9月7日、台風の強い風が吹く。晴れたり雲ったり。
花の日で植木市へ。
台風でときどき雨がぱらつく中、お店を出していてくれた。
オイランソウ(白ピンク、350円)、ミソハギ(300円)
シュウメイギク(600円)、ナデシコ×4(400円)
この日が誕生日の初代が「くれよ」というので、
ナデシコ2株プレゼント。
お昼、社食の窓からすごい勢いで流れる雲を見る。
先日打ち上げで酔っ払ってからんできたPから仕事電話。
フォローしまくっていた。
夜は新橋で焼肉。海賊おじさん、養子になるかもしれない話。
食後、駅近くの喫茶店でおいしい珈琲。
家に帰るとダーがサッカーを見ていた。
洗濯物をしまうので、猫を和室にいるダーに任せて庭に出ていると、
ビーが外に出てきた。
ビーは左隣の庭にいき、
リュウゼンランの葉っぱの匂いをくんくんかいでいてる。
ビー、と呼ぶとうちの庭に戻ってきたけれど、
あまりに嬉しそうで、すぐにつかまえるに忍びなく、
右隣の庭に入ろうとするのを見ていた。
その庭は雑草がビーの背丈より高く生い茂っていてビーは入れない。
ビーはうちの庭を走って横切り、また左隣の庭へ。
またすぐ戻るだろうと思って雑草を抜きながら待っていると、
ビーが戻ってきてフェンスの上から私の手元をじっとみている。
そのまま抱っこして、家に戻った。
その間、5、6箇所蚊にさされた。
ダーは、戻ってきたビーにスルメをあぶってあげた。
その後、ビーがもう一度外に出たくて窓を爪でコンコンたたくので、
ダーに「何でちゃんと和室のドア閉めて猫たち見ててくれなかったの?」
「すぎたことをうるさいなぁ」といううちに喧嘩。
私は悲しい気持ちになって、キッチンの隅の椅子に座って、黙って煙草を吸った。
ダーは私の悲しい顔を見て、猫を構い始めた。
私は煙草を吸ってボーッとしたら怒りが消えた。
CSで「アマチュア」を見てるうちに眠くなって寝る。
ダーはアマチュアを最後まで見た後、
DVD返却期限ぎりのスター・ウォーズ エピソード2を見ていた。
にゃんちょ(残暑)であちゅいのにゃ
9月6日、火曜、台風接近中、雨、湿気。
秋刀魚の骨は、ビニール袋を2重にしてきつく結び、
ゴミ箱の下の方に捨てた。
明け方、骨を取り出そうとしてるところをダーに取り押さえられ、
諦めたかに見えたビーだった。
けれど次の日仕事を終えて家に帰ると、
殿とモンはいつもどおり玄関まで迎えに出てきたのに、ビーが出てこない。
寝室を見ると、ベッドの上で「あたちは寝てるけど何か?」ととぼけた顔。
もしやと思ってゴミ箱を見ると、一見何も乱れていない。
でもよく見ると、ゴミ箱の袋の上に、
さりげなく秋刀魚の骨を入れた袋が破れて置いてあった。
ゴミ箱の中を撒き散らして何度か叱られたビーは、
ゴミを散らかさないように、袋を破るのも最低限に抑え、
ほかのものを散らかさずに、秋刀魚の骨だけうまく取り出した。
そして骨の入っていた袋だけはゴミ箱に残す。
一度外に持ち出してからまた戻したのかどうかまではわからないけど、
ゴミを漁ったことが分からないようにしてあったのだ。
そこまでしても、やはりやましい気持ちがあるらしく、私の前に出てこない。
なんてビーは賢いんだろう。
ここまでするビーを叱るなんてとんでもない。
ふたつきのゴミ箱にしない私が悪い。
お腹こわしたり、骨が喉に刺さったりしなくてよかった。
ビーはもともとヤワな猫じゃないけど。
ベッドで寝てるビーのところに行くと、
ビーはやましさで耳を少し伏せて逃げる体勢をとるふりをしたけれど、
あまりの賢さに感動した私はビーを撫でながら「ビーはすごい!」と誉めそやした。
ダーはこの日明け方まで飲みだったので、
次の朝にビーのこの話をすると、ダーはビーをだっこして
「ビー! ゴミ漁ったらだめじゃーん」と軽く叱った。
ビーは賢いので、(秋刀魚だ)とすぐに察して耳を伏せる。
でもダーもビーの賢さに感服して大して叱る気がないのを
ビーはさっさと見抜いて済ました顔。
ダー「あんまり怒ってないと思ってるな!」
朝ご飯は舞茸ご飯でおにぎり。
