随分涼しくなってきたが、どこのクズも元気がよく、斜面全体を覆い尽くしてい
る。このように、他の植物を覆ってしまうものをマント植物といい、クズはその代表格だろう。幼い頃からお馴染みの葛だが、こんなに繁茂していたかなと調べてみた。
以前は農作業でクズの蔓を使っていたため、毎年切られてた。それがなくなった今、クズの蔓は伸び放題。また、もっと前はこの蔓から繊維を取り出し、葛布を織っていたという。何年も経た根は大人の腕位の太さに成長し、これから葛粉をつくる。クズは人々の役にたってきた。しかし、役立たせるためには、膨大な時間と労力と技がいる。
そのようなことは記憶にもない今、クズは縦横無尽に蔓をのばし、他の植物に覆いかぶささって、わが世の春を謳歌している。
吉野の方に行くと、本葛と称して売られているものがあるが、要注意。中国では、畑でクズを栽培し輸出していて、我が国で加工すれば、国産と表示できるそうだ。その上ジャガイモなどの澱粉が混ぜてあるものが多いという。
1876年(明治9年)にフィラデルフィアの会場に、飼育作物及び庭園装飾用とて展示されたのがきっかけで、ポーチなどの飾りや緑化、土壌流失防止用に推奨され、一時は持て囃された。あまりにも繁茂、拡散するため現在は侵略的外来種に指定されているが、駆除ははかどっていない。 クズの別名はウラミという。これは葉の裏が白いことからの名前であるが、平安時代から、恨みに掛けてよく使われた。 都合のよいときだけ使われて今や侵略的外来種にされた日本人の心の奥にあるアメリカに対するうらみを葛がはらしているようにも思える。
葛の蔓ひたすら垂れて地を探す 沢木欣一
灯台守怒涛に葛を刈り落す 米沢吾亦紅
索道の奈落へさそふ葛あらし 能村登四郎