昨2日(2010年12月)菅首相と仲井真沖縄県知事と首相官邸で怪談した。会談ではない、怪談。
菅首相の口から怪談が飛び出した。
今回の沖縄知事選は普天間基地の移転先を占う重要な選挙だった。辺野古移設容認派の現職仲井真知事と国外移設強硬派の宜野湾市長伊波洋一氏とが早くから立候補の噂が立ち、最大公約数の沖縄県民の「国外・県外」の願いを受けて当初伊波氏がリードしていたが、これでは選挙に勝てないと見たからだろう、9月28日の沖縄県議会で「県外移設」を表明して転向、辺野古移設を決めた日米合意の見直しを求める立場に立った。
仲井真氏はその立場で就任後初めて沖縄県を視察した馬淵沖縄担当相と10月2日県庁で会談、「普天間飛行場の移設に関して日米共同発表を見直し、県外移設に取り組むよう要望」(asahi.com)している。
この転向が功を奏したのだろう、少なくとも基地移設問題では対立候補の伊波洋一氏と優劣殆んど差のない位置を取ることとなった。11月11日告示、11月28日投開票まで僅かリードのほぼ横一線の戦況を保ち、仲井真氏335708票、伊波氏297082票、約4万票近い差をつけて当選。
当選後の会見。《仲井真氏「県外」貫く 知事再選で会見》(沖縄タイムズ/2010年11月30日 09時32分)
仲井真知事「それ(県外移設の公約)で当選した。県内はない。辺野古は何十年もかければできるかもしれないが、ヤマト(本土)を探した方が早い。県内はもうあきらめた方がいい」
政府から基地建設のための公有水面埋め立て許可を求められた場合の対応について。
仲井真知事「辺野古案が現実性を持たない以上、やれないものを持ってきても対象にならない。実行不可能に近いものは考えないようにしている」
政府が辺野古移設を仲井真氏との協議に期待を寄せていることについて――
仲井真知事「極めて遺憾で実行不可能に近いと申し上げている状況で、期待しているのであれば全然話にならない」
政府が沖縄振興策と辺野古移設をリンクさせた場合の対応について。
仲井真知事「蛇口を閉めてもいいが、どうやってもできない。取引で沖縄に押し込めるという話ではない」――
「それ(県外移設の公約)で当選した」・・・・
この発言を記事は、〈2014年までの任期中、県外で)貫く方針を示した。〉としている。
県外移設を当選の担保として沖縄県民に差し出した。差し出したとおりに支払いを果たさなければならないとの決意であろう。いや、支払いを果たさなければ、公約上、当選は無効となる。公約上は当選を無効としながら、いわば県民に対する裏切りを行いながら、菅政権が公約上は国民を裏切り、政権担当の正当性を無効としながら国政に居座り続けているように県政に居座り続けるかどうかである。
いずれにしても仲井真知事は県外移設の公約をその背中に背負った。11月28日に再選を決めてから4日後の昨12月2日、基地問題に関して県外の公約を背負って首相官邸に乗り込んだ。このことは記者団公開の冒頭発言が証明している。
《首相“辺野古移設進めたい”》(NHK/2010年12月2日 12時40分)
仲井真知事「日米共同発表をぜひ見直して、県外移設の実現をお願いしたい。これが私の公約の大きな部分を占めている」
菅首相「知事の公約はよく拝見してきた。公約とは違うかもしれないが、政府としては、5月28日の日米合意の中で基地負担の軽減に努力し、しっかりと意見交換して、何とか方向性を見いだしたい」――
県外を公約として沖縄県民に審判を求め、最終的に民意の承認を受けた仲井真知事に対して当然僅か4日にして、「公約とは違うかもしれないが」と民意・公約への裏切りを要求した。自分たちがいくら公約破りの専門家で、民意・公約への裏切りに慣れているからといって、沖縄県民に対する公約変更までも要求するのは筋違いのまさしく怪談となる。
当選した以上、わざわざ断るまでもなく、公約は県民の民意とイコールをなしたことを意味する。それを「公約とは違うかもしれないが」とすること自体、菅首相が公約を民意とイコールと見ていないからできる。「沖縄県民の負担の痛み」を言いながら、痛みなど理解もせず、口先だけで言っているということである。
このことは相手を沖縄県民から日本国民に代えても同じで、口先だけの「国民のみなさん」だから菅政権はマニフェストを自由自在に「公約とは違う」ものにすることができる。
「知事の公約はよく拝見してきた」と言うなら、「それ(県外移設の公約)で当選した」のだから、その公約の最大限の実現に向けた支援を行うのが国政を担当する者の県政を担う者に対する使命のはずだ。
