孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  バリ島・ウブドに移動中 地震と宗教の話

2009-09-20 22:42:35 | 世相

(12年前にバリ島・ウブドを観光した際に出会った葬式の様子。
ガイドブックにも紹介されているように、バリ島の葬式は一種のお祭りとして派手に行われます。
観光客も自由に見学できます。(大きなお葬式があるときは観光客用のインフォメーションも出るそうです。)
もちろん大掛かりな葬式ができるのは金持ちだけのようで、いろいろ準備もあるのでとりあえず土葬しておいて、準備ができたら掘り起こして土地の人間みんなで“ワッショイ!”とやるみたいです。
興味のある方は、私の旅行記サイトhttp://4travel.jp/traveler/azianokaze/album/10056203/ をご覧ください。


【地震国】
今シンガポール航空機内でこの文章を書いています。
シンガポール乗換えでインドネシア・デンパサールへ向かっています。
バリ島ウブドでシルバーウィークを過ごそうという訳です。

バリ島・ウブドは12年前に訪れて以来、2度目になります。
音楽・ダンス・絵画などエキゾティックな文化に溢れ、現地男性と結婚して定住している日本人女性が多いこともあって、言葉が不自由な私などでも何かと便利なところですが、それだけに観光客も多く、少々商業的な“俗っぽさ”を感じさせることもあって、しばらく敬遠していたところもあります。

ただ、あちこちでトラブルに巻き込まれるような旅行に苦労していると、また普段の生活でいろいろ悩ましいことも多かったりすると、ウブドの居心地の良さが懐かしく思われ今回の旅行を決めました。
ほんの数日ですが、日本語が通じるような郊外の安宿のベランダで、遠くガムランの音など聞きながら、自堕落に昼寝でも・・・と考えています。

そんなバリでは地震があったようです。
バリに行くのでなければ誰も気に止めないような小さな記事ですが。

****バリ島沖で地震、負傷者も=インドネシア****
米地質調査所によると、インドネシアのバリ島沖で19日午前7時(日本時間同8時)すぎ、マグニチュード(M)5.8の地震があった。保健省当局者によれば、7人が負傷した。在デンパサール日本総領事館によれば、日本人が負傷したとの情報はない。
震源はバリ島デンパサールの南南東75キロで、震源の深さは約71キロ。インドネシア気象地理庁は地震の規模をM6.4としている。津波の恐れはないという。
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2年前、スマトラ島に行った際も、目的地パダンで直前に大きな地震があり、相当な被害が出て、旅行を危ぶんだこともありました。
また、ジョグジャカルタで観光したプランバナンの世界遺産も06年の地震で被害を蒙ったとか。
何かと地震に縁がある国ですが、世界有数の地震国ですから当然のことなのでしょう。
今回のバリの地震はさほど大きな被害は出ていないようで一安心です。

【宗教的保守化・不寛容】インドネシア関連では、こんなニュースも。

****インドネシア:アチェ州議会 姦通で石打ち刑の条例可決*****
インドネシアのアチェ州議会は14日、婚姻外の性交渉に対して投石による死刑などを科す条例を全会一致で可決した。イスラム法(シャリア)を厳格に適用するこの条例に対しては、人権団体などが「残酷かつ非人道的」と反発。州政府も議会に再審議を求める考えを示している。
条例によると、配偶者でない相手と性交渉を持った場合、独身者にむち打ち100回、既婚者には石打ちによる死罪を適用。刑は公衆の面前で執行される。アチェ州はイスラム法を含む広範な自治が認められている。
AP通信によると、イスラム圏で姦通(かんつう)罪に対し法的に石打ち刑が認められているのは、アフガニスタン、イラン、スーダンなど7カ国。また、違法な執行がイラクやソマリアで報告されている。【9月15日 毎日】
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世界最大のイスラム国インドネシアにあって、バリはバリ・ヒンズーという特異な島です。
しかも、生活の隅々まで宗教的儀式・風習にどっぷりつかり、毎日が宗教儀礼を中心に回っている島です。
以前、インドネシアでイスラムの観点から“反ポルノ法”的な法律が作られ、バリのダンスや絵画・壁画なども影響を受けるのではと、話題になったこともあります。
宗教的保守化・不寛容は、やはりインドネシアでも進んでいるのでしょうか。

もちろん、数日の観光旅行ではそんなことはわかりません。
ほんの気分転換の時間をお金で買うだけです。
飛行機はまだ福岡を飛び立ったばかり。
今夜、現地到着の予定です。

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タイ  タクシン派、大規模集会強行の構え

2009-09-19 11:22:31 | 国際情勢

(4月9日のタクシン派「反独裁民主同盟」による大規模集会 こうした混乱がまた繰り返されるのでしょうか?
“flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3426834710/)

【大集会強行か?】
タイのタクシン元首相を支持するグループと、現アピシット民主党政権及び反タクシン派の確執は、依然解消されていません。

タクシン派の「反独裁民主同盟」は当初8月29日に大規模集会を開く予定でしたが、政府の治安維持法適用を受け、9月5日に延期。
更に、政府が同法を再適用する動きを見せたことから、民主同盟は19日までデモは行わないと表明していました。
19日は、元首相が失脚したクーデターから3年目となる日です。
その19日(今日ですが)、タクシン派はバンコク中心部で現政権の退陣などを求める大集会を強行する予定と報じられています。

****タクシン派、現政権の退陣求め大集会へ タイ*****
タイのタクシン元首相を追放した軍事クーデターから3年となる19日、元首相派がバンコク中心部で現政権の退陣などを求める大集会を開く。アピシット首相は景気回復や国民和解などの公約を実現できていないうえ、連立与党内の亀裂も表面化して求心力が急速に低下している。元首相派はこの機に乗じて揺さぶりをかける構えだ。
元首相を支持する反独裁民主同盟は、国会近くで集会をした後、元首相が「クーデターの黒幕」と批判するプレム枢密院議長宅にもデモをかける予定。政府は18日から、集会などを禁じる治安維持法を周辺地域に適用すると宣告したが、同盟は強行する方針で、緊張が高まっている。

昨年12月に発足したアピシット政権は、最も自信があったはずの景気対策で具体的な成果が出せず、元首相派との政争の収拾にも展望を見いだせていない。バンコクの公立大が13日に実施した世論調査では、69%が政権に対する「信頼を失った」と回答。首相自身も7月、就任半年を振り返って「成果を出せていない」と認めた。
連立与党内の亀裂も求心力低下に追い打ちをかけている。8月下旬、新警察長官の選任をめぐって、与党第2党「タイ名誉党」が首相の推す候補に公然と異議を唱えた。今なお選任不能の状態が続いており、首相の指導力が疑問視されている。
名誉党は、連立政権発足の際にタクシン派から寝返った勢力で、首相が所属する民主党とは理念や政策が違う。安定多数確保のため引き込んだが、31議席を持つ名誉党が離脱すれば過半数割れになるため、決定権を握られた形だ。
連立与党内で首相に不満を持つ勢力による「アピシット降ろし」の動きが始まったとの見方もある。「これを機にタクシン派が一気に攻勢を強め、大きな混乱になる可能性もある」(外交筋)との懸念が出ている。【9月18日 朝日】
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政権側は、首都バンコク中心部に治安維持法を発令し、厳戒態勢を敷いているようです。

****バンコク中心部、厳戒態勢 反政府デモに備え****
タイ政府は18日、2006年のクーデターで追放されたタクシン元首相の支持団体「反独裁民主統一戦線」が19日に予定している大規模反政府デモに備え、首都バンコク中心部に治安維持法を発令、首相府周辺などに警官数百人を配備し厳戒態勢を敷いた。同法は22日まで適用される。デモには約3万人が参加する見通し。治安当局側は6千~7千人規模の警官や軍兵士らを配備する。【9月18日 共同】
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【恩赦請願運動】
タクシン派と反タクシン派の対立の構図については、7月10日ブログ「タイ タクシン派と反タクシン派 解消されない根深い対立」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090710)でも取り上げたところです。

最近では、タクシン派による、タクシン元首相の恩赦を求める請願書を500万人以上の署名とともにプミポン国王あてに提出するといった動きもありました。

****タイ:タクシン元首相派 国王に恩赦求め請願書提出へ****
汚職防止法違反罪で実刑判決を受け国外逃亡中のタクシン・タイ元首相支持派は17日、恩赦を求める請願書を500万人以上の署名とともにプミポン国王あてに提出する。政府や反タクシン派は「王室を政治的対立に巻き込むものだ」と反発を強め、一時沈静化したタクシン派と反タクシン派の対立が再び激化しつつある。
タクシン派「反独裁民主戦線」(UDD)は7月から、元首相の地盤の北部や東北部を中心に元首相の恩赦を求める署名集めを開始。署名はこれまでに約540万人分に上ったという。

タイでは、国王に対する恩赦請願は国民に認められた権利だ。しかし国王は政治に介入しないことが原則で、元首相の恩赦が認められる可能性はほとんどない。署名活動の狙いは、依然元首相が国内で強い支持を得ていることを強調する政治的なものだ。
これに対し、反タクシン派のアピシット首相は「UDDの恩赦請願は法に反する」と非難。チャワラット内相は各県知事に命じて恩赦請願に反対する署名活動に乗り出し、反恩赦「官製」署名は14日までに全国で約800万人に上ったという。
さらに反タクシン派の「民主市民連合」(PAD)は、UDD幹部は元首相の居所を知りながら警察に通報していないなどとして、犯人隠匿容疑などで幹部3人を告発する署名活動を開始した。

