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【一口紹介】
■出版社/著者からの内容紹介■
甲子園の優勝投手は、なぜ、自ら「人間兵器」となることを選んだのか。
人間魚雷「回天」海の特攻兵器。脱出装置なし。
甲子園の優勝投手・並木浩二は大学入学後、ヒジを故障。新しい変化球の完成に復活をかけていたが、日米開戦を機に、並木の夢は時代にのみ込まれていく。死ぬための訓練。出撃。回天搭乗。しかし彼は「魔球」を諦めなかった。
組織と個人を描く横山秀夫の原点、
【読んだ理由】
横山秀夫作品。2006年映画化作品。
【印象に残った一行】
『並木も佐久間も回天隊という紛れもない現実の中にいる。恐い、一言漏らしたら終わりなのだ。死にたくないと人に縋ったら、もうこの現実の中にいられなくなってしまうのだ。たとえ、この地球上にどれほど自由で愉快で希望に溢れた世界があるのだとしても、たった今、ここに回天隊は存在し、並木も佐久間もその中にいる。男なら喜んで死ねといういう世界で、寝起きし、飯を食い、息をしている。
我慢比べをしているだけではないのか。誰もが死にたくなくて、なのに、死にたい、死んでやる、と虚勢を張っている。そうではないのか。
だが、そうだとは決して言ってはならない現実がここにある。その現実の中で今日、選ばれた人間となった。父も母も知らない。美奈子も知らない。誰も知らない世界で選ばれた人間となり、一人死んでいくことが決まった。』
『美奈子には会わないと決めていた。会いたいが会えないと思う。
会って何をは話せばいい。回天のことは言えない。まもなく死ぬのだなどと口が裂けても言えない。だとすれば何を話す?回天抜きの軍隊の話か。二人の将来についてか。そんなものは存在しないのだ。
道化を演じて笑わすだけ笑わせてこようかと思う。だが却って残酷ではないのか。後でそれが最後の別れだったと美奈子が知ったとき、心に深い傷を負ってしまうのではないか。
そっと消えたほうがいい。そのほうがいいに決まっている』
『勝とうが負けようが、いずれ戦争は終わる。平和な時がきっとくる。その時になって回天を知ったら、みんなどう思うだろう。なんと非人間的な兵器だといきり立つか。祖国のために魚雷に乗り込んだ俺たちの心情を憐れむか。馬鹿馬鹿しいと笑うか。それはわからないが、俺は人間魚雷という兵器がこの世に存在したことを伝えたい。俺たちの死は、人間が兵器の一部になったことの動かしがたい事実として残る。それでいい、俺はそのために死ぬ』
【コメント】
警察小説が多い著者には珍しい作品。魚雷に乗り込んだ若者たちの心情の一端を垣間見ることが出来る。
断言できることは、これらの若者たちの礎のもとに、我々が今、生きているということである。