少なくとも戦前の沖縄戦から今日まで、沖縄には戦争、基地で極端・過重に強いてきた歴史的な負担のト-タルと全国土0・6%の沖縄県に米軍基地が75%も占めている今日の極端・加重なまま続いている基地負担を併せて和らげる政治的創造性を求められているはずである。
菅首相が言う「基地負担の軽減」は沖縄の歴史的な負担のトータルをも含めた「軽減」ではなく、それを置き去りにした、単に基地を受け入れさせるための交換条件として掲げた機械的なプラスマイナスの軽減の発想しかない。
最初に県内移設ありきだから、沖縄の負担の歴史を考えることもできず日本の安全保障のみを理由に基地負担の押付けができる。
野党時代は沖縄に米軍基地は要らないと言っていながらの、シラッーとした顔でできる「公約とは違うかもしれないが」の政治的創造性も何もない基地押し付けの怪談であろう。
もう一つの怪談。《普天間問題全国知事会 首相と出席知事の主なやりとり》(asahi.com/2010年5月27日21時7分)
5月27日(2010年)開催の全国知事会議出の発言。たった半年前の発言。
橋下徹大阪府知事「沖縄県などの犠牲の上に、大阪府民は安全をタダ乗りしている。普天間問題がクローズアップされ、チャンスだ。小学校の子どもですら、この問題を考えるようになった。ただ、自治体が動いても、米国からダメだと言われると動けない。2006年の米軍再編のロードマップを履行し、政府が第2段階の基地負担軽減というときに話を振ってもらえれば、できる限りのことはする。必要があれば、沖縄のみなさんにお願いをしに行き、大阪府民として申し訳ございませんと言いたい」
関西空港を念頭に入れた発言である。
《沖縄知事「辺野古移設は無理」…関空視察に意欲》(YOMIURI ONLINE/2010年11月30日01時46分)
11月29日(2010年)の那覇市内記者会見。
仲井真知事「本土の方が(沖縄より)空間が広いのでむしろ可能性がある。橋下(徹・大阪府)知事が『関空はどうか』と言っているので一度見てきたい」
《橋下知事また豹変「関空は受け皿にならぬ…神戸が良い」 普天間移設》(MSN産経/2010.11.30 12:12)
11月30日(2010年)の記者会見。
橋下府知事「政治状況は日々刻々と変わっている。残念ながら関空が基地負担軽減の受け皿になることはない」
橋下府知事「(関空と大阪空港(伊丹)の)経営統合が決まる前に政府から軍用の話をもちかけられていれば検討もありえたが、今はありえない」
橋下府知事「(仲井真沖縄知事が関空を視察すると言っていることについて)視察するなら先行きが見えない神戸空港が良い。僕も一緒についていく」
状況の変化を言うところは菅首相とそっくりである。
神戸空港は大阪府とは管轄外の神戸市営空港である。自分のところは厭なら、厭だと一言言えば済むはずだが、他人所有物を紹介して、そっちの方へ行けと言う。しかも、「僕も一緒についていく」と。
怪談以外の何ものでもない変節を見せている。
記事が、〈関西での基地負担受け入れをめぐっては、橋下知事はちょうど1年前のこの日に「国から申し入れがあれば(議論を)受け入れる方向で考えたい」と語っていた。〉と解説しているが、ほぼ1年前の12月1日(2009年)、次のように発言している。
《神戸市が橋下知事に抗議、普天間移設問題巡る発言で》(YOMIURI ONLINE/2009年12月4日)
橋下知事「関西空港に限らず、沖縄の基地負担軽減に資する空港は神戸空港だと思う」
このときから既に神戸空港を道道連れにしようとしていた。他処は他処、それを無視して道連れにしようとすること自体、無責任でなければできない。記事題名にあるように神戸市から抗議、神戸市長から批判を受けている。
神戸市幹部(府空港戦略室に電話があり)「他の自治体が管理運営する空港を、基地の移転先として例示するのはもってのほか」
人間が無責任に出来上がっていなければできな「例示」であろう。
矢田市長「神戸空港は市民の利便に資する、という考えで造った経緯がある。普天間の機能を引き受けるというのは議論する余地もない」――
真夏の夜でもないのに二つの怪談を見る気がした。政治の世界では国、地方関係なしによくある怪談なのかもしれない。
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