近所のツタヤでDVDを物色していたら、俳優の高倉健さんの出演作を集めたコーナーがありました。その中に「夜叉」(東映、降旗康夫監督)という作品があったのですが、映画音楽の担当がトゥーツ・シールマンスと佐藤允彦だったので、どんな音楽をつけているか興味をそそられて借りてきました。内容は、任侠映画に連なるものでストーリー的にはよくわからないところもありましたが、高倉健や田中裕子など俳優陣の演技がよくて最後まで観ました。思わぬところで、シールマンスに遭遇したので、彼のアルバムです。
TOOTS THIELEMANS (トゥーツ・シールマンス)
ONLY TRUST YOUR HEART (Concord 1988年録音)
トゥーツ・シールマンス(1922年ベルギー生まれ)は、ジャズ界では珍しくハーモニカを吹きます。彼のハーモニカは、映画「夜叉」では効果的に使われていて、ハードボイルドタッチのところや、やるせなく寂しい場面などにその音色がマッチしていました。このアルバムは、ピアニストのフレッド・ハーシュがプロデュースに当たっていて、うまくハーモニカを生かしたものになっています。
メンバーは、トゥーツ・シールマンス(Har)、フレッド・ハーシュ(p)、マーク・ジョンソン(b)、ハーヴィー・シュワルツ(b)、ジョーイ・バロン(ds)。シールマンスは、ギターも弾きますが、ここではハーモニカに専念しています。ハーシュのピアノの音色も研ぎ澄まされた美しいものだけに、ハーモニカの音色とブレンドされるとどうなるか楽しみです。
曲は興味深いものばかりです。ウェイン・ショーター作「Speak No Evil」、サド・ジョーンズ作「Three and One」、ハーシュの「Rain Waltz」と「Sarabande」、シールマンスの「The Dragon」、ベニー・カーター作「Only Trust Your Heart」、モンク作「Little Roote Tootie」、あとはスタンダードで、「Estate」、「All of You」、「Sophisticated Lady」、「Hello Young Lovers」、「We'll Be Together Again」の全12曲。ショーターやモンクの曲を取り上げるなど、意欲的なプログラムです。
シールマンス(Har)のハーモニカならではの音色、響きを生かした演奏は、ことにスローテンポのもので哀愁や郷愁といった情緒が感じられ、ハーシュ(p)のピアノも美しく、静謐さもたたえた詩情豊かな作品。ハーモニカが意外と似合って驚いた「Speak No Evil」やハーシュのピアノソロも美しい「Rain Waltz」がよく、ボッサで軽快に演奏される「Only Trust Your Heart」は、ベース、ドラムスも含めて、全員が好演しています。日曜午後のティータイムにも似合うアルバム。
【映画 夜叉】