アピシット首相は7月、就任半年の総括で「タクシン派による妨害でこの6カ月間、上げるべき成果を上げられていない」と自ら認め、一部の世論調査ではタクシン元首相への支持率がアピシット首相を上回った。世界的な経済危機や新型インフルエンザの影響で経済が低迷し現政権への支持が落ち込む状況に、元首相は4月に次いで再び帰国・復権へ向けた勝負をかけているようだ。【8月15日 毎日】
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【和解への遠い道のり】
実際にデモが強行されるのか、また、どういう展開になるかはわかりませんが、タクシン派・反タクシン派双方が街頭行動や恩赦請願などで揺さぶりを掛け合う状態では“和解”は実現できません。
高齢のプミポン国王による調整機能も低下しているようにも見受けられます。

唯一の解決は、総選挙で民意を問い、その結果を双方が受け入れることしかありませんが、選挙に自信のない反タクシン派には、“選挙の度にタクシン派が勝利するのは票の買収や民度の低さのためだ”“農村部の票は金で買われたものであり、金で動くような愚か者に国会議員を選ぶ資格はない”との発想があり、反タクシン派「民主市民連合」(PAD)支持者は、国王による指名議員を含む「新政治」への移行を求めています。

金権・バラマキ政治のタクシン元首相への抵抗運動とも報じられることがある反タクシン派ですが、その実態は旧既得権益層を背景にしているとも見られます。
自国民を否定したところからは全国民のための政治は生まれません。

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アフガニスタン  大統領選挙の「不正」をめぐる混迷

2009-09-18 23:02:09 | 国際情勢

(カンダハルで投票箱を管理する女性 “flickr”より By Canada in Afghanistan / Canada en Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/camafghanistancam/3840606512/
9月6日の米紙ニューヨーク・タイムズは、誰も投票しなかったはずの投票所から、計数十万票が計上されたと報じています。そうした不正な投票所は確認、記録されただけで800か所に上っており、地元の住民の話では、そうした投票所1か所につき数百票から、多いときには数千票のカルザイ支持票が集計されたとも。)

【検証が終わるまで「勝者も敗者もいない」】
案の定と言うか、アフガニスタン大統領選挙は混迷の度を深め、一体どう収拾するのか・・・と懸念される状態になっています。
遅れていた開票結果については、報じられているように、カルザイ大統領が54.6%を得票し、当選に必要な過半数を制した形にはなっていますが、2割の不正票があるとも言われ、選挙の正当性に大きな疑問が生じています。

****アフガン大統領選:現職が過半数…不正疑惑で確定は出ず*****
アフガニスタン選挙管理委員会は16日、大統領選(8月20日投票)の開票率100%の暫定結果を発表、再選を目指す現職のカルザイ大統領が54.6%を得票し、当選に必要な過半数を制した。ただ、選管は国連主体の不服審査委員会と合同で進めている不正告発の調査、検証が終わるまで「勝者も敗者もいない」としており、最終確定までには紆余(うよ)曲折を経る可能性がある。
このほか主要候補の得票率は、アブドラ元外相27.8%。バシャルドスト元計画相9.1%、ガニ元財務相2.7%だった。

カルザイ氏陣営の報道官は暫定結果発表を受け、「奇跡が起きないかぎり、我々が勝者だ」と再選に自信を示した。一方、2位のアブドラ氏陣営の報道官は「有効票の中に100万票以上の不正票が含まれている」と主張し、暫定結果を否定した。

選管によると、有効票は566万2758票。推定投票率は約38%で、旧支配勢力タリバンの妨害などにより前回選挙(04年)の約70%を大幅に下回った。
不正については、アブドラ氏陣営らから提出された告発約2500件の調査が進められている。不服審査委がこれまでに「不正の疑いがある」として再集計を命じた投票所は全体の1割に当たる約2560カ所で、「不正」票数も推定2割超に上った。

選管は10月上旬までに最終確定を目指す方針だが、今後、不正の規模がさらに膨らめば、不服審査委が委託権限に基づき「選挙の無効」を宣言する可能性もあり、その場合は選挙のやり直しとなる。これまでに不正票と認定され、集計から除外されたのは、告発が集中した南部カンダハル、中部ガズニ、東部パクティカ3州に設置された83投票所の計2万9014票で、有効票の0.5%にあたる。

カルザイ氏は01年のタリバン政権崩壊後、暫定行政機構の議長に選出され、04年の同国初の大統領選で55.2%を得て初当選した。しかし、戦闘激化による治安の悪化や政権の汚職体質への非難が高まり、人気が低下。今回、各地の有力者や軍閥指導者らとも選挙協力を結び、支持基盤を広げた。
大統領選の暫定結果は当初、9月12日に発表される予定だったが、再三延期されていた。【9月16日 毎日】
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****アフガン大統領選:150万票に不正の疑い EU監視団*****
アフガニスタン大統領選で、欧州連合(EU)選挙監視団のモリヨン代表は16日、ロイター通信に対し、投票総数の最大3分の1に相当する150万票に不正の疑いがあると述べた。
不正疑惑票の内訳は、カルザイ大統領向けが110万票、アブドラ元外相向けが30万票。これらの疑惑票が集計から除外された場合、カルザイ氏は当選に必要な過半数の得票に届かないという。
モリヨン氏は「最終的な選挙結果集計の前に(不正の)疑惑がある票を取り除かなければならない」と語った。【9月17日 毎日】
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投票率は当初40~50%とも言われていましたが、やはり4割を切ったようです。
38%しかない投票総数の2割が不正票とすると、残り8割のなかで過半数を制したとしても、有権者数に対しては十数%にしかすぎないことになります。

6~7人に1人しか支持していない大統領が、国民を代表していると言えるのか?
そもそも大量の不正に関して責任がある者が大統領として認められるのか?
このままの結果はアブドラ候補など対立候補側は認めないでしょうし、さりとて、不正の疑いのある票を差し引いた結果過半数を割ったので決戦投票を・・・というのもカルザイ大統領側はおいそれとはのめないでしょう。

やり直し選挙と言っても、これだけ準備を重ねてようやく38%の投票率だった訳で、もう1回やり直して果たしてどれだけの投票を期待できるのか?
タリバンの攻勢が続くなかでそれは可能なのか?

【「意図的に混乱を起こしているとしか思えない」】
いくつもの?が浮かびますが、不正票についての公表をめぐって、EU選挙監視団と選挙管理委員会の間での不協和音も加わって、事態は更に混乱しています。

****アフガン大統領選:不正指摘のEU非難…選管委員長*****
大統領選の不正疑惑に揺れるアフガニスタンのダウド・ナジャフィ選挙管理委員会委員長(41)は17日、カブールで毎日新聞と会見し、16日の暫定結果発表を前に欧州連合(EU)選挙監視団のモリヨン代表が「疑惑票を除けばカルザイ大統領の得票率は半数を割る」などと「暴露」したことについて、「情報共有を台無しにし、信頼関係を損なった」と強い不快感を示した。選管とEUの亀裂が深まり、新たな混乱の火種になる恐れがある。(中略)

ナジャフィ氏は「まだ不正と確定されていない段階で、全国34州のうち8州の投票監視に当たっただけのEU監視団代表が、なぜ不正を前提にした発言をメディアにするのか」と指摘。「意図的に混乱を起こしているとしか思えない」と強い口調で非難した。
暫定結果の発表が当初の予定から10日以上もずれ込んだことについては、「道路事情の悪い地域はロバに積んで運搬したため、回収が予想以上に遅れた」とし、不正告発への対応が原因との見方を否定。
最終確定は、不服審査委員会が不正を解明した後に発表するとし、決選投票になる場合は「10月下旬には山岳部に雪が積もることから、9月中の確定が必要」と述べた。
一方、カルザイ氏は17日、先月20日投票の大統領選挙後初めて記者会見し、不正投票疑惑について「問題はあったが、メディアが伝えているほどではない」と述べた。勝利宣言はしなかった。【9月17日 毎日】
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【「世界のどこの国の選挙でも起きている程度のものだ」】
国際監視団から具体的な「不正」の票数が示されたことで、アブドラ陣営では、自らの不正票も指摘されているものの、「選挙の正当性は崩れた」と勢いづく結果となっているようです。
カルザイ大統領は「調査は続けられるべきだ」として勝利宣言は見送り、結果の確定が不正調査の完了後となることを支持していますが、一方で、「選挙が公正に行われたと固く信じている。問題があったとしても、世界のどこの国の選挙でも起きている程度のものだ」とし、投票総数の25%に不正が疑われるとしたEU監視団の指摘についても「(そのような発表をする権利は)アフガン国民にあり、外国はその権利を尊重するべきだ」と非難しています。【9月17日 朝日より】

しかし、カルザイ陣営はどうしてこんな大規模な不正を行ったのか?
確かに、復興は一向に進まない、政府は汚職と腐敗にまみれている・・・という状況で、カルザイ大統領の人気は下降しており、選挙戦を通じ対立候補のアブドラ氏の支持が高まってはいました。
そうはいっても、最大部族パシュトゥン人の名門の出で、圧倒的知名度があって、ポストのばらまきなどで北部同盟など軍閥勢力や有力者の協力も取り付けていた現職カルザイ大統領の優勢は動かなかった、少なくとも決選投票で勝てたと見られています。
こうしたことから、今回の不正については、行う必要もなかった“カルザイ陣営の愚かな勇み足”との見方もあります。【9月23日号 Newsweek日本版】

ただ、もし決選投票になるとアメリカはカルザイ大統領を支持しない・・・という話もありましたので、そうした事態にもつれることを避けたかったのでしょうか。
いずれにしても、投票から1カ月近くも混乱が続く一方で、長引く政治空白は、生活復興の遅れや治安の悪化を深刻化させています。

【戦争「支持」が39%】
こうした“民主的選挙の混乱”は、国際社会に“自分達はアフガニスタンで一体何を守ろうとしているのか?”という疑念をいだかせます。
そうでなくとも、最大の支援国アメリカで、アフガニスタンでの戦争に対する「支持」が39%と始めて4割を切る状況にあります。

