播磨灘物語〈3〉講談社このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
黒田官兵衛
を信長に取りついでくれた荒木村重が信長に謀反を起こし毛利についた。翻意させるべく伊丹を訪れた官兵衛は囚われてしまう。信長は官兵衛も裏切ったと錯覚し、子の松寿丸を殺せと命じた。竹中半兵衛の策で救われるが、官兵衛が牢を出た時は、半兵衛、既に病死。牢を出てからの官兵衛は身も心も変る。
【読んだ理由】
「世に棲む日日」に続いての司馬遼太郎作品。
【印象に残った一行】
『秀吉は世上、大度量人とされ、また人間に対して観察の辛い信長自身でさえそう信じて、秀吉をさして、「大気者」などと呼んだりしてるが、しかし秀吉のように他人に対して神経の細かい観察と配慮をする男が芯からの大気者であるはずがなく、多分に計算と演出の組み合わされたものであり、秀吉の人間としての面白さはむしろそのあたりにあるといってよい。
秀吉は、とくに官兵衛に対して大気者ものでなかった。終生、そうであった。後年、かれが天下をとったとき、かれは官兵衛雅自分の創業の最大の功労者であるということを知っていながら、むしろそうであればこそ官兵衛に対して薄く酬いた。官兵衛に大領を与えれば自分の次の天下をとられてしまうという恐怖があったように思えるが、それといまひとつは、嫉妬であったにちがいない。
秀吉も常人である以上、嫉妬をもつことがありうる。むろん秀吉はこの感情が劣情であることを知っていたし、この感情ほど人と人との関係を損なわせ、その関係を饐えさせてしまうものはないということを知っている。このため、秀吉はつねにそれを押さえていたが、しかし官兵衛と半兵衛に対しては、ときに露にした。むろんかれは多くの場合、それを押し殺して、気取られぬようにはしている。』