作曲家の池辺晋一郎さんが、読売新聞夕刊に月一度連載している「耳の渚」というエッセイをまとめた本を読みました。2001年から2015年7月掲載分がまとめられていて、記事は全部で116本あります。音楽に関連したものが多いのですが、映画、演劇や文学など広範な話題を扱っていて、豊かな知識と経験に裏付けされた文章は説得力があります。
池辺さんは、交響曲、オペラ、映画音楽、演劇音楽など多くの作曲を行い、著書も多く、N響アワーには13年間出演するなど広く知られている方です。内容は多岐にわたりますが、特に注目した詳細目次を抜き出してみます。カッコ書きは、掲載された日付です。
保守的なクラシック・ファンの耳に挑め (2000.1.13)
武満徹はジャズ (2000.10.5)
大人用喫茶店が必要だ (2002.1.16)
ビートルズには音楽の全てがある (2004.2.10)
音名手法、変拍子ー生誕200年のシューマン (2010.2.6)
ピアソラ革命で考えるジャンルの意味 (2012.7.7)
楽譜を超えた説得力 (2012.12.1)
僕にとっての詩 (2013.1.5)
サントリー・サマーフェスティバル (2013.6.19)
著者の仕事場は、札幌にあります。「大人用喫茶店が必要だ」では、札幌でジャズの流れる喫茶店に入った著者は、『静かなジャズのスタンダードナンバーが耳に心地いい。』と記し、ジャズ喫茶や名曲喫茶に思いを馳せています。かつてジャズは、広範な音楽家に影響を与えたとし、黛敏郎や武満徹などの名前を挙げています。
また、著者は『今、多くの若者はジャズに興味がない。若者はジャズの複雑なコード(和音)進行よりポップスの単純な繰り返しのコードやリズムを好んでいる。』と残念な気持ちを記しています。現在も同じような状況に変わりはないように思い、ジャズの受容という点に関しては、寂しい気持ちを抱かざるをえませんでした。
立原道造などの詩やシェイクスピアの戯曲については、実際に音楽を作曲しているだけに、考察が細やかです。作曲家の立場から、音楽(ピアノ)の演奏は同じ曲をやっても人によりかなり異なるものだということを、わかりやすく解き明かしてくれる「楽譜を超えた説得力」という一文も簡明で示唆に富んだものでした。