そうした厭戦気分の高まりは、アメリカのアフガニスタン増派をためらわせるところとなっています。
“オバマ米大統領は戦略の見直しについて、アフガン駐留米軍司令官から提示された軍事面での見直しだけでなく、アフガン大統領選後の状況を踏まえ、NATOや同盟国とも協議する必要性を指摘。「明確な将来の戦略がなければ、戦場に若者を送る正しい決断はできない」と語った。”【9月17日 時事】

さりとて、アフガニスタンからの撤退は、90年代のソ連の失敗の二の舞にもなり、国際的には、アフガニスタンだけでなく隣国の核保有国パキスタンでのイスラム原理主義勢力拡大を増長し、その政治的安定性をそこなう危険があるとも考えられています。
進むも地獄、退くも地獄・・・といったところでしょうか。

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スーダン  抗争が続く南スーダン 危ぶまれる選挙・住民投票

2009-09-17 23:07:35 | 国際情勢

(北の主人により奴隷状態にあった南スーダンの女性たち “flickr”より By Dan Patterson
http://www.flickr.com/photos/creepysleepy/2352130221/)

【ダルフール 安定?】
世界最悪の人道危機とも言われているスーダン西部ダルフール地方は、以前に比べると安定してきたとの報道があります。「戦争は終わった」との発言も。
そうであるなら、非常に喜ばしいことです。

****ダルフール紛争 平和維持部隊司令官「戦争は終わった」*****
世界最悪の人道危機と呼ばれるスーダン西部ダルフール地方の紛争について、国連とアフリカ連合が合同で現地に展開している平和維持部隊(UNAMID)の司令官が26日、離任を前に「戦争は終わった」と語った。
ロイター通信によると、ナイジェリア軍からUNAMID司令官として派遣されていたアグワイ将軍は「この数カ月間は山賊行為くらいしか起きていない。戦争は終わったと思う」と語った。

ダルフール紛争は03年、黒人住民らが中央政府に対し蜂起し始まった。政府寄りのアラブ系民兵を巻き込んで泥沼化、国連によると30万人が死亡、270万人が家を追われた。国際刑事裁判所は今年、人道に対する罪などで、バシル大統領に逮捕状を出した。
反政府勢力は現在、約20の集団に分裂し、本格的な戦闘は今年に入ってほとんど起きていない。だが、ダルフール情勢が安定するかどうかは、紛争当事者である政府の対応次第で、司令官の発言は誤解を招きかねないとの指摘も出ている。【8月28日 朝日】
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【紛争続く南スーダン】
西部ダルフールが安定したかどうかとは別に、時折今でもスーダンから民族抗争のニュースが届きますが、これは主に南部スーダンの状況のようです。

****覆面集団が襲撃、民族抗争で計25人死亡 スーダン南部*****
ロイター通信などによると、スーダン南部の村で4日朝、民族間の抗争があり、25人が死亡した。国連によると、今年に入って南部では住民同士の抗争で2千人が死亡し、25万人が家を追われている。
現場は上ナイル州の州都マラカル近郊、南部の主要民族ディンカの住む村。武装した覆面の男約50人が村の長老の一家を含む20人を殺した。住民は対立する民族シルクの仕業とみて同民族の村を襲い、5人を殺した。数日前には別のディンカの村が襲われて46人が死亡したという。背景は不明だが、南部では土地や家畜、水場の所有権をめぐる争いが頻発している。
スーダンでは来年4月に大統領選が、11年には南部の分離独立を問う住民投票が予定されている。南部スーダン自治政府側は、こうした政治日程に向け、北部の中央政府が南部情勢の不安定化を仕組んでいると疑っている。【9月6日 朝日】
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遡ると、“スーダン南部のジョングレイ州アコボ近くで8月2日、部族間抗争により女性や子ども約100人を含む185人が殺害された。アコボやその周辺では今年3月以降、部族集団ムルレと少数民族ロウ・ヌエルの衝突が頻発。同州やその周辺は食料事情が悪く、ムルレとロウ・ヌエルは土地や家畜、食料などを巡り対立している。”【8月4日 毎日】との記事も。

“スーダン南部でアラブ系部族が2日間にわたり衝突し、事態収拾のため配備された警官を含む244人が死亡した。南部では08年に部族間衝突で女性や子供など900人が死亡しているという。
衝突が発生したのは、西部のダルフール地方と南部の南コルドファン地方の境界付近。南コルドファンはスーダンの南北内戦の激戦地だった。石油資源が豊富で中国やインドなどの企業が採掘活動を行っているが治安は依然不安定だ。
スーダンのハミド内相によると、ミセリヤ、リゼイカトの両部族で169人、警官75人が死亡した。
AP通信によると、ミセリヤの部族長は、リゼイカト族の2000人が26日、馬やトラックに乗って攻撃してきたと話している。スーダン政府は原因を調査中。両部族は、過去にも家畜の飲み水などをめぐり衝突を繰り返した模様だ。”【5月30日 毎日】という記事もありました。

各記事に登場する部族はさまざまで、多数の部族同士が土地、家畜、水場、食糧をめぐって争っている状況が窺えます。

【見捨てられた人々】
もともとスーダンでは、北部アラブ系イスラム教徒と南部の黒人を主とする非アラブ系の間で、1955年から72年の第一次内戦、83年から2005年までの第二次内戦が繰り広げられました。
約190万人が死亡、400万人以上が家を追われたと言われています。

政治的実権を握る北部アラブ系と、これに反発する南部黒人という構図のほかに、南部に産出する石油利権をめぐる争いでもあります。
この石油に関心を持つアメリカの仲介等もあって、2005年にバシール大統領とスーダン人民解放軍(SPLA)の間で暫定政権樹立の包括和平合意(CPA合意)が成立しました。

主な合意内容としては、1)自治権を有する南部スーダン政府の成立、2)南部スーダンの帰属を問う住民投票の実施(2011年実施予定)、3)南部の宗教的自由(イスラム法の不適用)、4)南部スーダンで産出される石油収入の南北原則均等配分などがあります。
2005年7月9日、バシールを大統領、SPLAのガラン最高司令官を第一副大統領とする暫定政府が発足しました。

その後、南北間の緊張が高まる事態もありましたが、今もCPA合意に基づき南部スーダン政府が自治権を有する形で南スーダンを統治しています。
しかし、頻発する紛争に対し、南スーダン政府当局者は、紛争が起きつつあるのを知りながら、紛争を予防する手段や民間人を保護する手段をとっておらず、また、国連ミッションも、差し迫る暴力に対処しなかった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは批判しています。

“南部スーダン政府軍であるスーダン人民解放軍は、被災地域の近くに基地があるにも拘らず、兵士と武装した民間人との衝突がおきる懸念から、兵士たちに対し、民間人保護のための介入をすることを禁じた模様である。”【6月21日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】

【大統領選・総選挙と住民投票】
スーダンでは来年4月に大統領選・総選挙が、11年には南部の分離独立を問う住民投票が予定されています。
こうした政治日程を控えて、一段と情勢が悪化することが懸念されています。

****スーダン:南北間の対立続く 来春、内戦後初の総選挙*****
アフリカ・スーダンで、南北内戦終結後初めてとなる来年の大統領選・総選挙の実施が危ぶまれている。石油資源を巡る南北対立が完全には解消していないのが一因だ。南部では最近、民族抗争で多数の死者が出て、南側は「北側の陰謀」と非難、南北間に緊張が走った。帰還した難民の定着も、南北対立やインフラの未整備で困難に直面している。

ロイター通信によると4日、南部の村で住民25人が死亡した。民族抗争とみられるが、南部・暫定政府は、北部・中央政府の与党が片方の民族に武器を援助するなど「南部の不安定化を謀った」と非難した。北部側は否定している。国連によると、南部では1月以降、民族抗争で2000人以上が死亡した。
北部と南部は、石油資源が豊富な中部アビエイ地区の帰属を巡り対立してきた。ハーグの常設仲裁裁判所は今年7月、アビエイ地区の範囲を画定する判決を出し、双方は受け入れたが、その帰属については南北間の駆け引きが続いている。背景には南部政府が収入の98%を石油に依存している事情がある。
大統領選や総選挙は来年4月、南部独立の是非を問う住民投票は11年の予定だ。選挙に向け人口調査が実施されたが、南部は「実数より少ない」と結果受け入れを拒否した。
日本の外務省関係者は「選挙ができるのか。国際社会で疑念が強まっている」と話す。(後略)【9月10日 毎日】
*************************

来年の大統領選・総選挙も大変ですが、11年に予定されている南部スーダンの帰属を問う住民投票になるともっと厄介です。
単純に考えると、これまでの北部アラブ系との抗争の経緯から、独立支持が圧倒的多数をしめるのでは・・・と想像されます。「南部住民の90%以上が独立に投票」との世論調査もあるようです。
もっとも、先述のような部族抗争が続くなかで、異論もあるようですが。

しかし、そうした住民投票を、北部に基盤を置くバシル大統領が素直に実施して、その結果を受け入れるのでしょうか?
仮に、住民投票が実施されて「独立」となったとして、今も揉めている各部族間の抗争が一層悪化することも懸念されます。

過去も現在も悲惨な話が多いスーダンですが、将来に向けても難題が山積しています。

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ロシア  プーチン首相に続き、メドベージェフ大統領も再選への意欲しめす

2009-09-16 22:11:48 | 身辺雑記・その他

(08年3月の大統領選挙当時、“Together we shall win”とアピールするふたり。
今も変わらぬ二人三脚なのか、独自の道を模索しているのか、よくわかりません。
“flickr”より By Neeka
http://www.flickr.com/photos/vkhokhl/2305596713/)

