宮沢賢治は悲しい美しい物語を沢山書きました。38歳で亡くなるまでの短い人生でした。
随分と昔に亡くなった人ですが、彼の作品は時代を越えて現在の日本人の心に澄んだ美しい鐘の音を打ち鳴らし続けています。その作品は時代を超えて美しい光を放っているのです。
先日の2月21日の読売新聞の夕刊の「とうほく名作散歩」の欄でも「銀河鉄道の夜」が紹介してありました。
今日は「銀河鉄道の夜」を皆さまと一緒にもう一度読んでみようと思います。出典は筑摩書房の宮沢賢治全集第十巻です。
この第十巻には順に「ポラーノの広場」、「オッペルと象」、「風の又三郎」、「北守将軍と三人兄弟の医者」、「グスコーブドリの伝記」、「銀河鉄道の夜」、そして「セロ弾きのゴーシュ」が編纂されています。
さて「銀河鉄道の夜」の物語の主な登場人物は2人の少年です。主人公のジョバンニと、溺れかかった友を助けたが自分は水死したカンパネルラです。
物語は星祭りの夜に溺れかかったザネリを助け自分は水死してしまったカンパネルの不運から始まります。
そしてストーリーは夏の夜空にかがやく銀河鉄道の列車に乗って来るいろいろな人の話として展開して行きます。
人間は死んで天に登り、星になります。ですから死んだ人は星の輝くところへ行く銀河鉄道に乗ります。乗って来る人は皆死んだ人です。
主人公のジョバンニ少年は水死してしまった親友のカンパネルラを探すため銀河行きの夜行列車に乗るのです。
星祭りの夜にカンパネルラは水に落ちた友人のザネリを助け自分は水死してしまったのです。
川に飛び込み消えてしまったカンパネルラの捜索を見ながら、カンパネルラの父が自分の時計を凝視して、キッパリ言うのです。「もう駄目です。落ちてから45分たちましたから。」
この一言に父の悲しみが溢れています。
その後、ジョバンニは死んだカンパネルラをもう一度銀河鉄道の中で見つけるのです。そしてジョバンニとカンパネルラは一緒に汽車の旅をします。
その列車にはいろいろな人が乗ってきます。
ただ一つの例だけご紹介すれば、大きな氷山にぶつかった豪華客船の沈没の時の話です。他人を助けるために、人で溢れる救命ボートに無理に乗らずに死んでしまった少女と弟が濡れ鼠で乗って来るのです。大学生の家庭教師も一緒です。
3人は皆、沈没の衝撃で靴を失い、裸足です。それがいつの間にか温かい柔らかい靴を履いています。それがこの汽車の不思議なところです。童話ですから「タイタニック號」と書いてありませんが、そのように想像出来ます。
最後に一緒に乗っていたカンパネルラも他の乗客もみんなも銀河鉄道の列車から消えて行きます。ジョバンニは胸を打ちながらカンパネルラの名を叫びます。銀河鉄道の列車の窓から暗い星空に向かって。
親友のカンパネルラと永遠の別れです。ジョバンニは現世に戻り病気の母親を助けながら真の幸福を求めて元気よく生きて行きます。
この童話の一行、一行がしみじみとしています。一行、一行にこの世の悲しみが滲んでいるのです。
この作品のキーは、死んでしまった愛する人と再会するという奇蹟です。再会出来るために重要なのは、ジョバンニとカンパネルラの心温まる強い絆です。カンパネルラは友人を救って自分が死んでしまうのです。友のために死んだ者は天国へ行くのです。
この悲しい美しい物語の基調低音は「他人の幸福のための自己犠牲」です。宮沢賢治の多くの作品の基調低音と同じです。彼は法華経の教えそのように理解し実行しようとして38歳で亡くなるまで苦しんだのです。
今日の挿し絵代わりの写真は夜汽車の写真とハップル宇宙望遠鏡から撮った星々の写真です。
写真の出典は、https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/327803/040900003/ です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)