屋は日本と非常に違い面白いのです。

(2)山奥の村人が本の行商で暮らしていたという歴史は日本には無い。
険しい山々なので畑も作れない。牧畜も出来ない。主食は数百年、周囲の山々に根気良く植えてきた栗の粉をマカロニやスパゲテにしたものだけです。金持ちしか小麦粉を食べられません。
生きるためにはこの土地特産の栗や石を籠に入れて売りに行き、本を出版社から仕入れて行商する他なかったのです。行商でも本が貴重だった昔は高く売れて生活が出来たのです。
日本には魚の行商や野菜の行商はありますが本の行商はありません。
モンテレッジォ 村の本の行商をしていた人々がミラノやベネチアに出て来て古本屋を開業しているのです。
彼等はモンテレッジォ 村に強い郷愁をもって村の建物の維持管理に努力しているのです。その様子が私の心を打つのです。

(3)著者の内田洋子さんの文章が分かり易く、そして美しいのです。
古い本に対する愛着がほのぼのとして読む人の心を温かくします。昔の村への郷愁がせつない想いをかき立てます。
そして内田洋子さんの挿絵のような写真と文章には一種独特な雰囲気があるのです。それがこの本の魅力になっているのです。

さてモンテレッジォ 村の写真とこの本や主食の栗の写真をお送りします。出典は、http://hojosha.co.jp/free/another_montereggio です。

それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈りいたします。後藤和弘(藤山杜人)