【モスクワ連続アパート爆破事件】
10年前、エリツィン政権下でわずか2年足らずの間に指名された4人目の首相としてプーチン氏が首相に任命されたとき、プーチン首相は海外ではもちろんのこと、ロシア国内でもほとんど知られていませんでした。
そのプーチン首相の政治的地位を押し上げ、その後の大統領への道を切り開いたのが第2次チェンチェン紛争における強硬な姿勢であり、そのチェンチェン進攻のきっかけになったのが「モスクワ連続アパート爆破事件」でした。

99年9月9日未明、モスクワ市南東の9階建てアパートで爆発があり、住民ら90人以上が死亡。13日には市内の別の8階建てアパートが爆破され120人以上が死亡。前月に首相に就任したばかりのプーチン首相が進攻作戦を指揮し、第2次チェチェン紛争が始まりました。

ただ、この「モスクワ連続アパート爆破事件」については、プーチン首相の出身母体である連邦保安局(FSB)がチェチェン進攻の口実を作るために事件を起こしたのでは・・・との憶測が根強くあります。

****モスクワ連続アパート爆破10年 国家関与、消えぬ疑念****
事件では2004年に北カフカス出身者らが終身禁固の判決を受けているが、連邦政府がチェチェン独立派の犯行と断定した根拠には数々の疑問が残る。
「一連の爆破事件にFSBが関与した」と告発した元FSB諜報員のリトビネンコ氏が06年、英国で猛毒ポロニウムにより殺害されたほか、最新の世論調査でも回答者の22%が「事件に治安機関が関与した」と考えている。事件発生10年を前に、季刊誌「GQ」ロシア語版が検証記事の掲載を見送る騒ぎも起きた。
ロシア各紙が犠牲者の追悼式典の様子を伝える程度にとどめる中、反政府系ノーバヤ・ガゼータ紙は9日付で「なぜ10年も真実が知らされないのか」との長文記事を掲載。目撃証言で作成された容疑者の似顔絵が、チェチェンで死亡したはずのFSB諜報員に酷似していたことなど5つの疑問点を挙げた。

同日付の英字紙モスクワ・タイムズは、「一連の爆破事件がなければ、プーチン氏の支持率が急上昇することは決してなかった」との政治評論家の談話を掲載。06年に何者かに射殺されたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ氏をはじめ、一連の爆破事件の真相に迫っていた人々の大半が死亡したとし、事件が現政権下でもタブー視されていることを示している。【9月15日 産経】
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【「新しいロシアをつくろう」】
一方、プーチン首相との双頭支配が常に話題となるメドベージェフ大統領が、最近インターネット新聞にロシアの現状を徹底批判する論文を発表し、話題になっています。

****ロシア大統領、自国の現状を徹底批判 改革の主導権狙う****
ロシアのメドベージェフ大統領が、政権に批判的なインターネット新聞にロシアの現状を徹底批判する論文を発表し、真意はどこにあるのかと話題になっている。経済の後進性や汚職の横行、無責任体質、人命の軽視などをあげつらい、「影響力を保持する汚職官僚グループ」と「何も生み出さない企業家」から主導権を奪おうと、国民に直接呼びかける形をとっている。

論文のタイトルは「ロシアよ、前へ!」。広く読者から意見を募り、10月末にも予定される年次教書演説に反映するとしている。大統領には、世論を背景に一連の改革を進めたいとの狙いがあるようだ。
現状批判の言葉は痛烈だ。石油やガスなどの資源に頼る「原始的資源経済」や「慢性的汚職」を将来に引きずるのかと問いかけ、問題解決を国家や教義に任せる他者依存的な体質を批判。「民主主義の質は理想からほど遠い」「市民社会は脆弱(ぜいじゃく)」「労働生産性は恥ずかしいほど低い」などと指摘し、改革のためには欧米やアジアの資金、技術も必要と述べている。
特に司法制度の現代化と効率化が急務と強調。裁判所や検察、警察、情報機関のいずれもが旧態依然だとし、治安職員は法と自由を守ることを学ぶ必要があると訴えている。「双頭体制」を組むプーチン首相の支持基盤とされる「シロビキ」(治安省庁出身者)への公然の批判とも受け取れる部分だ。
さらにソ連体制についても「多くの国民を貧しくさせ、侮辱し、抹殺した」「人の命を守ることが国家の優先事項ではない時代だった」と表現。民主的発展の必要性を説き、論文の最後は「新しいロシアをつくろう。ロシアよ、前へ」と締めくくっている。
ロシア国内では、論文発表の場が新聞ではなくネットメディアだったことから、若い世代に直接「支援」を呼びかけた初の試みだとする見方がある。一方で、「リベラルなインテリにこびたものにすぎない」との批判もある。【9月15日 朝日】
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日本では鳩山・小沢の二元支配が懸念されていますが、メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭体制については、プーチン首相の一元支配で、メドベージェフ大統領はプーチン首相の操り人形にすぎないとも見られています。しかし、陰謀の噂が絶えないプーチン首相と、「人の命を守ることが国家の優先事項ではない時代だった」と旧体制批判し、現状についても旧態依然と厳しく批判するメドベージェフ大統領の間には、色合いの違いは確かにあるようにも思えます。

【「運命が別の指令を出してきた」】
プーチン首相は2012年の次期大統領選挙について11日、「メドベージェフ大統領と話をして、私と彼のどちらかが立候補する」と述べ、大統領復帰に意欲を見せている・・・とも報じらました。【9月11日 読売】
そのことは、“既定路線”として、特段の驚きもありませんでしたが、メドベージェフ大統領も再選への意欲を見せているというのは意外な感じがします。

****ロシア大統領、2012年大統領選出馬の可能性否定せず*****
ロシアのメドベージェフ大統領は15日、2012年の次期大統領選に出馬する可能性を排除しないと述べた。複数の国内通信社が伝えた。
同大統領は、プーチン首相の人気が依然最も高いことは認めながらも「しばらく前までは出馬など考えもしなかったが、運命が別の指令を出してきた。したがって、早計に計画を立てることもしないし、いかなる可能性も排除しない」と述べたという。(後略)【9月16日 ロイター】
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【今後も期待できない北方領土問題】
お互いが示し合わせての発言なのか、それぞれの思惑での発言なのか・・・そのあたりは全くわかりません。
ただ、メドベージェフ大統領がなにかと強硬姿勢の目立つプーチン首相とは異なる色合いがあるとは言っても、日本にとって、北方領土問題がメドベージェフ大統領のもとで進展しやすい・・・といったものではないようです。

****北方領土「極端な立場離れて」 ロシア大統領呼びかけ****
ロシアのメドベージェフ大統領は15日、欧米日などの有識者らとモスクワで会談した際、北方領土問題について「極端な立場を離れることだけが成功への道だ。鳩山新首相にもそう提案する」と述べた。一貫して四島返還を求める日本に対し、一定の譲歩を呼びかけたものとみられる。日本から参加した下斗米伸夫・法政大教授の質問に答えた。
同教授の話などによると、メドベージェフ大統領は鳩山新政権の誕生を歓迎。「日本では歴史的転換が起きている。あらゆる問題について鳩山新首相と協議する用意がある」などと述べた。【9月16日 朝日】
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日本の今の政治情勢では、北方領土問題での“譲歩”は、国賊扱いされかねない難しい判断です。
個人的には、国境線はそのときどきの“力関係”で決まってきたものにすぎず、条約とか合意とはいっても、そうしたパワーゲームの結果に過ぎないと考えています。
また、ロシアにとっても、第2次大戦後の国境線全般にかかわる問題です。
こうした問題の解決には、徒に過去の経緯に拘束されることなく、現状と将来の関係を見据えて両者で譲り合うしかないとも考えます。

日本の“民主主義”においては、とかく原則を声高に主張するほうが世論をリードしやすい傾向があります。
国内問題であれば、意見の対立は選挙によって、どちらかが矛を収めるという調整過程が機能しますが、国際問題ではそうした調整機能がはたらかず、国内の“世論”に配慮して不毛の対立を百年、二百年と続けるが、さもなくば戦争で解決するかしかありません。

利害が対立する外交問題というのは、“民主主義”国には苦手な分野なのかも。
まあ、ロシア国内にも“譲歩”の機運はないようですし、強硬な姿勢がますます強まっているようですから、当分はこのまま放置されるだけなのでしょう。

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タイ政府  モン族「難民」をラオスへ全員送還の方針

2009-09-15 23:08:56 | 世相

(欧米来訪者から寄贈された本に見入るモン族の子供たち “flickr”より By by Rusty Stewart
http://www.flickr.com/photos/rustystewart/2265779461/)

【ベトナム戦争の傷跡】
昨年のGWに北ベトナムのサパを旅行しましたが、サパ周辺にはモン族やザオ族などの少数民族が暮らしています。
サパ周辺のモン族は、黒モン族や花モン族が中心で、独自の風俗を守りながらも、多数訪れる観光客相手にしたたかに生活しています。

しかし、ラオスに暮らすモン族のなかには、今なおベトナム戦争の傷に苦しみながら暮らす人々もいます。
そのことについては、旅行前の08年4月29日ブログでも触れています。

****08年4月29日ブログからの再録*****
モン族は中国では苗(ミャオ)、タイやラオスではメオと呼ばれ、中国雲南省からインドシナにかけての山岳地帯に広く分布しています。モンは“自由の人”を意味する言葉で、メオはタイ族が蔑んで呼ぶ言葉とか。
インドシナで戦われたベトナム戦争はモン族にも大きな悲劇をもたらしました。モン族はこの戦争で20万人の犠牲者を出しています。この数字はアメリカの犠牲者(5万8千人)の4倍近い数字です。

