四谷のジャズ喫茶「いーぐる」店主の後藤雅洋さんの書いたディスク・ガイドが12月6日付で出版されたので、早速読んでみましたが、すこぶる面白く、一気に読了しました。著者は「まえがき」で、『この「続編」では、思い切ってそのバランスをジャズ濃度の高い「ジャズ喫茶定盤」方向に振った選曲にしてみました。ですから、「ジャズ中毒指数」の高いファンにとっては、むしろこの『ジャズ喫茶の定盤』を面白がっていただけるのではないでしょうか。』と書いていて、ジャズ喫茶でジャズを聴いていた僕にとっては共感できるところの多い本です。
本書は18章からなり、そのあとに、後藤雅洋さんと中平穂積さんの対談が収録されています。章立ての一部を記載しますが、タイトルに添えられた一文がうまく内容を表しています。
第1章 これがジャズだ! −「ジャズ喫茶名盤」の基本セレクションー
第2章 新・これがジャズだ! −躍動感、疾走感あふれる、より刺激的なジャズー
第4章 グルーヴィー・ジャズ −黒人独特のブルージーなノリを聴くー
第5章 リラックス・ジャズ −「真剣に肩の力を抜く」というジャズの醍醐味
第6章 ジャズに浸ろう −フレーズを玩味し、その世界に没入する楽しみー
第7章 新・ジャズに浸ろう −ミュージシャンが内包する「時代の空気」を楽しむ
第16章 新・ジャズ・ヴォーカル −都会的で洗練された現代ヴォーカルの魅力ー
第18章 ジャズの歴史的名盤 −歴史の積み重ねの中で醸成された音の厚みを聴くー
各章には、そのカテゴリーの解説があって、理解しやすくなっています。例えば、第1章では、ハードバップのアルバムが選ばれていますが、それだけでなく、『このグループにはそれ以上の特徴もあって、まずもってアルバムの性格がハッキリしていて演奏のメリハリが明確なこと。そして聴いていると無根拠にやる気がでてくるようなタイプが好ましい』と記していて、なるほどと思わせてくれます。ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」から始まり、A・ブレイキー、S・ロリンズ、C・アダレイ、F・ハバード、H・モブレイ、S・クラークらの作品が紹介されています。
第2章では、1960年代以降の新しめのところを集めています。トップにくるのは、ジョン・コルトレーンの「ライブ・アット・バードランド」です。ヴィレッジ・ヴァンガードの方は出てこないかなと不思議な気持ちだったのですが、それは第3章「巨匠たちのジャズ」の方にエリック・ドルフィーのことに言及しつつ出てきました。第2章では、H・ハンコックやM・デイヴィス、E・ドルフィー、A・ヒルらのアルバムが登場します。
僕が驚きかつ嬉しかったのは、この第2章にドラマーのアルヴィン・クイーンのアルバムが2枚紹介されていることでした。「ア・デイ・イン・ホランド」(Nilva)と「ジャミン・アップタウン」(Nilva)の2枚です。「ア・デイ・イン・ホランドの方には、ダスコ・ゴイコヴィッチ(tp)が参加していたので購入したのですが、アルヴィン・クイーンのドラミングやシーズ・スリンガーのピアノにも感動したアルバムです。こういった自分の持っているアルバムが出てくると、いっそうこの本に親しみがわきます。
後藤さんと中平さんの対談の中に、中平さんが経営していた「DIG」にもお客さんのリクエストを記録したノートがあるといって、その写真が出てきます。さすがに、名高いジャズ喫茶だけあって、聴かせる努力をしていたのだと感激しました。この「厳選500 ジャズ喫茶の名盤」は、「いーぐる」50年の歴史を下敷きにしているだけに、内容が豊かで含蓄があります。