会社でセブン大勝の二代目から山のようなお菓子。アイスTラテ。
お昼は中華屋で芝エビと高菜炒めの定食。体重がまずいので夜ご飯は抜く。
夜はジムに行くつもりでCに会ってTレモンパッションティー。
三茶で猫缶、シーバ。Cんちに戻って一服。
秋がさかりのCは、帰国中のシスタに会った話を一人でしゃべりたおしていた。
シスタは、旦那と別れて熱愛中。相当な修羅場で子供たちは傷ついた。
「強い子供なんていないよ。
自分の母親がそういう人間だってことを受け入れるしかないんだよ」
日曜、外に出た途端にパラッと降り出した雨は秋雨前線だった。
秋雨前線と台風が一緒に来て、何のモチベーションもない。
読書が一番しっくりくる。
「百年の孤独」を再開。
大佐が戦争をやめて家に戻ってからの話。
ウルスラにとっては曾孫にあたるセグンド二人の代になった。
時間がぐるぐる回っている。
今日は自分の気配をなるべく消して、猫たちの遊ぶ様子を見ていた。
倉庫部屋は、ダンボールの山と、服を買ったとき服を包む薄紙、
服が散らかって、そこで追いかけっこしている。
今までビーから喧嘩を売るのを全然見たことがなかったけれど、
今日は殿につっこみ、モンチにもつっこんでいた。
私が見てるのに気づくと、追いかけっこをやめる。
週末で仕事は休み。Tは朝から仕事に行った。
午前中は、自転車で一回りビーを探した後で、昨日リストアップした公共施設に電話をかけまくって過ごした。夏休み中の土曜とはいっても、守衛や職員など誰かしら電話に出た。
「あの、お忙しいところすみません、私近所に住んでいる者ですが、飼い猫が家出しまして、そちらの学校の敷地内で猫を見かけることはないでしょうか」
どこの学校でも猫くらい見かけるだろうが、電話に出た相手は皆丁寧に答えてくれた。
「猫? いますよ、いっぱいいます。校庭で糞をしていくんでね、私野球部の顧問なんですが、朝練に来た生徒が片付けてるんですよ」「そうですか」「どんな猫?」 ビーの特徴を説明する。「そう、じゃあ気をつけて見とくよ」「あと、すみません。これからファックスで猫の特徴を書いた紙を送りますので、学校にいらっしゃる他の方にも聞いてみていただけるとありがたいのですが」「いいですよ」「その紙に私の連絡先を書いておきますので、どんな情報でもありましたらご連絡ください」「わかりました」「それとですね、学校の門の前に尋ね猫の張り紙をしてもよろしいですか? もちろん後ではがしますので」「いいですよ」
そんなやりとりを、学校や寺社など十数件に電話して繰り返した。
今思えば、猫を見かけたら連絡してくれ、なんて図々しいお願いのような気もするが、藁にもすがりたい私は必死で見ず知らずの人々にお願いして、彼らを信じた。皆、親切に対応してくれて、電話したすべての施設に迷い猫のチラシをファックスで送った。
それから自転車で、電話した各施設を回り、目立つところにチラシを貼った。
さらに動物病院、ペットフードを置いている店にはお店の中と外にチラシを貼らせてもらった。
インターネットで迷い猫マニュアルを調べたCが、「ペットがいなくなったとき、まず最初にすることは警察に届けを出すことらしいよ」と教えてくれたので交番にも行った。
交番に行って事情を話すと、「は? 猫?」と警官は面食らった顔をした。「警察に届けを出すと聞いたんです!」といって、半ばごり押しで盗難届けと同じように、いつ、どこで、どんな猫がいなくなったか警察官にメモをとってもらった。「何か情報があったら連絡してください」と強くいって、交番を後にした。
じっとしていると息が苦しくなって胸が痛むけれど、ビーを探して動き回っているときは普通に呼吸ができた。できることは何でもやろうと思って、ペット探偵にも電話してみることにした。
ネットで何件かピックアップしたけれど、どこも結構なお金がかかり、どこまで信用できるのかがよくわからない。とりあえず、「テレビの特番でおなじみ」がうたい文句の、大手探偵社に電話をかけてみた。
「あの、猫が家出したのでお願いしようかな、と思いまして」
「どれくらい帰ってこないんですか?」、40代くらいの男性の声だった。