北ベトナムが、北からラオス、カンボジア領内を通り南に至る陸上補給路として活用した“ホーチミン・ルート”は有名です。このルートは山岳地帯の獣道同然もルートを含んでおり、元来が平地の民であるベトナム人(キン族)だけでは使えず、山岳地帯すむモン族のような少数民族の協力を必要としたそうです。

こうして北ベトナム軍やラオスのパテト・ラオ(ラオス愛国戦線)に協力したモン族もいた訳ですが、山岳地帯におけるモン族の利用価値に目をつけたのはアメリカも同様です。
アメリカは主にラオス国内でホーチミン・ルートを叩くために、モン族を右派ゲリラ組織にしたてあげました。
なお、アメリカが北ベトナムに“北爆”として投下した爆弾は約100万トンであったのに対し、ラオス領内には250~300万トンの爆弾が投下されたと言われています。

同じ民族が左右両派に分かれ、両陣営の協力者として戦うかたちになりました。結局アメリカはこの地から“名誉ある撤退”をします。アメリカはそれですみますが、アメリカに協力してアメリカ兵に代わって多くの血を流した右派モン族はこの地に取り残されます。

“アメリカの手先”となった右派モン族は、北ベトナム軍やパテト・ラオ軍の報復攻撃を受けます。
アメリカがベトナムから撤退したのが73年ですが、ラオス国境が近いタイ領内にはラオス政府軍の追及を逃れてくらすモン族の集落が今なお存在し、またラオス国内で爆弾闘争などの反政府活動を続けるモン族も存在します。
更に、先述のように大量に投下されたクラスター爆弾などの爆弾は今なおラオス領内に不発弾として大量に残存しており、村人の命を奪い続けています。(「メコン発 アジアの新時代」(薄木秀夫著)を参考にしました。)
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【「不法入国者」】
難民発生に責任があるアメリカも約15万人を難民として受け入れてきましたが、国連が1992年に難民支援の打ち切りを決めたため、2004年にこれ以上移住を受け入れないことを決定しました。
このたため、タイに暮らすモン族は難民として保護される資格を失い国籍のない不法滞在者として扱われるようになり、その数は当時で2万人以上と言われていました。

タイ政府は行き場を失ったモン族難民の受け入れをアメリカに要望する一方、2007年5月、ラオス政府との間で「ラオス・タイ国境安全委員会」を設置し、第三者機関による難民申請プロセスを行わずに、2008年末前までにモン族難民のラオスへの強制送還を実施する意向を明らかにしました。

実際にこれまですでに強制送還を実施してきていますが、国際社会からの批判もあって、いまだタイ領内に多くのモン族難民が生活しています。しかし、タイ・ラオス両政府は、改めて強制送還の方針を確認しています。


****タイ、モン族「難民」をラオスへ全員送還へ 弾圧懸念も*****
ラオス政府による「迫害」を訴えて04年以降、タイ北部に大量流入した少数民族モンの処遇をめぐり、両国の国防相が11日、キャンプにいる全員を年内に強制送還することで合意した。欧米諸国などは「難民」として保護するよう求めてきたが、両国は「不法入国者」との位置づけを変えなかった。人権団体などは送還後の弾圧を懸念しており、両国への批判が強まりそうだ。

合意文書によると、対象はタイ北部ペチャブン県フアイナムカオ村のキャンプにいる4700人。タイ政府は06年以降、17回にわたり3095人を送還しており、今回の合意で合わせて8千人近くが送還されることになる。再越境を防ぐ手段を共同で講じることでも一致した。

ベトナム戦争時に米国に協力してラオスの共産主義勢力と戦ったモン族は、同国で75年に共産政権が発足すると弾圧の対象になった。多くは国外に逃れたが、一部は山間部で抗戦を継続。政府軍の攻勢が強まったことで、タイに集団流入したとされる。
欧米諸国などは、送還すれば再び迫害の恐れがあるとして反対したが、タイ政府は経済的な困窮で流入した「経済難民」が多く、迫害についても「過去の話だ」としてラオス側と送還に向けた協議を進めてきた。

ラオス政府は中部パラック村に住宅100戸を建設。モン族が暮らす他の村と合わせて受け入れ先とし、帰国者には1人30万キップ(約3200円)を渡して新生活を支援するという。政府の担当者は「モン族の恩赦は政府の方針だ。すでに送還された人で迫害にあった人間はいない」と話した。
しかし、キャンプで医療ボランティアをしていたタイ人によると、今もキャンプに残るモン族には政府軍と戦った人が多く、「ラオス政府が最も敵視するグループ。弾圧の懸念は当然」と指摘する。

8月下旬に送還されたブアセン・リーさん(48)は、ラオス中部トンナミ村で子どもら10人と暮らす。父親は米国の協力者として00年に軍に殺され、自身も過去に警察に右足を撃たれたという。
帰国時に政府から受け取った援助金はあっという間になくなり、仕事もない。自宅には警官が定期的に見回りに来る。「常に監視され、生活も食べるのがやっと。不安と恐怖でどうしたらいいか分からない」 【9月13日 朝日】
**********************

本来であれば、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの合法的な独立の第三者機関が管理する適切な難民認定プロセスが適応され、難民認定と保護の要求を検証し、本国への帰還は自発的なものに限られる・・・となるべきところです。

ラオスだけでなく、ミャンマーからの難民も多数抱えるタイの事情もあっての今回の対応でしょうが、少なくとも、「モン族の恩赦は政府の方針だ。すでに送還された人で迫害にあった人間はいない」というラオス政府の主張を確認する国際機関によるラオスでの監視活動が必要かと思われます。

ベトナム戦争でも、イラクやアフガニスタンの戦いでも、外国軍が去った後もながく、現地の人々の暮らしにはその傷跡が深く残ります。

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ジンバブエ  大連立後の状況

2009-09-14 21:19:36 | 国際情勢

(ジンバブエの刑務所は、食糧不足、不衛生な環境、病気の蔓延で非人道的な状況にあるようです。
http://www.sokwanele.com/thisiszimbabwe/archives/3882(英語記事)
国家自体が破綻状態ですから、刑務所の中は・・・。
いわゆる犯罪者だけでなく、政治的理由で拘束される者もいます。
“flickr”より By Sokwanele - Zimbabwe
http://www.flickr.com/photos/sokwanele/3400144476/)

【欧米は直接支援に慎重な姿勢】
戦後最悪とも言われるハイパー・インフレーションによる経済崩壊、昨年のムガベ大統領と野党「民主変革運動」(MDC)のツァンギライ議長が争った大統領選挙をめぐる政治的混乱で、殆ど国家破綻状態だったアフリカ・ジンバブエですが、とにもかくにも2月にムガベ大統領とツァンギライ首相という“大連立”がなんとか成立しました。

その後、インフレの状況がどうなったのか。政治的混乱はおさまったのか・・・あまりメディアに載るニュースがありませんでしたが、久しぶりにジンバブエの記事を目にしました。
ムガベ大統領が7年ぶりにEU代表団と会談したというものです。

****EU代表団、ジンバブエ首脳と会談*****
ジンバブエを訪問中の欧州連合(EU)の代表団は12日、前年の大統領選後の混乱を経て2月に連立内閣を樹立したロバート・ムガベ大統領、モーガン・ツァンギライ首相と個別に相次いで会談した。EUがムガベ大統領と会談したのは7年ぶり。
前日の11日に「血に濡れた白人」がジンバブエの内政に介入していると強烈に非難したムガベ大統領は、首都ハラレで、笑顔で代表団を迎え、自分は旧宗主国である英国を非難したのであって、西側諸国一般を非難したのではないと語った。
ムガベ大統領は、ジンバブエに科された制裁が多くの国民を苦しめていることに失望感を示しつつ、会談後に「会談はうまくいった。彼らは連立協定がうまくいっていないと考えて色々と質問してきた。しかし連立協定の実施事項は適時実施されている。(EU側と)良い関係を築くことができた。友好的な会談だった」と述べた。

EUと米国は不正があったとされる2002年の大統領選挙後の混乱を受け、ムガベ氏とその側近に制裁を科している。加盟国の経済的統合と地域の安全保障強化を目的とする南部アフリカ開発共同体(SADC)も制裁の解除を求めているが、EUはジンバブエが直面する問題の原因は制裁ではなく、統治と人権侵害にあるとしている。
EU代表団はムガベ大統領との会談では制裁について話さなかったが、ムガベ大統領との会談後、同国第2の都市ブラワヨで行われたツァンギライ首相との会談ではこの問題が話し合われた。ツァンギライ首相は、制裁の問題は最近始まったEUとの協議でも取り扱われるだろうが、ジンバブエには憲法改正、報道の規制など改革すべき点が多数残されていると発言した。
スウェーデンのグニッラ・カールソン国際開発協力担当相は、会談では主に政治的自由と報道の自由を保証するなどとした連立協定の確実な実施について話し合われたことを明かした。

ジンバブエとの関係正常化をめざすEUはムガベ大統領が確実に改革を進める確証を求めている。連立内閣樹立後も、主要ポストをめぐる争いやツァンギライ氏の支持者への迫害が起きていることから、西側各国は直接支援に慎重な姿勢を崩していない。【9月13日 AFP】
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現段階では、EU代表団は会談を評価したものの、人権侵害などに対する改革が十分ではないとして、制裁解除は先送りしたということのようです。

【「どちらもまだ実現されていない」】
ムガベ大統領は4月18日に行われた独立記念日の式典で、「尊厳と良識を持ち、政治や宗教、人種や民族など互いを受け入れる環境をつくる必要がある」と国民和解を訴えていますが、ムガベ大統領のこれまでの、そして大連立後も続くツァンギライ首相支持者への迫害などを考えると、あまり楽観的希望は持ちにくいところです。

