私にとっての東京は、一回目の東京オリンピック以前の東京である。以降東京は行き先も見えないまま変貌していった。おかげで何が東京から無くなろうと、まったくの不感症になってしまった。そこで、引っ越しを機に、私の趣味に徹する事にした。 引っ越しの度に、まずするのは、蛍光灯を外し、白熱電灯に変えることである。今回はさすがにLEDだが、今は便利な電球あり、リモコンで白色から電球色までコントロールでき、勿論調光もできる。 金魚坂で撮影に使った琉金を飼う事になっている。水槽を置く台は、昭和三十年代の茶箪笥で、これで思い出すのは、それこそ東京オリンピック前、夜中にトイレに起きたついでに、飲んで見たくてしようがなかった茶箪笥の中のアンプルの栄養剤を内緒で飲んだ事である。ガラスのアンプルの首にハート型のヤスリでキコキコ、筋を付け、ポキンと折る。細いストローでチューチュー飲む。子供には一回飲めば充分な味であったが、むしろやりたかったのは、キコキコポキンの方だったろう。気が付いたらあの茶箪笥そっくりなのであった。当時父には、ピース缶ぐらい私に開けさせろ、と言いたかった。まあ、あれが楽しみだったのだろう。
タウン誌深川】〝明日出来ること今日はせず〟連載第16回『トラウマ』