「今日で6日になります」
「清掃局には電話した?」
清掃局、と聞いて、頭が割れるように痛み始めた。目の前が真っ暗になって言葉が出ない。
「1週間も猫が帰らないっていうときはね~、8割がた事故だね」
あまりのショックでそのまま電話を切った。
涙が溢れてきた。清掃局という味気ない言葉が頭の中に鳴り響いていた。その言葉をビーにリンクするつもりはない。いなくなった夜からずっと家の周りの通りはチェックして、事故にあった猫は1匹も見ていない。8割がたという言葉も、そのまま信じたわけではないけれど、あまりにもショッキングな言葉に胸が苦しくて仕方ないので、頭を床に打ち付けた。いくら打ち付けても苦しさが治まらないので、ステレオに手を伸ばしてCDの再生ボタンを押し、3曲目、『Is this love』をかけた。
I wanna love you and treat you right;
I wanna love you every day and every night:
We'll be together with a roof right over our heads;
We'll share the shelter of my single bed;
We'll share the same room, yeah! - for Jah provide the bread.
Is this love - is this love - is this love -
Is this love that I'm feelin'?
ビーのことだけ考えて、ビーに伝わるように、強い気持ちをこめて、涙ながらに大声で歌った。ビーには私の声が聞こえていると信じていた。私はここにいるよ。ビーの家はここよ。愛してる。愛してる。愛してる。
歌の途中でCが来た。泣いている私を見て、
「どうしたの! 何かあったの?」
「今ね、ペット探偵に電話したら、いきなり清掃局に電話しろっていわれて、家出猫は8割がた事故っていわれて」、ウワ~ッと泣いた。
「どこのペット探偵? この番号? よし、電話してくる」
Cは外に出てからしばらくして戻り、
「当分立ち直れないくらい落としてやったから。ありえないよ。Nちゃんがどんな気持ちで電話してるのかも考えないでそんなこというなんて。あのオヤジの仕事も人間性も全部否定してやったから。気にしちゃだめだよ、あんなやつのいうこと」
「うん、ありがとう」
「さあ、ビーを探そう」
もうペット探偵に頼む気はなくなっていた。その分自分で探せばいい。土曜日で時間があったので、明るいうちから広い範囲を探したけれどビーはいなかった。
気分転換に、少しドライブをした。Cは適当に車を走らせているようだったけれど、気がつくと狛江にいた。狛江はビーの生まれた町だ。川が近くて、緑が多く残っている。私は川に、緑に、木に、そこにいる八百万の神々に祈った。ビーが元気でいて、うちに帰ってくるように。青い空に、夏らしい大きい雲があった。そのアーモンド形の大きい雲は、紛れもなくビーの形だった。耳を伏せて、口をあけて、ネズミのような小さい雲を追いかけていた。その雲が「ビーは元気でいるよ」というビーからのメッセージだと思って、涙が止まらなかった。離れていてもメッセージを送ってくれるなんて、賢くて思いやりのあるビーらしいと思って泣いた。
Tに電話して、念のため清掃局の問い合わせを頼んだ。恐ろしくて、「絶対ないとは思うけど万が一のことが万が一あったとしても、そんなことはないとは絶対ないとは思うけど、私にはいわないで」と頼んだ。
しばらくするとTから電話があり、「この辺りで8月に入ってから猫の事故の記録はないって。大丈夫、ビーは事故なんかに遭う猫じゃないよ。どっかで遊んでるよ」。恐ろしくて嫌だったけど、この問い合わせをしたことで、事故の可能性はゼロだと確信することができた。
ビーはどこかにいて、ビーも私を探しているのだ。
夜もビーを探したけれど見つからなかった。
食事が喉をとおらず、何を食べても味がしなかったけれど、スイカだけは美味しく食べられた。