なかなか進まない国内状況改善に、亡命ジンバブエ人の苛立ちも募っているようで、6月20日にイギリス・ロンドンを訪れたツァンギライ首相の演説には厳しい反応がありました。

“ツァンギライ首相が、帰国してジンバブエの再建を手助けしてほしいと呼びかけると、聴衆からロバート・ムガベ大統領の退陣が先だという声が次々にあがり、「口をつぐめ」という怒鳴り声も上がった。
8年前にジンバブエを後にしたという会場にいた男性(42)は、「ツァンギライはムガベの政治手法に染まってしまったようだ。われわれ英国在住のジンバブエ人は暴力のトラウマに苦しんでいる。ムガベがいるうちに帰国することなどあり得ない」と語った。
また、ツァンギライ首相がムガベ大統領との連立政権が国内の平和と安定を実現したと述べるとさらに激しい怒りの声が上がり、聴衆の大半が「どちらもまだ実現されていない」と叫んだ。”【6月21日 AFP】

大連立という現実的枠組みのなかで事態の改善を図っていくしかないツァンギライ首相としては、なかなか苦しいところです。

【北朝鮮や中国との関係も】
対外的関係としては、欧米からの経済制裁が課されているなかで、北朝鮮や中国との関係も報じられています。

****ジンバブエと協力合意=北朝鮮*****
朝鮮中央通信によると、北朝鮮の朱霜成人民保安相とジンバブエのモハジ内相は14日、平壌で人民保安省と内務省の協力に関する合意書に署名した。具体的な内容は明らかでないが、警察分野の連携強化とみられる。
また、同通信は、楊亨燮最高人民会議常任副委員長がモハジ氏らと会談したと伝えた。【5月14日 時事】
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****ジンバブエ、中国から融資9.5億ドル*****
ジンバブエのモーガン・ツァンギライ首相は29日、中国から総額9億5000万ドル(約910億円)の融資を確保したと発表した。
3週間の欧米歴訪から帰国したツァンギライ首相は、記者会見で、「わたしの不在中に、政府がテンダイ・ビティ財務相を通して、中国から総額9億5000万ドルの融資を確保した」と述べた。【6月30日 AFP】
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EU・アメリカとしても、単に経済制裁を漫然と続けるだけでは、ジンバブエを別の方向に追いやってしまうこともありえます。
人権への配慮、政治的自由、報道の自由などについて、改善へ向けた取組みの呼び水になるような対応が求められます。

【改善を導く方向での援助・支援】
経済状況を伝えるニュースはあまりありませんが、下記の記事などを見ると、苦しい状況に変わりはないようです。

****ジンバブエで憲法起草委員らがスト、給与不払いに抗議****
ジンバブエの新憲法起草委員会の委員が、給与の不払いに抗議してストライキに突入した。複数の現地メディアが伝えた。
ジンバブエでは2月、ロバート・ムガベ大統領の・ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)とモーガン・ツァンギライ首相率いる民主変革運動(MDC)の連立政権が発足。25人の委員から構成される新憲法起草委員会が立ち上げられた。

しかし、6日付の国営紙サンデー・メールが伝えた同委員会のポール・マングワナ共同議長の話によると、4月以降委員らには1ドルも支払われていない。これまでは各委員が自腹で作業を支えてきたが、もはや委員会の運営に支障を来す事態になったという。
国連開発計画(UNDP)が改憲作業のために200万ドル(約1億9000万円)を提供しているが、同共同議長によると予算が不足しているうえ、ジンバブエ政府はこれまでに起草委員会の費用を一切支出していないという。【9月7日 AFP】
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国家の将来を方向付ける新憲法起草委員会が報酬未払いで機能停止というのでは、明るい将来図も描きにくい状況です。
海外からの援助なしでは今後のビジョンも難しいと思われますので、先にも述べたように、改善を導く方向での援助・支援の可能性を検討すべきではないでしょうか。

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ロシア  “クレムリンの怯える男たち” 「屈辱」を秘めて「尊敬」を求める

2009-09-13 13:38:45 | 国際情勢

(07年2月23日モスクワ 祖国英雄の日のパレード “flickr”より By Antonis SHEN
http://www.flickr.com/photos/antonis/399749840/)

【「消えた貨物船」】
最近メディアを賑わせたロシア関連の話題と言えば、「消えた貨物船」。

****「消えた貨物船」イラン向け露ミサイル積載?*****
大西洋で7月末に乗っ取られ「消えた貨物船」として話題を呼んだ船が、ロシア製のミサイルを積んでいた疑惑が浮上。
ロシアの犯罪組織や情報機関の関与も取りざたされ、事件の真相に迫ろうとしたジャーナリストが「身の危険」を感じて国外に避難するなど、きな臭い騒ぎに発展している。

問題の貨物船は、7月末に約1億8000万円相当の木材を積みフィンランドを出港し行方が分からなくなった「北極海」。
ロシア海軍が8月中旬、アフリカ西部沖で発見しエストニア、ラトビア、ロシア国籍の犯人8人を逮捕。ロシア人の乗組員15人は解放され、一件落着のはずだった。
ところが、クレムリン批判で知られる新聞「ノーバヤ・ガゼータ」が8月下旬、「北極海」がイランやシリア向けの兵器か核物質を積んでいた可能性があると伝えた。
英紙「デイリー・テレグラフ」も7日、積み荷はロシア製の防空ミサイルS300で、イランに向け輸送中だったがイスラエルの情報機関モサドが阻止したと報じた。
一方、8月初めに「北極海」が行方不明になったことをいち早く報じたロシアの海運ジャーナリスト、ミハイル・ボイテンコ氏は、「国家機関に属する人物から『生命に危険があるぞ』と警告を受けた」として、タイに逃れた。
ロシアのラブロフ外相は8日、兵器密輸報道などについて「まったくのうそだ」と否定したが、謎めいた船を巡る憶測は広がり続けている。【9月8日 読売】
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「デイリー・テレグラフ」によると、核開発を進めるイランがイスラエルの空爆を恐れ、ロシアの犯罪組織から対空ミサイルを密輸しようとしたもので、これを察知したイスラエルの対外特務機関モサドが介入し、同船をめぐって騒ぎを起こしてイランに着くのを阻止したとか。
同紙によると、同船が発見された翌日、イスラエルのペレス大統領がモスクワを訪れ、メドベージェフ露大統領と4時間にわたって非公式に会談。ペレス大統領は高性能兵器がイランやシリアに流れるのを阻止するよう要求し、メドベージェフ大統領も口頭でこれに応じたとも。【9月8日 産経より】

まるでハリウッド映画のような話ですが、ミサイルを密輸できる“犯罪組織”というのも恐い話です。
ミサイルを扱えるなら、核爆弾も恐らく・・・。

【イランへのミサイル防衛システム提供契約】
真相がわからない「消えた貨物船」の話が絡んでいるのかどうかはともかく、“ロシア、イラン、イスラエル”というメンバーのミサイル絡みの話として表舞台で行われている動きとしては、高度ミサイル防衛システムをロシアがイランに提供する契約があります。

****ミサイル防衛システムは最後の切り札*****
アメリカとロシアは7月6日、核兵器削減に向けて合意した。しかし公式声明には重要な問題が抜け落ちていた。高度ミサイル防衛システムをロシアがイランに提供する契約についてだ。実際に提供されれば、アメリカやイスラエルがイランの核施設を攻撃することが今よりずっと難しくなる。
契約が成立したのは07年だが、まだ引き渡しは行われていない。ロシアはこのミサイル防衛システムを利用して、さまざまな国から譲歩を引き出そうとしている。
いい例がイスラエルだ。同国は4月、ロシア製よりはるかに性能の高い5000万ドル相当の無人航空機をロシアに売却することで合意。またイスラエルはロシアの要請を受けて、グルジアへの兵器関連の輸出をイスラエル企業にやめさせることも承諾している。
だがアメリカやイスラエルは、ミサイル防衛システムはロシアにとって残り少ない切り札の1つだということを承知しているはずだ。ロシア政府はイランのブシェール原子力発電所の建設を支援することで、イランに対する影響力を確保してきた。だが原発が完成した今、ロシアがイランへの影響力を世界にアピールする手段はミサイルシステムくらいしかなくなった。イランに対する影響力が減ったのは確かだ。【7月21日 Newsweek】
*****************************

【「屈辱」と「尊敬」】
国連安保理でイラン制裁決議に賛成しながら、イランにミサイル防衛システムや原子炉を供給する、更に、それを梃子に関連国から譲歩を引き出す・・・“したたか”と言えばしたたかなロシア外交ですが、“一体何を考えているのだか?”“どうしてそこまで・・・”という感もあります。

ロシア外交の主な流れは、イランのほか、ベネズエラ、シリア、スーダンといったアメリカと敵対している国家との関係強化がひとつ。もうひとつは、グルジア、ウクライナ、ベラルーシ、中央アジア諸国など“旧ソ連諸国”への介入・恫喝・懐柔・関係強化の戦略です。

このロシア外交の背景にあるものを、9月16日号Newsweekの「ロシアの歪んだ世界観」(欧米の常識では理解できない矛盾だらけ 対外政策の根底に流れる「屈辱」の論理を読み解く)が扱っています。

同記事によれば、冷戦時代より、ソ連指導層は“威張り散らしながらも深い不安を抱え、国内の政治的脅威に疑心暗鬼”になっており、“激動の歴史を経てトラウマを背負った「傷ついた巨人」”であることが欧米に敵対的な態度を取らせてきたとのこと。
更に、1980~2000年のソ連崩壊に伴う経済的混乱・国際的地位低下の「屈辱」から、“国際社会からの尊敬”を求め、“尊敬されたいという強烈な思いはロシア人の世界観を、何事も勝者と敗者、敵と味方に分ける19世紀的なものにゆがめてしまった”とも。

ロシアの「勢力圏」「特別権益地帯」である旧ソ連諸国でのカラー革命による親米政権成立はCIAの策略であり、“ロシアにとって欧米は、元妻を奪ったリッチで優しい男”であり、反米国家に接近するのも、“ロシアを「多極化した世界」のリーダーとして認めてくれる相手なら誰とでも親しくしたい”から・・・とのことです。

****ロシア:半世紀ぶり「スターリン礼賛」装飾 復権の動き*****
モスクワ市内の地下鉄駅構内で、ソ連時代の独裁者スターリンをたたえる装飾が半世紀ぶりに登場し、議論を呼んでいる。ロシアでは最近、スターリンの名誉回復を求める訴訟も起きており、「スターリン復権」の動きが勢いを増している。(中略) ロシアでは00年にプーチン前政権が発足して以来、スターリンが第二次大戦を勝利に導いた点などを取り上げ、再評価する動きが出ている。国営テレビが昨年末に実施した歴史上の指導者を評価する投票でも、スターリンが3位に入っていた。【9月5日 毎日】
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これも“強かったロシア”の時代への思いでしょうか。

****ロシア:国民の通信監視強化、半年で電話傍受6万人分超*****
ロシア治安当局が国民の通信監視を強化し、今年前半に6万4477人分の電話傍受や、11万4589人分の手紙など私信の秘密調査が裁判所に許可されたことが、最高裁の統計で11日までに判明した。ソ連時代をほうふつさせる監視社会の実態が浮かび上がり、過激派対策に名を借りた政治弾圧との指摘が出ている。
傍受の権限を持つのは、プーチン首相がかつて在籍した旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後身である連邦保安局や内務省機関。ソ連崩壊後に弱まった情報機関の勢力の回復ぶりも裏付けているといえそうだ。(後略)【9月12日 毎日】
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“国内の政治的脅威に疑心暗鬼”なのも相変わらずのようです。

【更なる「強いロシア」を目指して】
「勢力圏」「特別権益地帯」などの言葉は、旧日本の“満蒙は日本の特殊権益・生命線”とう発想を連想させますが、旧ソ連諸国をひっぱたいたり、なだめすかしたりして、なんとか自分に沿わせようとするロシアは、元妻の気持ちを理解できない大男・・・というところでしょうか。

“重要なのはロシア政府が帝国の瓦解を事実として受け入れ、かつての衛星国にも独自の戦略的選択をする権利があることをみとめるかどうかだ。”【上記Newsweek記事】
もっとも、強さ・尊敬を求めるロシアの心情は、他の“大国”と呼ばれる国々、あるいは“大国”を目指す国々にも、多かれ少なかれ共通したものではあるでしょうが。

ところで、こんな記事も。
****首相じゃ不満?プーチン氏、大統領復帰に意欲****
ロシア通信によると、ロシアのプーチン首相は11日、モスクワで内外のロシア専門家との対話に出席し、2012年の次期大統領選挙について、「メドベージェフ大統領と話をして、私と彼のどちらかが立候補する」と述べた。
大統領に復帰する意欲を示唆した発言として注目される。【9月11日 読売】
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もとより、プーチン首相の大統領復帰は以前から“既定路線”と見られていますが、“強いロシア”を実現するのは“強い男”プーチンでなければ・・・といったところでしょうか。

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イラン  核開発問題で新「包括提案」 欧米側の対応は?

2009-09-12 14:57:22 | 国際情勢

(イラン・ナタンツのウラン濃縮施設の地表の様子 施設は地下8mにあって、厚さ2.5mのコンクリート防御壁に保護されているとか。 “flickr”より By Hamed Saber
http://www.flickr.com/photos/hamed/237790717/

【「行き詰っている」】
イランの核開発問題については、最近ウラン濃縮活動をペースダウンさせたとの見方もある一方で、核専門家は「濃縮ウランの生産量は着実に増えている。遠心分離機の稼働数だけでは即断できない」とみています。【9月6日 毎日】
イランが否定している核兵器開発については、核爆弾に応用できる高性能起爆装置の実験など一連の疑惑の解明はまったく進んでおらず、国際原子力機関(IAEA)は報告書で「1年以上もイランとの間に実質的な議論がない」と指摘しています。

イランのアフマディネジャド大統領は7日、テヘランでの記者会見で、「われわれの立場からすると、核問題は終わった話だ。今後、イランの疑う余地のない核の権利についての交渉を行うことはない」「われわれは、原子力の平和利用と核兵器拡散の防止の分野で協力を表明している」と語り、イランがもつ「疑う余地のない」核開発の権利について、ウラン濃縮の停止を求める欧米側との交渉を行う可能性を否定しています。
イランは、核拡散防止条約(NPT)加盟国として、核燃料製造のためのウラン濃縮活動を行う権利があると主張。核兵器開発については強く否定しています。【9月8日 AFP】
しかし、IAEAの定例理事会でアメリカ代表は「イランは核兵器1個分を製造するのに十分な低濃縮ウランをすでに保有しているか、保有に非常に近い段階にある」と指摘し、イランの核兵器開発能力が向上しているとの懸念を表明しています。

なお、イランのソルタニエIAEA大使は4日、IAEAに送った書簡で「ナタンツの濃縮施設で査察への協力を拡大した。西部アラクで建設中の重水炉に1年ぶりに査察官の立ち入りを認めた」と“協力ぶり”を強調していますが、7日の大統領会見でも、イラン政府がIAEAとの協力関係を今後も継続していくつもりだと述べています。

そのIAEAのエルバラダイ事務局長は、7日からウィーンの本部で始まった定例理事会冒頭で、イランとの交渉について「行き詰っている」とし、「イランは、核兵器開発疑惑を払拭するためにIAEAが指摘した未解決の問題について、IAEAとの協力してこなかった」と語っています。【9月8日 ロイター】

【本題抜きの「くせ球」】
こうした状況で、イラン政府は9日、国連安全保障理事会常任理事国とドイツの関係6カ国に対し、原子力分野での多国間協力を含む新たな「包括提案」を提示しましたが、欧米側が求めているウラン濃縮の停止には触れておらず、欧米側の今後の対応が注目されています。

****イランが新「包括提案」 ウラン濃縮停止は議題拒否****
イラン政府は9日、核問題の協議相手である国連安全保障理事会常任理事国とドイツの関係6カ国に対し、原子力分野での多国間協力を含む新たな「包括提案」を提示した。ただ、イランは国際社会が求めるウラン濃縮の停止は議題にしない考えで、米欧にとっては、本題抜きの「くせ球」といえそうだ。
提案は9日、イラン外務省で6カ国の代表に文書で示された。アフマディネジャド大統領は7日、この提案は「原子力の平和利用についての協力」「世界的な核不拡散」を扱っていると述べた。

イラン核問題では、6カ国側が昨年6月、イランがウラン濃縮活動を停止すれば幅広い協力の用意があるとする「見返り案」を提示。だがその後、イラン側が態度をはっきりさせず、停滞していた。
イラン側は、ウラン濃縮の継続は絶対に譲れないとしながらも、この「包括提案」で対話姿勢を見せることで、対イラン制裁強化への流れを食い止めたいとみられる。
イランは昨年5月にも、核燃料製造の国際管理などを提唱する包括提案を6カ国に送ったが、抽象的な内容が多く、米欧は「時間稼ぎ」と受け止め、目立った反応は示していない。
イランは、その対応に不満を持っており、今回の提案には6カ国からの反応を強く求めるとみられる。だが、欧米側は、ウラン濃縮停止を議題にせずイランとの対話に臨み、結果が出なければ、国内で対イラン強硬派から厳しい批判を浴びるのは確実だ。

議論がかみ合わない中で、焦点となるのは、対話路線を掲げるオバマ米政権が、対イラン追加制裁を強く主張するかどうかだ。イランは、産油国でありながら精製能力不足でガソリンは3割以上を輸入に頼る。そこで、ガソリンに取引制限をかける制裁の導入が議論に上っている。
ただ、イランが再び対話姿勢を見せ始めたのに呼応し、中国などから「制裁は対話の役に立たない」との声も出ている。一方で、反米で共闘路線を取るベネズエラのチャベス大統領は今月イランを訪問し、イラン側のガソリン輸入需要の10%以上に当たる日量2万バレルの供給を約束する「助け舟」を出した。【9月10日 朝日】
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米国の非営利報道機関「プロパブリカ」はウェブ上で、「イランの包括的新提案」として全文を公開していますが、それによると、タイトルは「平和と正義、進歩に向けた協調」。
経済、政治、国際問題の3分野から成り、核拡散防止条約(NPT)の普遍性促進▽軍国主義やテロリズムに苦しむ国々の繁栄促進▽エネルギー保障での協力--などが盛り込まれています。
イランのソルタニエIAEA大使はウィーンのIAEA本部で報道陣に「イランの新提案パッケージは、交渉スタートの基礎になる」と語っています。

【批判しつつも、対話へ望み】
IAEAの理事会各国は、ウラン濃縮の停止に応じていないイランに対し、「疑惑解明のための情報開示や協力を拒絶した」(英仏独)などと非難のトーンを強めていますが、一方で対話の再開に望みをつなぐ構えも見せています。
エルバラダイ事務局長は「打開できるのは対話だけ」と外交交渉に期待を込め、「(イラン核問題を)深く憂慮しているがまだパニック状態ではない。核物質の軍事転用を確認したわけでも、核兵器の部品を見つけたわけでもないからだ」と強調しています。【9月10日 毎日】

****「ウラン濃縮停止に答えていない」米、イラン提案を批判*****
イラン政府が国連安全保障理事会常任理事国とドイツに示した核問題に関する新たな包括提案について、クローリー米国務次官補は10日の記者会見で、「イランの核開発問題という我々の最大の懸念に答えていない」と述べ、6カ国が求めるウラン濃縮活動停止に触れていない点を批判した。

10日付の米紙ワシントン・ポスト(電子版)によると、新提案は核廃絶に向けた国際的な核管理体制の構築やアフガニスタン問題、テロ対策での協力などを提示している一方、濃縮停止には言及していないという。
オバマ政権は濃縮停止と6カ国との協議への復帰について9月中に回答するようイランに求めている。ギブズ大統領報道官は同日の会見で「イランが核開発停止に向けて具体的に踏み出さないのなら、国際的な孤立を深めることになる」と述べ、新たな制裁を講じる可能性を示唆した。
米議会下院外交委員会のバーマン委員長も同日、イランが方針を変更しない場合、同国へのガソリンなどの輸出を禁じる法案の立法手続きを10月から本格化させる考えを示した。
国務省によると、6カ国の高官は新提案への対応について9日に電話で協議した。しかし、ロシアが新提案を前向きに評価し、追加制裁には慎重な姿勢を取るなど、各国の足並みはそろっていないとみられる。【9月11日 朝日】
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10日に「イランの核開発問題という我々の最大の懸念に答えていない」とイランを批判したクローリー米国務次官補は、11日の会見では「包括提案は、イランにも対話と交渉の用意があることを示している」と指摘した上で、「早期に(6カ国で)協議し、イランの意思を確認したい。問題解決の唯一の道は話し合いだ」と述べ、なお対話の道を探る姿勢を強調しています。

****米などイランと核問題協議へ 月内にも*****
クローリー米国務次官補は11日の会見で、核交渉に向けたイラン新提案を受け米国など国連安保理の5常任理事国とドイツがイランとの直接協議を求めると語った。国務省当局者は今月下旬の国連総会前の協議を求める考えを示した。また欧州連合のソラナ共通外交・安全保障上級代表は同日、イランの核交渉責任者ジャリリ最高安全保障委員会事務局長に緊急会談を申し入れたことを明らかにした。【9月12日 共同】
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ソラナ代表は6カ国とイランの交渉窓口の役割を果たしています。

アフマディネジャド大統領は7日の会見で、今月下旬に米ニューヨークで開催される国連総会に出席する意向を表明、その機会にオバマ米大統領と会談する用意があると表明しています。
同大統領は、ブッシュ前大統領時代から再三にわたり米大統領との直接会談を呼びかけてきましたが、アメリカ側に拒否されています。

“ウラン濃縮停止を議題にせずイランとの対話に臨み、結果が出なければ、国内で対イラン強硬派から厳しい批判を浴びるのは確実”とのことですが、外交交渉が失敗した場合、イスラエル・アメリカによる軍事行動の可能性もあるなかで、“問題解決の唯一の道は話し合い”です。
買わない宝くじが当たることがないように、交渉のテーブルにつかない限り結果はでません。
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イエメン  北部ザイド派武装勢力との戦闘激化 多数の避難民発生

2009-09-11 22:07:16 | 国際情勢

(イエメンの男性 頬が膨らんでいるのは病気ではなく、カートと呼ばれる軽い覚醒作用があると言われる木の葉を溜め込んでいるためです。
イエメンでは、“イスラム教で禁じられている酒の代わりに、カートを噛む習慣が広く行われている。カートはイエメン人の社交になくてはならないものであり、街中や個人宅で何人かで寄り集まり、カートを噛みながら談笑にふける姿がよく見られる。”【ウィキペディア】
なお、カートは他のアラブ諸国では禁止されています。
“flickr”より By Ferdinand Reus
http://www.flickr.com/photos/ferdinandreus/3202557463/)

【半島唯一の共和制国家にして中東最貧国】
アデン湾をはさんで東アフリカ・ソマリアの対岸にあたるイエメンは、王族支配の国が多いアラビア半島諸国において唯一共和制をとる立憲国家です。
“民主化に強い意欲があり、言論の自由も認められているとされるが、サーレハ大統領個人に対する批判は認められておらず、厳しい取締りを受ける。近年では、独裁傾向を強めているとされる。”【ウィキペディア】

経済的には、石油で潤う中東にあって、中東最貧国とも言われるように厳しい状況にあり、03年の失業率は35%と高率になっています。
08年度の1人当たりGDP(購買力平価)は2412ドルで、181カ国中134位。

【ザイド派武装勢力】
そのイエメンは最近、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派武装勢力と政府軍の戦闘が激化しています。

****武装勢力との戦闘激化=複数戦線に直面-イエメン****
アラビア半島南西端のイエメンで、北部の少数派イスラム教シーア派の一派ザイド派武装勢力と政府軍の戦闘が激化している。戦略的要衝に位置する同国は、アデン湾を挟んで対岸にあるソマリアの海賊対策で協力が不可欠な国で、その不安定化は地域情勢にとって大きなマイナス要因になりかねない。

政府は8月23日、過去2日間の戦闘でザイド派武装勢力100人以上の遺体が北部の町ハルフスフィアン郊外で見つかったと発表した。政府軍は約2週間前に攻勢を開始。サレハ大統領は武装勢力を壊滅させると強調しており、戦闘で優位に立っていることをアピールする狙いがあるもようだ。

政府はザイド派武装勢力について、共和制に移行した1962年のクーデターまで続いたイスラム聖職者支配体制の復活を狙っていると主張。ザイド派は政府の抑圧政策に抵抗しているだけと反発している。
ラウジ情報相はシーア派の大国イランがザイド派を支援していると非難。政府当局者はイラン製の武器が大量に発見されたとしており、地域の宗派対立も影を落としている。
イエメンでは、かつて南北に分裂していたことを背景に、最近南側の分離派と政府軍の衝突が頻発。国際テロ組織アルカイダ系組織の活動も続いており、最貧国イエメンは複数の戦線への対処を強いられている。【8月24日 時事】
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【アルカイダと南部分離派】
アルカイダ勢力については、2000年10月のアメリカ駆逐艦爆破事件、02年10月のフランス船籍タンカー爆破事件と、イエメンではかつてテロが多発しましたが、サーレハ大統領による対テロ撲滅対策が実施されてきたこともあり、03年以降は大規模なテロ事件は発生していませんでした。

しかし、06年2月、政治犯収容所に拘束されていたアルカイダ・メンバーら23名が脱走し、そのうちの一部が石油関連施設を標的とする自爆テロ未遂事件を引き起こしたあたりから、アルカイダ勢力の活動が活発化しています。
サウジアラビアと国境を接するサーダ州では外国人9人が誘拐され、そのうちのドイツ人女性2人と韓国人女性1人の遺体が6月に発見されました。こうした外国人を標的にした活動も、アルカイダ勢力の拡大を示すものと見られています。
最近では、アルカイダ系武装グループがイラクやアフガニスタンからイエメンに移動しているとの報道もなされたことがあります。(外相は、こうした報道について「誇張されている」と、否定的な考えを示しています)
アルカイダ勢力が拡大するのは、先述のような経済的困難、高い失業率が下地にあるものと推察されます

南部反政府勢力については、もともとイエメンは南北イエメンに分離しており、南イエメンはイエメン社会党の一党独裁体制による社会主義国で、ソ連の支援を受けていました。
ソ連崩壊で南イエメンも経済的に行き詰まり、1990年5月に北イエメンと統合して現在に至っていますが、旧南イエメン政府高官が中心となり反政府ゲリラとなって現政権と交戦しています。

【イランの影】
そうした、アルカイダ勢力、南部反政府勢力に加えて、北部ザイド派武装勢力との戦闘が激化しているというのが冒頭記事ですが、サーダ州では04年から衝突が続いており、これまでに数千人が死亡しています。
また、シーア派の一派ザイド派をシーア派国家イランが支援しているとの批判もあります。

****イエメン:外相「反政府勢力、イラン宗教指導者が支援」*****
イエメンのキルビ外相は10日、カイロで毎日新聞と会見し、イエメン北部サーダ州などで政府軍と交戦中の反政府勢力について「イラン国内の宗教勢力が財政的支援を行っている」と主張した。戦闘は既に約1カ月続いているが、終結の見通しは「予測できない」と述べ、長期化を示唆。反政府勢力の道路封鎖で避難民の支援が困難になっていると語った。
反政府勢力はイスラム教シーア派の一派ザイド派が主軸。キルビ外相によると、シーア派が多数派のイランで宗教学校(ハウザ)指導者らが支援しており、「国外から現金を密輸している」という。外相は、イラン当局の関与は否定した。
一方、サウジアラビアがイエメン政府を軍事支援している、との反政府勢力の主張について、外相は「現行の軍事作戦には関与していない」と反論した。

避難民は北部サーダ州などで約5万5000人(国連推計)に達している。多数が戦闘地域に閉じ込められ、電気、水、食糧の不足に直面している。外相は、武装勢力が政府支援の妨害によって避難民の状況を悪化させ、イエメン政府に批判が集まることを狙っているとの見方を示した。【9月11日 毎日】
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中東で政治的な問題があると、“イランが・・・”とよく言われます。
真偽のほどはよくわかりませんが、それらが全部本当だとすると、イランも随分と忙しいことです。

【ソマリアから難民、国内でも難民】
避難民が多数発生している状況で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は双方に対し、支援物資の供給ルートの即時確保を強く要請。「戦闘は民間人の安全と福祉に全く配慮せず行われている」として、早期停戦を求めています。

イエメンは海賊の本拠地であるソマリアへの武器密輸の経由地の一つ。
イエメン政府は海賊対策の一環で沿岸警備隊の強化を目指し、日本にも巡視船の供与など協力を要請。海上保安庁が実施した海上犯罪取締研修にも要員を参加させています。【8月14日 毎日】
そうしたソマリア関連の問題もありますが、何よりイエメン住民のために、早期の停戦実現が求められます。

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